表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

139/193

第百三十九話「王都」

 三日後だった。


 朝だった。


 馬車の窓から、王都が見えてきた。


 大きかった。


 城壁が地平線まで続いていた。


 塔が並んでいた。


 旗が風に揺れていた。


 マユミが窓から身を乗り出した。


「でかいな」


「はい」


「街と全然違う」


「規模が違います」


 コリンが言った。


「思っていたより大きいです」


「俺も」


 リアが静かに窓を見ていた。


「合理的な都市設計です」


「そうですか」


「城壁の構造が、防衛と流通を両立しています。設計した人間の意図が見えます」


 リアらしかった。


 馬車が門に近づいた。


 門が大きかった。


 衛兵が並んでいた。


 馬車が止まった。


 御者が書状を出した。


 衛兵が確認した。


 少し待った。


 門が開いた。


 馬車が中に入った。


 人が多かった。


 音が多かった。


 匂いが多かった。


 食べ物の匂い。


 馬の匂い。


 石畳の匂い。


 全部が混ざっていた。


 アーヴィンさんが静かに言った。


「人が多い」


 全員が少し笑った。


 三日前と同じ言葉だった。


「はい。人が多いです」


 馬車が進んだ。


 大きな通りだった。


 石畳が続いた。


 両側に建物が並んでいた。


 商店があった。


 人が行き交っていた。


 マユミが窓の外を見ていた。


「活気があるな」


「はい」


「俺たちの街とは違う」


「規模が違います。でも、やっていることは同じです」


「どういう意味だ」


「買う人間がいて、売る人間がいて、動いている。現場は同じです」


 マユミが少し間を置いた。


「そうか」


 馬車が止まった。


 宿だった。


 大きな宿だった。


 王都の手配だった。


 御者が言った。


「こちらでお待ちください。明日、王宮からのお迎えが来ます」


「わかりました」


 全員が降りた。


 宿の扉を開けた。


 中が広かった。


 天井が高かった。


 床が磨かれていた。


 俺たちがいつもいる宿とは、全然違った。


 ミルヴァが小声で言った。


「場違いだ」


「そうですね」


「お前は慣れているのか」


「慣れていません。ただ、段取りは同じです。まず部屋を確認して、周囲の状況を把握する」


「現場か」


「どこでも現場です」


 ミルヴァが少し笑った。


 受付で部屋の確認をした。


 六人分、部屋が用意されていた。


 全員が部屋に入った。


 俺の部屋は広かった。


 ベッドが柔らかかった。


 窓から、王都の街が見えた。


 遠くに、王宮の塔が見えた。


 俺は羅針盤を確認した。


 針が、静かだった。


 揺れていなかった。


 落ち着いていた。


 荷物を整えた。


 それから、全員で食事に出た。



 宿の食堂だった。


 料理が並んだ。


 見慣れないものがあった。


 マユミが皿を見た。


「これは何だ」


「わかりません」


「食えるのか」


「食べてみないとわかりません」


 マユミが少し間を置いた。


 それから、食べた。


「うまい」


「そうですか」


 俺も食べた。


 うまかった。


 マルティナさんの料理とは違う味だった。


 でも、うまかった。


 コリンが言った。


「明日、王宮に行くんですね」


「はい」


「緊張します」


「俺もします」


「ヒコさんも緊張するんですか」


「します。ただ、段取りが決まっていれば、緊張しても動けます」


「段取りは決まっていますか」


「呼ばれて、会って、話す。それだけです」


「シンプルですね」


「複雑にしても仕方がありません」


 リアが言った。


「礼儀は守る必要があります」


「はい。何か注意点はありますか」


「国王陛下の前では、まず頭を下げる。発言は許可を得てから。直接視線を合わせすぎない」


「わかりました」


「ただし」


 リアが少し間を置いた。


「必要以上にへりくだらなくていいと思います。今回は呼ばれた側です」


「合理的ですね」


「そうです」


 アーヴィンさんが静かに食べていた。


 ミルヴァが言った。


「俺は外で情報を集める。明日の式典中も、外で動く」


「わかりました。何かあれば知らせてください」


「当然だ」


 全員が食べた。


 うまかった。


 食べ終わってから、部屋に戻った。


 窓から夜の王都を見た。


 明かりが多かった。


 街全体が光っていた。


 俺たちの街も明かりはあった。


 でも、規模が違った。


 マユミが隣の部屋から来た。


 扉を叩いた。


「入っていいか」


「はい」


 マユミが入った。


 窓の外を見た。


「明かりが多いな」


「はい」


「こんな場所が世界にあるとは思わなかった」


「俺も同じです」


 マユミが少し間を置いた。


「ヒコ」


「はい」


「前の世界では、こういう場所はあったか」


 俺は少し間を置いた。


「ありました。もっと大きい場所も」


「そうか」


「ただ、今はここが現場です」


 マユミが少し前を向いた。


「そうだな」


 しばらく、二人で窓の外を見た。


 明かりが続いていた。


 遠くに、王宮の塔が見えた。


 明日、あそこに行く。


「マユミさん」


「なんだ」


「緊張していますか」


「している。ただ」


 マユミが少し間を置いた。


「全員いるから、大丈夫だ」


 俺は少し間を置いた。


「そうですね」


「お前がいるから、大丈夫だ」


「俺もマユミさんがいるから、大丈夫です」


 マユミが少し笑った。


「そうか」


 しばらく静かだった。


 マユミが部屋を出た。


「おやすみ」


「おやすみなさい」


 扉が閉まった。


 静かになった。


 俺は羅針盤を確認した。


 針が、北を向いていた。


 揺れていなかった。


 まっすぐだった。


 明日、王宮に行く。


 何が決まるかは、まだわからない。


 でも、段取りは同じだ。


 呼ばれて、会って、話す。


 急がない。


 止まらない。


第百三十九話「王都」了


━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━

次回予告 第百四十話「国王との謁見」

━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━


 翌朝だった。


 王宮からの迎えが来た。


 全員が馬車に乗った。


 王宮の門をくぐった。


 廊下が長かった。


 天井が高かった。


 案内された部屋の前で、立った。


 扉が開いた。


 広い部屋だった。


 奥に、玉座があった。


 男が座っていた。


 年齢は、五十代に見えた。


 静かな目をしていた。


 俺は可視化で確認した。


 色が見えた。


 落ち着いた色だった。


 品定めしている色だった。


 国王が口を開いた。


「来たか」


第百三十九話「王都」了

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ