第百十一話「複合環境エリア、第一段階」
複合環境エリアに入った。
入口は、岩の隙間だった。
狭かった。
二人並んで通れる程度だった。
抜けると、開けた。
霧があった。
岩場があった。
霧と岩が、交互にあった。
視界が三メートルほどだった。
足元は岩だった。
平らではなかった。
亀裂があった。
段差があった。
前回の霧の中とは、違った。
足元を見ながら動く必要があった。
セリウスさんが、入口の外にいた。
観察者として同行していた。
中には入らなかった。
入口から、見ていた。
ミルヴァが言った。
「先行する」
「お願いします。ただ、岩場での隠密は」
「確認しながら動く。問題があれば戻る」
「わかりました」
ミルヴァが前に出た。
今回は、すぐには消えなかった。
岩を確認しながら、慎重に進んだ。
少し経ってから、消えた。
足元を読みながら動いていた。
いつもより時間がかかっていた。
それでよかった。
無理をさせる場面ではなかった。
羅針盤を確認した。
針が動いていた。
複数の反応があった。
前方と、左側と、後方だった。
「三方向に反応があります。前方が一番強い」
リアが言った。
「索敵を開始します」
風魔法が走った。
霧が少し動いた。
前方に、形が見えた。
「前方、複数います。小型ではない」
「数は」
「四体以上。霧で正確には読めません」
ミルヴァが戻ってきた。
「前方に狼型の上位種が六体。群れを組んでいる。統率個体が一体いる」
「ミストアルファですか」
「そうだ。霧の中で連携している。陽動が得意なタイプだ」
「わかりました」
段取りを組んだ。
「アーヴィンさんが正面を受けてください。マユミは左側に回って陽動を崩す。ミルヴァさんは統率個体を狙ってください。統率個体を落とせば、群れの連携が崩れます」
「わかった」
「了解」
「リアさんは援護と霧の制御。コリンさんは結界を展開して後方を守ってください。左側と後方にも反応があります」
「はい」
「了解です」
「俺は全員の位置を把握しながら指示を出します。声を出してください」
「わかった」
全員が動いた。
ミストアルファの群れが来た。
早かった。
霧の中から、一斉に飛び出してきた。
陽動だった。
三体が正面から来た。
残りが左右に散った。
アーヴィンさんが正面の三体を受けた。
《沈黙の長剣》が走った。
音がなかった。
一体を仕留めた。
二体が引いた。
陽動だった。
「引きます。追わないでください」
「わかってる」
マユミが左に動いた。
散った二体が、後衛を狙っていた。
「左、二体。後衛に向かっています」
「見えてる」
マユミが一体に踏み込んだ。
カグラが走った。
一体を仕留めた。
もう一体が方向を変えた。
コリンに向かった。
「コリンさん、右から来ます」
「結界、展開しています」
狼が結界に当たった。
弾かれた。
リアが風魔法で吹き飛ばした。
「仕留めました」
「ありがとうございます」
右側からも来た。
二体だった。
「右、二体。ミルヴァさん、統率個体は」
「追っている。もう少し」
「わかりました。右の二体はリアさんと俺で対応します」
「了解です」
二体が近づいてきた。
俺は羅針盤を構えた。
戦闘員ではなかった。
でも、動く必要があった。
一体が俺に飛びかかった。
躱した。
後ろに下がった。
リアが風魔法を飛ばした。
一体を壁に叩きつけた。
動かなくなった。
もう一体が俺の背後を狙った。
その瞬間だった。
音がした。
短い音だった。
狼が、倒れた。
ミルヴァだった。
「統率個体は片付いた。こっちに来た」
「ありがとうございます」
「礼はいい」
群れの動きが変わった。
統率個体が消えて、連携が崩れた。
バラバラに動き始めた。
アーヴィンさんが残党を制圧した。
マユミが追った。
二体を仕留めた。
ミストアルファの群れは一掃した。
静かになった。
全員の色を確認した。
六つ、全部あった。
「全員、状態を確認してください」
「問題ない」
「無傷です」
「こちらも」
「はい」
「問題はありません」
ミルヴァが少し前を向いた。
「岩場での動きは、慣れれば問題ない」
「そうですか」
「ただ、一か所だけ足元が読みにくい場所があった。後で全員に伝える」
「お願いします」
コリンが言った。
「結界、まだ余裕があります」
「よかった。このまま進みます」
「はい」
リアが言った。
「後方の反応が動いています」
「どちらに」
「こちらに向かっています」
俺は羅針盤を確認した。
後方の反応が、大きくなっていた。
前方にも、新しい反応があった。
「前後から来ます。前方は別の種類です」
「どういうことだ」
マユミが言った。
「前方の反応が、さっきと違います。重い。大きい」
アーヴィンさんが前を向いた。
「巨兵か」
「可能性があります」
霧の向こうから、音がした。
重い音だった。
地面が、少し揺れた。
岩場に、それが現れた。
大きかった。
ストーンセンチネルだった。
岩でできた体だった。
鈍足だったが、巨大だった。
通路を、塞いでいた。
後方からは、ミストアルファの残りが来ていた。
前後から、同時に来ていた。
「段取りを組みます」
全員が俺を見た。
第二段階が、始まった。
第百十一話「複合環境エリア、第一段階」 了




