第百八話「セリウスと、次の話」
数日後だった。
セリウスさんから呼ばれた。
使いが宿に来た。
一人で来てほしいという話だった。
全員に伝えた。
「セリウスさんから呼ばれました。一人で行ってきます」
マユミが言った。
「何かあったか」
「わかりません。戻ったら話します」
「わかった」
ギルドに向かった。
一人で歩いた。
朝の空気だった。
霧はなかった。
普通の朝だった。
奥の部屋に通された。
セリウスさんが待っていた。
書類が、机の上に並んでいた。
「来ましたね」
「はい。呼ばれたので」
「座ってください」
椅子に座った。
セリウスさんが書類を一枚手に取った。
「今回の戦闘報告を、ギルド本部に送りました」
「そうですか」
「ネームド討伐の報告は、本部への提出が義務になっています。霧喰いのオルディスは、以前から記録のある個体でした」
「記録があったんですか」
「はい。五年前の異常も、本部には報告していました。ただ、そのときは討伐には至らなかった」
「そうですか」
「今回、初めて討伐が確認されました」
セリウスさんが俺を見た。
「本部から、反応がありました」
「どういった反応ですか」
「パーティとして、高い評価を受けています」
俺は少し間を置いた。
「評価、というのは」
「ネームド討伐は、通常Bランク以上のパーティが行うものです。今回、CランクとBランクの混成パーティが討伐した。それが評価されています」
「なるほど」
「加えて、全員無傷だったことも報告しました」
「そうですか」
セリウスさんが少し前を向いた。
「本部から、一つ話がありました」
「はい」
「パーティとしての昇格審査を、早める可能性があるということです」
俺は少し間を置いた。
「早める、というのは」
「通常の昇格審査は、実績を積んだ上でギルドが推薦します。ただ、今回の件で本部が直接注目しています。条件が整えば、審査を前倒しにできる」
「条件というのは」
「もう一度、同等以上の依頼をこなすことです。今回はネームドでした。次は、それ以上の規模の依頼になります」
俺は少し考えた。
「上位種の複合戦、ということですか」
「そうなる可能性が高いです。ただ、依頼の内容は本部が指定します。こちらから選ぶことはできません」
「いつ来ますか」
「わかりません。ただ、遠くないと思います」
セリウスさんが俺を見た。
「準備はできていますか」
俺は少し間を置いた。
「今は、できていないと思います」
「正直ですね」
「段取りが整っていない状態で動くのは、現場では一番やってはいけないことなので」
「そうですね」
「ただ、整える時間があれば、できます」
「どのくらいかかりますか」
「わかりません。でも、急ぎません」
セリウスさんが少し笑った。
「そうですね」
「全員が揃っている。それが一番の準備です」
「そうだと思います」
セリウスさんが書類を置いた。
「もう一つ、話があります」
「はい」
「今回の戦闘で、オルディスがあなたに語りかけてきた件です」
「はい」
「本部も、その点を重視しています」
俺は少し前を向いた。
「可視化持ちだからですか」
「そうです。オルディスは、過去にも可視化持ちに語りかけた記録があります。レインもそうでした」
「レインは答えなかった」
「はい。あなたは答えた。それが今回の結果に繋がったかどうかは、まだわかりません。ただ」
セリウスさんが俺を見た。
「本部は、あなたのスキルに注目しています」
静かになった。
「良い意味で、ですか」
「両方です」
セリウスさんが静かに言った。
「注目されることは、守られることでもある。ただ、狙われることでもある」
「わかりました」
「パーティには伝えてください」
「はい」
「ただ、今すぐ何かが起きるわけではありません」
「そうですね」
「急ぎません」
セリウスさんがまた、俺の口癖を使った。
今回は、少し違う感じがした。
警告に近かった。
でも、押しつけではなかった。
いつもの、セリウスさんの言い方だった。
「わかりました。全員に話します」
「お願いします」
セリウスさんが立った。
「一つだけ」
「はい」
「リアさんのBランク昇格。パーティにとって、大きな一歩だと思います」
「そうですね」
「あなたのパーティは、確実に成長しています」
「全員が、それぞれの役割を持っているので」
「そうですね」
セリウスさんが少し前を向いた。
「次が来たとき、全員で受けてください」
「はい」
「それだけです」
部屋を出た。
廊下が静かだった。
頭の中で整理した。
本部が注目している。
パーティ昇格審査が前倒しになる可能性がある。
次の依頼は、本部が指定する。
上位種の複合戦になる可能性が高い。
ヒコのスキルが、良い意味でも悪い意味でも注目されている。
整理すると、やることは変わらなかった。
全員が揃っている。
段取りを組む。
準備を整える。
それだけだった。
ギルドを出た。
宿に向かった。
全員に話す。
それが、今日の仕事だった。
宿に戻った。
全員がいた。
夕食の前だった。
「話があります」
全員が俺を見た。
順番に話した。
本部への報告のこと。
パーティへの評価のこと。
昇格審査が前倒しになる可能性のこと。
次の依頼が本部指定になること。
ヒコのスキルが注目されていること。
全員が静かに聞いた。
マユミが言った。
「本部が動いてるのか」
「そうです」
「それは、いいことか」
「良い面と、悪い面があります」
「どういうことだ」
「注目されることで、守られる部分がある。ただ、魔族側にも情報が漏れるリスクがある」
マユミが少し前を向いた。
「わかった。で、俺たちは何をする」
「準備を整えます。次の依頼がいつ来るかわかりません。ただ、遠くないと思います」
「段取りか」
「はい」
「お前らしいな」
ミルヴァが言った。
「スキルが狙われる件は、前から言っていた」
「そうですね」
「情報屋として、動ける範囲で調べておく」
「お願いします」
「ただし、情報料は」
「別途請求ですね」
「そうだ」
ミルヴァが少し口元を動かした。
リアが言った。
「次の依頼に向けて、索敵の精度をさらに上げます。今回の戦闘で課題が見えました」
「どういう課題ですか」
「霧環境での風魔法の消耗が、想定より多かった。効率化が必要です」
「わかりました。時間を取りましょう」
「はい」
コリンが言った。
「結界の持続時間も、延ばしたいと思います。今回は十分が限界でした」
「そうですね。訓練しましょう」
「はい」
アーヴィンさんが静かに言った。
「次が来たら、全員で受ける」
「はい」
「それだけだ」
短かった。
でも、それが全部だった。
マルティナさんが夕食を出した。
肉の煮込みだった。
根菜が多めに入っていた。
柔らかいパンがついていた。
依頼後の食事だった。
今日は依頼に行っていなかった。
でも、マルティナさんには何かがわかっていた。
「食え」
「いただきます」
うまかった。
次が来る。
でも、今日は食う。
段取りは、明日から組む。
それでいい。
第百八話「セリウスと、次の話」 了




