第百十三話「評価と、昇格と」
ギルドに戻った。
セリウスさんの部屋に通された。
全員が座った。
セリウスさんが向かいに座った。
書類が手元にあった。
全員が静かだった。
「今回の依頼について、評価を伝えます」
誰も何も言わなかった。
「結論から言います」
セリウスさんが全員を見た。
「パーティとして、Bランクに相当すると判断します」
静かになった。
長い静かさだった。
マユミが言った。
「全員か」
「全員です」
「ミルヴァも、か」
「はい。今回の戦闘での連携を評価しました。ミルヴァさんの正規昇格です」
ミルヴァが少し間を置いた。
「そうか」
「異論はありますか」
「ない」
短かった。
でも、色が少し変わった。
灰色に近い色の中に、温かいものが混ざった。
珍しかった。
セリウスさんが続けた。
「評価の根拠を説明します」
「お願いします」
「まず、三方向同時の脅威に対して、役割を崩さずに対応したことです」
「はい」
「正面制圧、群れ対応、奇襲対応。それぞれが独立して機能していました」
「全員が役割を持っていたので」
「そうですね。ただ、それだけではありません」
セリウスさんが俺を見た。
「途中で状況が変わりました。アーヴィンさんの体力消耗、マユミさんの軽傷。それに対して、指揮が即座に対応した」
「対応が遅れると崩れるので」
「遅れませんでした。それが評価の核です」
アーヴィンさんが静かに言った。
「交代を指示されたとき、素直に従った」
「そうですね」
「以前の俺なら、従わなかったかもしれない」
静かになった。
アーヴィンさんが少し前を向いた。
「それが変わった」
セリウスさんが頷いた。
「そういうことです。個ではなく、組織として機能している。それがBランクの判断基準です」
「ありがとうございます」
「礼は不要です。結果を出したのはあなたたちです」
セリウスさんが書類を手に取った。
「手続きを進めます。全員のランクがBに更新されます。固定給も変わります」
「確認させてください」
「はい。ヒコさん、マユミさん、コリンさん、ミルヴァさんがCからBへ。リアさんとアーヴィンさんは現状維持です」
「わかりました」
「固定給はBランク、金貨五枚。来月から適用になります」
「全員ですか」
「全員です」
マユミが少し前を向いた。
「金貨五枚か」
「そうです」
「月に、全員が金貨五枚か」
「はい」
「すごいな」
「そうですね」
マユミが少し笑った。
「父親に言いたいな」
静かになった。
俺は少し間を置いた。
「言えますよ、いつか」
「そうだな」
マユミが少し前を向いた。
「そうだな」
繰り返した。
それだけだった。
コリンが言った。
「全員Bランクになりましたね」
「そうですね」
「アーヴィンさんが言っていた通りになりました」
「そうですね」
アーヴィンさんが言った。
「言っただけだ」
「でも、なりました」
「そうだな」
アーヴィンさんが少し前を向いた。
「止まらない」
静かに言った。
でも、その言葉が、部屋に残った。
リアが言った。
「次の課題を整理する必要があります」
「そうですね」
「Bランクになったことで、依頼の規模が変わります。それに対応する準備が必要です」
「合理的ですね」
「はい」
マユミが笑った。
「リアは、すぐそういうことを言うな」
「問題はありません」
「褒めてる」
「そうですか」
ミルヴァが言った。
「次が来る、ということだな」
「そうです」
「わかった」
ミルヴァが少し前を向いた。
「準備する」
「お願いします」
セリウスさんが立った。
「一つだけ」
「はい」
「今日のこと、よく覚えておいてください」
「どういう意味ですか」
「Bランクになったことではありません」
セリウスさんが全員を見た。
「六人が、一つの部隊として動けた日のことを」
静かになった。
「それが、今日の本当の成果です」
全員が少し間を置いた。
「はい」
「わかりました」
「覚えておきます」
「はい」
セリウスさんが部屋を出た。
全員が残った。
しばらく、誰も何も言わなかった。
マユミが言った。
「行くか」
「はい」
「腹が減った」
「そうですね」
「マルティナさんの飯が食いたい」
「俺もです」
全員が立った。
ギルドを出た。
夕方だった。
空が、橙色になっていた。
六人で歩いた。
宿に向かった。
宿に入った。
マルティナさんがいた。
全員を見た。
一人ずつ確認した。
六人、全員いた。
「帰ったか」
「はい」
「全員か」
「全員です」
マルティナさんが少し間を置いた。
「座れ」
全員が座った。
マルティナさんが夕食を出した。
丸焼き肉だった。
シチューがついていた。
白パンが並んでいた。
蜂蜜菓子が、小さな皿に乗っていた。
特別な日の食事だった。
六人分、きっちり並んでいた。
何も言わなかった。
でも、わかった。
「いただきます」
うまかった。
マユミが丸焼き肉を見た。
「これは」
「特別な日の食事です」
「マルティナさんが知ってるのか」
「そういう方なので」
「すごいな」
「はい」
マルティナさんが厨房から顔を出した。
「うるさい。食え」
「はい」
全員が笑った。
ミルヴァも、今日は声が出た。
食べた。
うまかった。
蜂蜜菓子は、甘かった。
こちらの世界に来てから、甘いものをあまり食べていなかった。
でも、今日は食べた。
うまかった。
六人が、同じ飯を食っていた。
全員Bランクになった日だった。
でも、それより大事なことがあった。
六人が、一つの部隊として動けた日だった。
セリウスさんが言っていた。
その通りだと思った。
現場は、肩書じゃない。
動けるかどうかだ。
今日、動けた。
それだけだった。
うまかった。
次が来る。
でも、今は食べる。
こっちの世界でも、叩き上げでいく。
段取りを組んで、全員で動いて、帰ってくる。
それが、俺のやり方だった。
それにしても何かを成し遂げた飯はうまかった。
第百十三話「評価と、昇格と」 了




