表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

108/203

第百八話「セリウスと、次の話」

 数日後だった。


 セリウスさんから呼ばれた。


 使いが宿に来た。


 一人で来てほしいという話だった。


 全員に伝えた。


「セリウスさんから呼ばれました。一人で行ってきます」


 マユミが言った。


「何かあったか」


「わかりません。戻ったら話します」


「わかった」


 ギルドに向かった。


 一人で歩いた。


 朝の空気だった。


 霧はなかった。


 普通の朝だった。



 奥の部屋に通された。


 セリウスさんが待っていた。


 書類が、机の上に並んでいた。


「来ましたね」


「はい。呼ばれたので」


「座ってください」


 椅子に座った。


 セリウスさんが書類を一枚手に取った。


「今回の戦闘報告を、ギルド本部に送りました」


「そうですか」


「ネームド討伐の報告は、本部への提出が義務になっています。霧喰いのオルディスは、以前から記録のある個体でした」


「記録があったんですか」


「はい。五年前の異常も、本部には報告していました。ただ、そのときは討伐には至らなかった」


「そうですか」


「今回、初めて討伐が確認されました」


 セリウスさんが俺を見た。


「本部から、反応がありました」


「どういった反応ですか」


「パーティとして、高い評価を受けています」


 俺は少し間を置いた。


「評価、というのは」


「ネームド討伐は、通常Bランク以上のパーティが行うものです。今回、CランクとBランクの混成パーティが討伐した。それが評価されています」


「なるほど」


「加えて、全員無傷だったことも報告しました」


「そうですか」


 セリウスさんが少し前を向いた。


「本部から、一つ話がありました」


「はい」


「パーティとしての昇格審査を、早める可能性があるということです」


 俺は少し間を置いた。


「早める、というのは」


「通常の昇格審査は、実績を積んだ上でギルドが推薦します。ただ、今回の件で本部が直接注目しています。条件が整えば、審査を前倒しにできる」


「条件というのは」


「もう一度、同等以上の依頼をこなすことです。今回はネームドでした。次は、それ以上の規模の依頼になります」


 俺は少し考えた。


「上位種の複合戦、ということですか」


「そうなる可能性が高いです。ただ、依頼の内容は本部が指定します。こちらから選ぶことはできません」


「いつ来ますか」


「わかりません。ただ、遠くないと思います」


 セリウスさんが俺を見た。


「準備はできていますか」


 俺は少し間を置いた。


「今は、できていないと思います」


「正直ですね」


「段取りが整っていない状態で動くのは、現場では一番やってはいけないことなので」


「そうですね」


「ただ、整える時間があれば、できます」


「どのくらいかかりますか」


「わかりません。でも、急ぎません」


 セリウスさんが少し笑った。


「そうですね」


「全員が揃っている。それが一番の準備です」


「そうだと思います」


 セリウスさんが書類を置いた。


「もう一つ、話があります」


「はい」


「今回の戦闘で、オルディスがあなたに語りかけてきた件です」


「はい」


「本部も、その点を重視しています」


 俺は少し前を向いた。


「可視化持ちだからですか」


「そうです。オルディスは、過去にも可視化持ちに語りかけた記録があります。レインもそうでした」


「レインは答えなかった」


「はい。あなたは答えた。それが今回の結果に繋がったかどうかは、まだわかりません。ただ」


 セリウスさんが俺を見た。


「本部は、あなたのスキルに注目しています」


 静かになった。


「良い意味で、ですか」


「両方です」


 セリウスさんが静かに言った。


「注目されることは、守られることでもある。ただ、狙われることでもある」


「わかりました」


「パーティには伝えてください」


「はい」


「ただ、今すぐ何かが起きるわけではありません」


「そうですね」


「急ぎません」


 セリウスさんがまた、俺の口癖を使った。


 今回は、少し違う感じがした。


 警告に近かった。


 でも、押しつけではなかった。


 いつもの、セリウスさんの言い方だった。


「わかりました。全員に話します」


「お願いします」


 セリウスさんが立った。


「一つだけ」


「はい」


「リアさんのBランク昇格。パーティにとって、大きな一歩だと思います」


「そうですね」


「あなたのパーティは、確実に成長しています」


「全員が、それぞれの役割を持っているので」


「そうですね」


 セリウスさんが少し前を向いた。


「次が来たとき、全員で受けてください」


「はい」


「それだけです」


 部屋を出た。


 廊下が静かだった。


 頭の中で整理した。


 本部が注目している。


 パーティ昇格審査が前倒しになる可能性がある。


 次の依頼は、本部が指定する。


 上位種の複合戦になる可能性が高い。


 ヒコのスキルが、良い意味でも悪い意味でも注目されている。


 整理すると、やることは変わらなかった。


 全員が揃っている。


 段取りを組む。


 準備を整える。


 それだけだった。


 ギルドを出た。


 宿に向かった。


 全員に話す。


 それが、今日の仕事だった。



 宿に戻った。


 全員がいた。


 夕食の前だった。


「話があります」


 全員が俺を見た。


 順番に話した。


 本部への報告のこと。


 パーティへの評価のこと。


 昇格審査が前倒しになる可能性のこと。


 次の依頼が本部指定になること。


 ヒコのスキルが注目されていること。


 全員が静かに聞いた。


 マユミが言った。


「本部が動いてるのか」


「そうです」


「それは、いいことか」


「良い面と、悪い面があります」


「どういうことだ」


「注目されることで、守られる部分がある。ただ、魔族側にも情報が漏れるリスクがある」


 マユミが少し前を向いた。


「わかった。で、俺たちは何をする」


「準備を整えます。次の依頼がいつ来るかわかりません。ただ、遠くないと思います」


「段取りか」


「はい」


「お前らしいな」


 ミルヴァが言った。


「スキルが狙われる件は、前から言っていた」


「そうですね」


「情報屋として、動ける範囲で調べておく」


「お願いします」


「ただし、情報料は」


「別途請求ですね」


「そうだ」


 ミルヴァが少し口元を動かした。


 リアが言った。


「次の依頼に向けて、索敵の精度をさらに上げます。今回の戦闘で課題が見えました」


「どういう課題ですか」


「霧環境での風魔法の消耗が、想定より多かった。効率化が必要です」


「わかりました。時間を取りましょう」


「はい」


 コリンが言った。


「結界の持続時間も、延ばしたいと思います。今回は十分が限界でした」


「そうですね。訓練しましょう」


「はい」


 アーヴィンさんが静かに言った。


「次が来たら、全員で受ける」


「はい」


「それだけだ」


 短かった。


 でも、それが全部だった。


 マルティナさんが夕食を出した。


 肉の煮込みだった。


 根菜が多めに入っていた。


 柔らかいパンがついていた。


 依頼後の食事だった。


 今日は依頼に行っていなかった。


 でも、マルティナさんには何かがわかっていた。


「食え」


「いただきます」


 うまかった。


 次が来る。


 でも、今日は食う。


 段取りは、明日から組む。


 それでいい。



第百八話「セリウスと、次の話」 了

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ