第百十話「本部指定依頼、届く」
十日後だった。
朝食を終えたところだった。
ギルドから使いが来た。
若い男だった。
封書を持っていた。
「パーティリーダーへの本部指定依頼です」
「はい」
受け取った。
使いが帰った。
全員が俺を見ていた。
封を開けた。
読んだ。
少し間を置いた。
「来ました」
全員が静かになった。
封書の内容を読み上げた。
複合環境エリアへの調査討伐依頼だった。
場所は《霧裂きの穴》に隣接する未確認エリアだった。
霧と岩場が混在する地形だった。
出現魔物は複数種の上位種が確認されているとあった。
具体的な種別は現地確認となっていた。
依頼期間は三日後から。
観察者同行の記載があった。
セリウスさんの署名だった。
マユミが言った。
「観察者、というのは」
「ギルド本部からの監察官か、セリウスさん自身だと思います」
「見られながら戦うのか」
「そうなります」
「やりにくいな」
「そうですね。ただ、いつも通りやるだけです」
「そうか」
アーヴィンさんが静かに言った。
「いつだ」
「三日後です」
「わかった」
リアが言った。
「三日あれば、準備は整います」
「そうですね。今日から段取りを組みます」
「はい」
ミルヴァが言った。
「複合環境エリアというのは、あたしも情報を持っていない」
「そうですか」
「未確認エリアなら、事前情報が少ない。現地対応が必要になる」
「わかりました。それも踏まえて段取りを組みます」
「柔軟な段取りが必要だな」
「はい。固めすぎると、現地で使えなくなる」
ミルヴァが少し前を向いた。
「そのあたり、お前はうまいな」
「現場仕込みなので」
「知ってる」
コリンが言った。
「観察者がいる、ということは、評価されているということですね」
「そうです。ただ、それを意識しすぎると動きが硬くなります」
「いつも通り、ですね」
「はい」
マユミが《緋閃の双刃》の柄に触れた。
「整ってきた」
「そうですね」
「行ける」
「はい」
全員が少し表情を引き締めた。
俺は封書を折り畳んだ。
「今日の午後、全員で段取りを確認します。それまでに各自の状態を整えておいてください」
「わかった」
「了解です」
「はい」
全員が散った。
俺は封書をもう一度確認した。
観察者同行。
本部指定。
未確認エリア。
条件は厳しかった。
でも、やることは変わらなかった。
段取りを組む。
全員で動く。
それだけだった。
午後になった。
全員を集めた。
「段取りを確認します」
全員が揃った。
「場所は《霧裂きの穴》に隣接する複合環境エリアです。霧と岩場が混在します。視界不良と地形変化が想定されます」
「前回の霧と、違いますか」
コリンが聞いた。
「前回は霧だけでした。今回は岩場が加わります。足元が不安定になる。ミルヴァさんの隠密に影響が出る可能性があります」
「わかった」
ミルヴァが言った。
「火山地帯の経験がある。岩場での動き方は対応できる。ただ、霧との組み合わせは初めてだ」
「確認しながら進みます」
「了解」
「出現魔物は現地確認になります。ただ、複数種の上位種が確認されているとあります。単体ではなく複合戦を想定してください」
「多種か」
アーヴィンさんが言った。
「可能性が高いです。通常戦闘、乱戦、奇襲戦等が同時に来る可能性を想定しています」
「全部か」
「はい。一人でも崩れると、全体が崩れます。役割を守ってください」
「わかった」
「基本の役割はオルディス戦と同じです。ただ、今回は地形が複雑です。俺の段取りが通らない場面が出るかもしれない」
「そのときは」
「各自の判断で動いてください。ただ、動いたら必ず声を出してください。位置がわからなくなると、段取りが組めません」
「了解です」
リアが言った。
「索敵と風魔法の同時運用を想定しています。ただ、岩場での風の流れは霧の中と違います。調整が必要かもしれません」
「現地で確認してください」
「はい」
「コリンさんは」
「結界の範囲を少し広げる練習をしていました。本番では状況に応じて調整します」
「お願いします。無理はしないでください」
「はい」
「撤退の基準は前回と同じです。全員の色のうち一つでも大きく変化したら、俺が判断します」
「わかった」
全員が頷いた。
段取りの骨格ができた。
あとは現地で肉付けをする。
それが現場の仕事だった。
出発の前日だった。
マルティナさんが夕食を出した。
いつもより、少し豪華だった。
香草焼き肉だった。
濃いスープがついていた。
焼き野菜が並んでいた。
成功時の食事だった。
まだ、出発していなかった。
でも、マルティナさんには何かがわかっていた。
「食え」
「いただきます」
全員が食べた。
うまかった。
マユミが言った。
「依頼の前に、こういう飯を出すのか」
「そういう方です」
「なんでだ」
「わかりません。でも、ありがたいです」
マルティナさんが厨房から顔を出した。
「うるさい。食え」
「はい」
全員が少し笑った。
食べた。
うまかった。
明日が来る。
でも、今日は食う。
それでいい。
出発の朝だった。
マルティナさんが朝食を出した。
塩スープだった。
硬めのパンと、干し肉がついていた。
依頼前の食事だった。
何も言わなかった。
全員が食べた。
食べ終わってから、立った。
「行きます」
マルティナさんが全員を見た。
一人ずつ確認した。
「全員で帰ってこい」
「はい」
扉を出た。
朝の空気だった。
六人が、歩き始めた。
第百十話「本部指定依頼、届く」 了




