第百三十九話「王都」
三日後だった。
朝だった。
馬車の窓から、王都が見えてきた。
大きかった。
城壁が地平線まで続いていた。
塔が並んでいた。
旗が風に揺れていた。
マユミが窓から身を乗り出した。
「でかいな」
「はい」
「街と全然違う」
「規模が違います」
コリンが言った。
「思っていたより大きいです」
「俺も」
リアが静かに窓を見ていた。
「合理的な都市設計です」
「そうですか」
「城壁の構造が、防衛と流通を両立しています。設計した人間の意図が見えます」
リアらしかった。
馬車が門に近づいた。
門が大きかった。
衛兵が並んでいた。
馬車が止まった。
御者が書状を出した。
衛兵が確認した。
少し待った。
門が開いた。
馬車が中に入った。
人が多かった。
音が多かった。
匂いが多かった。
食べ物の匂い。
馬の匂い。
石畳の匂い。
全部が混ざっていた。
アーヴィンさんが静かに言った。
「人が多い」
全員が少し笑った。
三日前と同じ言葉だった。
「はい。人が多いです」
馬車が進んだ。
大きな通りだった。
石畳が続いた。
両側に建物が並んでいた。
商店があった。
人が行き交っていた。
マユミが窓の外を見ていた。
「活気があるな」
「はい」
「俺たちの街とは違う」
「規模が違います。でも、やっていることは同じです」
「どういう意味だ」
「買う人間がいて、売る人間がいて、動いている。現場は同じです」
マユミが少し間を置いた。
「そうか」
馬車が止まった。
宿だった。
大きな宿だった。
王都の手配だった。
御者が言った。
「こちらでお待ちください。明日、王宮からのお迎えが来ます」
「わかりました」
全員が降りた。
宿の扉を開けた。
中が広かった。
天井が高かった。
床が磨かれていた。
俺たちがいつもいる宿とは、全然違った。
ミルヴァが小声で言った。
「場違いだ」
「そうですね」
「お前は慣れているのか」
「慣れていません。ただ、段取りは同じです。まず部屋を確認して、周囲の状況を把握する」
「現場か」
「どこでも現場です」
ミルヴァが少し笑った。
受付で部屋の確認をした。
六人分、部屋が用意されていた。
全員が部屋に入った。
俺の部屋は広かった。
ベッドが柔らかかった。
窓から、王都の街が見えた。
遠くに、王宮の塔が見えた。
俺は羅針盤を確認した。
針が、静かだった。
揺れていなかった。
落ち着いていた。
荷物を整えた。
それから、全員で食事に出た。
宿の食堂だった。
料理が並んだ。
見慣れないものがあった。
マユミが皿を見た。
「これは何だ」
「わかりません」
「食えるのか」
「食べてみないとわかりません」
マユミが少し間を置いた。
それから、食べた。
「うまい」
「そうですか」
俺も食べた。
うまかった。
マルティナさんの料理とは違う味だった。
でも、うまかった。
コリンが言った。
「明日、王宮に行くんですね」
「はい」
「緊張します」
「俺もします」
「ヒコさんも緊張するんですか」
「します。ただ、段取りが決まっていれば、緊張しても動けます」
「段取りは決まっていますか」
「呼ばれて、会って、話す。それだけです」
「シンプルですね」
「複雑にしても仕方がありません」
リアが言った。
「礼儀は守る必要があります」
「はい。何か注意点はありますか」
「国王陛下の前では、まず頭を下げる。発言は許可を得てから。直接視線を合わせすぎない」
「わかりました」
「ただし」
リアが少し間を置いた。
「必要以上にへりくだらなくていいと思います。今回は呼ばれた側です」
「合理的ですね」
「そうです」
アーヴィンさんが静かに食べていた。
ミルヴァが言った。
「俺は外で情報を集める。明日の式典中も、外で動く」
「わかりました。何かあれば知らせてください」
「当然だ」
全員が食べた。
うまかった。
食べ終わってから、部屋に戻った。
窓から夜の王都を見た。
明かりが多かった。
街全体が光っていた。
俺たちの街も明かりはあった。
でも、規模が違った。
マユミが隣の部屋から来た。
扉を叩いた。
「入っていいか」
「はい」
マユミが入った。
窓の外を見た。
「明かりが多いな」
「はい」
「こんな場所が世界にあるとは思わなかった」
「俺も同じです」
マユミが少し間を置いた。
「ヒコ」
「はい」
「前の世界では、こういう場所はあったか」
俺は少し間を置いた。
「ありました。もっと大きい場所も」
「そうか」
「ただ、今はここが現場です」
マユミが少し前を向いた。
「そうだな」
しばらく、二人で窓の外を見た。
明かりが続いていた。
遠くに、王宮の塔が見えた。
明日、あそこに行く。
「マユミさん」
「なんだ」
「緊張していますか」
「している。ただ」
マユミが少し間を置いた。
「全員いるから、大丈夫だ」
俺は少し間を置いた。
「そうですね」
「お前がいるから、大丈夫だ」
「俺もマユミさんがいるから、大丈夫です」
マユミが少し笑った。
「そうか」
しばらく静かだった。
マユミが部屋を出た。
「おやすみ」
「おやすみなさい」
扉が閉まった。
静かになった。
俺は羅針盤を確認した。
針が、北を向いていた。
揺れていなかった。
まっすぐだった。
明日、王宮に行く。
何が決まるかは、まだわからない。
でも、段取りは同じだ。
呼ばれて、会って、話す。
急がない。
止まらない。
第百三十九話「王都」了
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次回予告 第百四十話「国王との謁見」
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翌朝だった。
王宮からの迎えが来た。
全員が馬車に乗った。
王宮の門をくぐった。
廊下が長かった。
天井が高かった。
案内された部屋の前で、立った。
扉が開いた。
広い部屋だった。
奥に、玉座があった。
男が座っていた。
年齢は、五十代に見えた。
静かな目をしていた。
俺は可視化で確認した。
色が見えた。
落ち着いた色だった。
品定めしている色だった。
国王が口を開いた。
「来たか」
第百三十九話「王都」了




