第百三十七話「その後と、次の話」
翌日だった。
朝食が出た。
具だくさんのスープだった。
厚切りのパンがついていた。
卵が一つ乗っていた。
少し良い日の食事だった。
全員が食べた。
食べ終わってから、セリウスさんに呼ばれた。
マスター室だった。
全員で向かった。
扉を開けた。
見慣れない人間がいた。
身なりが良かった。
姿勢が真っすぐだった。
外套に、紋章がついていた。
王都の紋章だった。
セリウスさんが言った。
「王都から、使者の方が来ています」
使者が全員を見た。
「パーティの皆さんに、王都へお越しいただきたい」
俺は少し間を置いた。
「理由は」
「国王陛下が、直接お会いになりたいとのことです」
室内が静かになった。
マユミが俺を見た。
俺は少し間を置いた。
「いつまでに、ですか」
「一週間以内にご出発いただければ」
「王都までの距離は」
「馬車で三日ほどです」
「わかりました。準備を整えてから、出発します」
使者が頷いた。
「では、準備が整いましたら、ご連絡ください。馬車と護衛を手配します」
「ありがとうございます」
使者が部屋を出た。
室内が静かになった。
マユミが言った。
「国王に会いに行くのか」
「そのようです」
「緊張するな」
「します」
「お前が緊張するのか」
「する理由がある場面では、します」
マユミが少し笑った。
「そうか」
セリウスさんが言った。
「報告と処理が先です。順番に片付けましょう」
「はい」
午前中は報告だった。
魔核の破壊。
ベルガンの身柄確保。
《無名の踏域》の状況。
順番に話した。
セリウスさんが書き取った。
途中でセリウスさんが言った。
「ベルガンと対話した、とのことですが」
「はい」
「どんな内容でしたか」
俺は少し間を置いた。
「計算が終わった人間の話でした」
「計算が終わった」
「はい。続けることに意味がなくなったと言っていました。合理的な判断だと思います」
セリウスさんが少し間を置いた。
「ベルガンとは、昔から知り合いです」
「そうですか」
「今は、それだけにしておきます」
「わかりました」
セリウスさんが書類を整えた。
「報酬の件ですが」
「はい」
「ベルガン身柄確保と魔核破壊、それとグラズ討伐を合わせた報酬になります。計算が終わり次第、お伝えします」
「ありがとうございます」
「ただし、今回は本部からの報奨金も別途出る予定です。魔族側の作戦を止めたことへの評価です」
「報奨金、ですか」
「詳細はまだ出ていません。王都に行けば、そちらで確定するかもしれません」
俺は少し間を置いた。
報奨金。
王都。
国王との面会。
全部が、つながっていた。
「セリウスさん」
「はい」
「国王との面会は、叙勲に関係しますか」
セリウスさんが少し間を置いた。
「可能性はあります。ただ、確認は取れていません」
「そうですか」
「ヒコさんは、そういったことに興味がありますか」
俺は少し間を置いた。
「興味、というより。何かが変わるなら、段取りを知っておきたいです」
セリウスさんが静かに笑った。
「そうですか」
「急ぎませんが、把握しておきたいです」
「わかりました。わかり次第、お伝えします」
午後だった。
マユミがカゲツに会いに行った。
俺も一緒に行った。
ギルドの施設だった。
小さな部屋だった。
カゲツが椅子に座っていた。
マユミを見た。
「来たか」
「来た」
マユミが椅子を引いた。
向かいに座った。
俺は少し離れた場所に立った。
二人の話だった。
しばらくして、カゲツが俺を見た。
「お前も座れ」
「ありがとうございます」
俺も座った。
カゲツが言った。
「終わったそうだな」
「はい。魔核は破壊しました。ベルガンも確保しました」
「そうか」
カゲツが少し間を置いた。
「王都に行くのか」
「来週、出発します」
「国王に会うのか」
「そうなるかもしれません」
カゲツが少し間を置いた。
「叙勲があるかもしれない」
「可能性はあると聞きました」
「そうなれば、マユミも貴族になる」
マユミが少し前を向いた。
「俺が、貴族か」
「連れ合いが爵位を持てば、そうなる可能性がある」
マユミが俺を見た。
俺は少し間を置いた。
「まだ確定していません」
「わかってる。でも」
マユミが少し間を置いた。
「変な感じだな」
「同感です」
カゲツが静かに言った。
「変わっても、やることは同じだ」
俺はその言葉を聞いた。
少し間を置いた。
「そうですね」
「肩書きが変わっても、現場は現場だ」
「はい」
カゲツが少し前を向いた。
「それがわかっているなら、大丈夫だ」
俺は少し間を置いた。
「カゲツさんは、これからどうしますか」
「しばらくはここにいる。セリウスに世話になる」
「その後は」
「まだわからない。ただ」
カゲツが少し間を置いた。
「マユミが落ち着いたら、近くにいようと思う」
マユミが少し前を向いた。
何も言わなかった。
でも、色が変わった。
柔らかい色だった。
「父さん」
「何だ」
「王都から戻ったら、飯を食いに来い」
カゲツが少し間を置いた。
「マルティナのところか」
「そうだ」
「世話になるな」
「俺の宿だ。問題ない」
カゲツが少し笑った。
初めて見る笑い方だった。
マユミに少し似ていた。
俺は何も言わなかった。
でも、それが全部だった。
宿に戻った。
夕方だった。
全員が食卓に集まった。
アーヴィンさんが言った。
「王都に行く前に、確認したいことがある」
全員が静かになった。
「レインの件だ」
俺は少し間を置いた。
「はい」
「ベルガンが止めなかった。仲介業者が動いた。それはわかった」
「はい」
「仲介業者の残党は、まだいる」
「います」
「それは、王都に行く前に片付けるべきか」
俺は少し間を置いた。
「今の俺たちの力では、全部は片付けられません。ただ」
「ただ」
「王都に行くことで、動ける範囲が広がる可能性があります。叙勲があれば、動ける立場が変わります」
「待つということか」
「急ぎません。でも、止まりません。王都で動ける範囲を広げてから、続きを片付けます」
アーヴィンさんが少し間を置いた。
「わかった」
短かった。
でも、それで十分だった。
ミルヴァが言った。
「王都に行く間、情報は集め続ける。残党の動きを追う」
「お願いします」
「当然だ」
リアが言った。
「王都では、師匠の件についても動けるかもしれません」
「そうですね。リアさんとコリンさんの師匠の件も、王都で動ける情報があるかもしれません」
「はい。期待はしていませんが、可能性はあります」
「把握しておきます」
コリンが言った。
「出発まで、一週間ありますね」
「はい。装備の確認と、補給の準備をお願いします」
「わかりました」
全員が頷いた。
俺は羅針盤を確認した。
針が、静かに北を向いていた。
揺れていなかった。
まっすぐだった。
安定していた。
一段落した。
次が来る。
でも、今日は今日だ。
急がない。
止まらない。
王都へ、次の現場へ。
第百三十七話「その後と、次の話」了




