第百四十話「国王との謁見」
翌朝だった。
朝食が出た。
宿の食事だった。
見慣れない料理だった。
でも、うまかった。
食べ終わってから、王宮からの迎えが来た。
馬車だった。
紋章がついていた。
全員で乗った。
ミルヴァだけ残った。
「情報を集めてくる」
「お願いします」
「何かあれば動く」
「わかりました」
馬車が動いた。
王宮の門をくぐった。
大きかった。
衛兵が並んでいた。
石畳の廊下が続いた。
天井が高かった。
窓から庭が見えた。
手入れされた庭だった。
案内役が前を歩いた。
全員が続いた。
マユミが小声で言った。
「でかいな」
「はい」
「迷子になりそうだ」
「羅針盤があります」
「それは必要ない」
「そうですね」
コリンが小声で言った。
「緊張します」
「俺もします」
「ヒコさんも緊張するんですね」
「何度聞かれても、同じ答えです」
コリンが少し笑った。
廊下が続いた。
突き当たりに、大きな扉があった。
案内役が止まった。
「こちらでございます。準備ができましたら、お声がけください」
「少し待ってください」
全員が揃った。
俺は全員を見た。
「確認します。礼儀はリアさんから聞いた通りです。俺が話します。何か気になることがあれば、後で教えてください」
「はい」
「問題はありません」
「わかった」
「はい」
全員が頷いた。
「行きます」
案内役に声をかけた。
扉が開いた。
広い部屋だった。
天井がさらに高かった。
柱が並んでいた。
床に、紋章が描かれていた。
両側に、貴族らしい人間が並んでいた。
静かだった。
奥に、玉座があった。
男が座っていた。
年齢は五十代に見えた。
白髪が混じっていた。
静かな目をしていた。
俺は可視化で確認した。
色が見えた。
落ち着いた色だった。
濃かった。
品定めしている色だった。
でも、敵意はなかった。
全員で前に進んだ。
決められた位置で止まった。
頭を下げた。
国王が口を開いた。
「来たか」
静かな声だった。
低かった。
「はい。お召しにより参りました」
「顔を上げろ」
顔を上げた。
国王が全員を見た。
一人ずつ確認するように見た。
「五人か」
「はい。もう一人は外で待機しています」
「そうか」
「全員、Bランクだったな」
「はい」
「Bランクのパーティが、魔族の作戦を止めた」
俺は少し間を置いた。
「全員での成果です」
「一人の功績ではない、と言うか」
「そういう意味です」
国王が少し間を置いた。
「正直な男だ」
国王が少し前を向いた。
「其方、何をもって勝った」
俺は少し間を置いた。
「段取りと現場です」
国王が少し間を置いた。
「段取りと、現場」
「はい。何をするか決めて、現場で確認して、修正しながら動きました。それだけです」
「力ではない、と言うか」
「力も使いました。ただ、使いどころを間違えませんでした」
国王が静かに笑った。
小さい笑いだった。
でも、確かに笑った。
「面白い」
国王が全員を見た。
「其方たちに、報いたいと思っている」
「ありがとうございます」
「ただし、報いには条件がある」
「条件は」
「受け取ってもらえるか、確認したい」
俺は少し間を置いた。
「内容を聞いてから、判断させてください」
国王が少し間を置いた。
「正直だな」
「現場では、内容を確認せずに動くと、後で問題が出ます」
「そうか」
国王が少し前を向いた。
「称号を与えたい」
室内が静かになった。
「王国勲爵士だ。それに伴い、姓を与える。領地の授与権も生じる」
俺は少し間を置いた。
「領地、ですか」
「与えたい領地がある」
「どういう場所ですか」
国王が少し間を置いた。
「南方の辺境地だ。村が一つある。人口は少ない。魔物が頻出する。防衛機構はない」
「難しい場所ですか」
「難しい場所だ」
俺は少し間を置いた。
「それを、俺たちに渡す理由は」
「其方たちなら、何とかしてくれると思っている」
「根拠は」
「今回の件だ」
静かな答えだった。
俺は少し間を置いた。
難しい場所。
魔物が頻出する。
防衛機構がない。
村が一つ。
全部が問題だった。
でも、問題は現場に行けばわかる。
「一つだけ聞かせてください」
「何だ」
「その領地に、隠れた価値はありますか」
国王が少し間を置いた。
「なぜそれを聞く」
「難しい場所を渡す理由が、困り事の押し付けだけなら、別の判断があります。ただ、価値があるなら、受け取る理由になります」
国王が静かに笑った。
「よく見ている」
「現場仕込みなので」
「その通りだ。価値はある。ただし、今は言えん」
「現地で確認しろ、ということですか」
「そういうことだ」
俺は少し間を置いた。
「全員で相談してから、返答していいですか」
「構わん」
俺は全員を見た。
マユミが少し頷いた。
アーヴィンさんが静かに頷いた。
リアが言った。
「合理的な判断が必要です」
「はい」
コリンが言った。
「全員で動けるなら、問題はないと思います」
「ありがとうございます」
俺は国王を見た。
「受け取ります」
「そうか」
「ただし、条件があります」
国王が少し間を置いた。
「言ってみろ」
「パーティ全員が帯同できること。役割は我々が決めれること。現地の状況を確認し急がすことなく自由に動けること」
「それだけか」
「それだけです」
国王が少し間を置いた。
「認めよう」
「ありがとうございます」
国王が全員を見た。
「其方たちは、変わった冒険者だ」
「現場仕込みなので」
国王が少し笑った。
「そうか」
国王が立った。
「式典は明日だ。今日は休め」
「はい」
「一つだけ言っておく」
「はい」
「期待している」
俺は少し間を置いた。
「段取りを組んで、動きます」
国王が頷いた。
扉が開いた。
全員で部屋を出た。
廊下を歩いた。
全員が静かだった。
王宮の外に出た。
空が見えた。
晴れていた。
マユミが言った。
「領主になるのか」
「なるかもしれません」
「一緒に来てくれますか」
マユミが少し間を置いた。
「当然だ」
コリンが言った。
「領地、大変そうですね」
「大変です」
「でも、やれそうですか」
「段取りを組めば、やれます」
「そうですね」
リアが言った。
「魔術顧問として動きます」
「ありがとうございます」
アーヴィンさんが言った。
「俺も行く」
「ありがとうございます」
全員が揃っていた。
誰も、断らなかった。
俺は少し間を置いた。
「ありがとうございます。全員で行きます」
馬車が待っていた。
宿に戻った。
ミルヴァが部屋で待っていた。
「どうだった」
「領主になるかもしれません」
ミルヴァが少し間を置いた。
「領主か」
「辺境の、難しい場所です」
「諜報員として動けるな」
「お願いします」
「当然だ」
ミルヴァが少し間を置いた。
「悪くない」
「そうですか」
「情報屋より、組織の中で動く方が、使える手が多い」
「合理的ですね」
「そうだ」
全員が揃った。
七人目はいなかった。
先ずは六人。
でも、それで十分だった。
急がない。
止まらない。
明日、式典がある。
その後、新しい現場へ。
第百四十話「国王との謁見」了




