第百十二話「複合環境エリア、第二・第三段階」
三方向だった。
前方にストーンセンチネル。
後方にミストアルファの残り。
側面に、気配。
ミルヴァが側面を向いた。
「シャドウストーカーだ。あたしと同じ系統の動き方をする」
「見えますか」
「見えない。でも、わかる」
「どこにいますか」
「右側面、岩の陰。まだ動いていない。タイミングを計っている」
「後衛を狙っていますか」
「そうだ。あたしが動けば、それに合わせて動く可能性がある」
俺は少し考えた。
三方向同時だった。
一つずつ処理する余裕はなかった。
全員が同時に動く必要があった。
「段取りを組みます。全員聞いてください」
「了解」
「アーヴィンさんはストーンセンチネルの足止め。正面を崩さないでください。ただし、仕留めなくていいです。引きつけるだけでいい」
「わかった」
「マユミは後方の狼を。数は多くないはずです。速攻で片付けてください」
「わかった」
「コリンさんは後衛全員を結界で包んでください。シャドウストーカーの奇襲に備えます」
「はい。展開します」
「リアさんは索敵を後衛側に集中してください。シャドウストーカーが動いた瞬間、声を出してください」
「わかりました」
「ミルヴァさんはシャドウストーカーを担当してください。同系統なら、動き方が読めるはずです」
「わかった」
「俺は全員の位置を把握しながら、優先順位を調整します。状況が変わったら、すぐに声を出してください」
「了解」
「でははじめます。急ぎません。でも、止まらない」
全員が動いた。
アーヴィンさんがストーンセンチネルに向かった。
巨大だった。
《沈黙の長剣》が岩の体に当たった。
火花が散った。
防御が厚かった。
傷がつかなかった。
でも、アーヴィンさんは引かなかった。
正面から当たり続けた。
引きつけていた。
「足止めできています」
「わかった。このまま続ける」
マユミが後方に走った。
狼の残りが三体来ていた。
ミストアルファの群れの残党だった。
統率個体が消えて、動きが単調になっていた。
マユミが踏み込んだ。
カグラが走った。
一体。
ヒナギが続いた。
もう一体。
速かった。
残り一体がマユミに飛びかかった。
マユミが一歩引いた。
躱した。
そのままカグラで斬った。
「後方、片付きました」
「ありがとうございます」
後方が消えた。
前方はアーヴィンさんが抑えていた。
残りは、側面だった。
リアが言った。
「動きました。右側面から後衛に向かっています」
「ミルヴァさん」
「見えた」
ミルヴァが動いた。
シャドウストーカーが動いた。
同時だった。
シャドウストーカーがコリンを狙った。
コリンの結界に当たった。
弾かれた。
一瞬、止まった。
ミルヴァがその瞬間に入った。
背後から、一撃だった。
音がしなかった。
シャドウストーカーが、倒れた。
「片付いた」
「ありがとうございます」
後衛が安全になった。
残りはストーンセンチネルだった。
アーヴィンさんが足止めを続けていた。
でも、長くは続かなかった。
体力の消耗が、色に出始めていた。
「アーヴィンさんの色が変わっています。交代が必要です」
「まだ動ける」
「動けますが、無理は禁物です」
「……わかった」
「マユミ、前に出てください。アーヴィンさんと交代します」
「了解」
マユミが前に出た。
アーヴィンさんが下がった。
コリンが素早く回復魔法をかけた。
「ありがとう」
「はい」
マユミがストーンセンチネルと向き合った。
大きかった。
岩の体だった。
短剣では、傷がつかなかった。
「弱点はどこですか」
リアが言った。
「岩殻の継ぎ目です。関節部分に隙間があります。そこが弱い」
「見えますか」
「右膝の継ぎ目が一番大きいです」
マユミが右膝を見た。
継ぎ目があった。
隙間があった。
「そこか」
マユミが踏み込んだ。
ストーンセンチネルが腕を振った。
大きかった。
マユミが躱した。
一歩引いた。
もう一度踏み込んだ。
右膝の継ぎ目に、カグラを入れた。
抵抗があった。
でも、入った。
ストーンセンチネルが揺れた。
崩れなかった。
でも、動きが鈍くなった。
「もう一度です」
「わかった」
マユミが再び踏み込んだ。
そのとき、コリンが言った。
「結界、限界が近づいています」
「あとどのくらいですか」
「三分ほどです」
「わかりました。急ぎます」
リアが言った。
「風魔法で継ぎ目を広げます。一瞬だけ隙間が大きくなります」
「お願いします」
リアが風魔法を集中させた。
継ぎ目に、風が入った。
隙間が、少し広がった。
「今です」
マユミが踏み込んだ。
今度は両手だった。
カグラとヒナギが、同時に継ぎ目に入った。
光が走った。
赤かった。
熱があった。
継ぎ目から、何かが砕けた。
ストーンセンチネルが、揺れた。
大きく揺れた。
倒れた。
音がした。
重い音だった。
地面が揺れた。
静かになった。
全員が止まった。
俺は全員の色を確認した。
六つ、全部あった。
ただ、一つが少し変わっていた。
マユミの色だった。
オレンジに近い赤が、少し暗くなっていた。
「マユミ、状態を確認してください」
マユミが少し間を置いた。
「左腕、少し痛い」
「いつですか」
「ストーンセンチネルの腕を躱したとき、岩に当たった」
「コリンさん」
「はい。今すぐ診ます」
コリンがマユミに近づいた。
確認した。
「裂傷です。深くはないです。回復魔法で対応できます」
「お願いします」
「はい」
コリンが回復魔法をかけた。
マユミが少し息を吐いた。
「治った」
「傷は塞がっています。ただ、無理はしないでください」
「わかった」
全員が止まった。
静かだった。
三方向の脅威が、消えた。
前後左右、全部片付いた。
俺は少し間を置いた。
「全員、状態を確認してください」
「問題ない」
「はい、大丈夫です」
「問題はありません」
「こちらも」
「回復しました」
全員が応えた。
誰も、欠けていなかった。
マユミが左腕を動かした。
「動く」
「よかったです」
「コリンの回復は早いな」
「ありがとうございます」
「褒めてる」
「そうですか」
コリンが少し笑った。
ミルヴァが言った。
「シャドウストーカーは、思ったより弱かった」
「そうですか」
「あたしより劣る。でも、一般的な冒険者なら後衛を崩せる」
「コリンさんの結界があったから、止められました」
「そうだな」
コリンが言った。
「結界、まだ少し余裕があります」
「そうですか。本番で使ったわりに、よく保ちましたね」
「練習の成果です」
「そうですね」
リアが言った。
「全脅威を排除しました。エリアの確認を続けますか」
「はい。もう少し奥を確認して、報告に戻ります」
「わかりました」
全員が動いた。
岩場を進んだ。
霧の中を、慎重に歩いた。
奥に、何もなかった。
静かだった。
脅威は、消えていた。
引き返した。
入口が見えてきた。
セリウスさんが、そこにいた。
全員が出てきたのを確認した。
一人ずつ見た。
「全員、無事ですね」
「はい。マユミが軽傷でしたが、コリンさんが対応しました」
「そうですか」
セリウスさんが少し前を向いた。
「見ていました」
「どうでしたか」
セリウスさんが少し間を置いた。
「話は、戻ってからにしましょう」
「わかりました」
全員が歩き始めた。
街へ向かった。
セリウスさんの言葉が、頭に残った。
話は戻ってから。
それが、どういう意味かは、わかっていた。
でも、急ぎません。
今は、歩く。
それだけだった。
第百十二話「複合環境エリア、第二・第三段階」 了




