第百七話「リアと、コリンの夜」
食事が終わってからだった。
全員が席を立った。
コリンがリアに声をかけた。
「少し、いいですか」
リアが振り返った。
「なんですか」
「Bランク、おめでとうございます。改めて」
リアが少し間を置いた。
「ありがとう」
「今日の動き、すごかったです」
「合理的な判断をしただけです」
「そうじゃないと思います」
リアが少しコリンを見た。
「どういう意味ですか」
「仲間のために無理をした、と思います」
静かになった。
リアが少し前を向いた。
「無理はしていません」
「そうですか」
「ただ」
リアが少し間を置いた。
「限界に近い場面はありました」
「わかっていました」
「そうですか」
「結界を張りながら、見ていました」
リアがコリンを見た。
「見えていたのですか」
「はい。リアさんが風魔法を絞るたびに、少し色が変わっていました」
「色、というのは」
「ヒコさんのスキルの話ではないです。俺が感じる、リアさんの感じです」
静かになった。
リアが少し前を向いた。
「補助魔法使いは、仲間の状態を見るものです」
「そうですね」
「あなたも、同じことをしていたということですか」
「そうかもしれません」
コリンが少し笑った。
「似た者同士ですね」
リアが少し間を置いた。
「そうかもしれません」
二人が少し黙った。
廊下が静かだった。
コリンが言った。
「少し話しませんか。今日のことを整理したい」
「部屋でいいですか」
「はい」
「わかりました」
二人が廊下を歩いた。
コリンの部屋の扉が開いた。
リアが入った。
扉が閉まった。
静かになった。
俺は自分の部屋に戻った。
荷物を置いた。
羅針盤を確認した。
針が、静かに止まっていた。
今日の疲れが、じわりと来た。
体ではなかった。
頭だった。
霧の中で、ずっと情報を処理していた。
六人分の色。
羅針盤の反応。
オルディスの語りかけ。
段取りの組み直し。
全部、同時だった。
現場の仕事は、判断の連続だった。
こちらの世界でも、変わらなかった。
横になった。
天井を見た。
レインのことを考えた。
オルディスに語りかけられて、答えなかった。
セリウスさんはそう言った。
なぜ答えなかったのか。
答えられなかったのか。
答えたくなかったのか。
わからなかった。
でも、俺は答えた。
見えていると言った。
それが正しかったかどうかも、まだわからなかった。
わからないことが、まだ多かった。
急ぎません。
目を閉じた。
翌朝だった。
朝食の時間だった。
廊下を歩いた。
階段を降りようとしたところだった。
コリンの部屋の扉が開いた。
二人が出てきた。
コリンだった。
リアだった。
二人が並んで廊下に出た。
俺を見た。
俺もそこにいた。
三人が、少し止まった。
コリンが言った。
「おはようございます、ヒコさん」
「おはようございます」
リアが少し前を向いた。
「おはようございます」
「おはようございます」
三人が並んで階段を降りた。
何も言わなかった。
でも、何かを言う必要もなかった。
食堂に入った。
マユミがいた。
三人を見た。
俺を見た。
俺は少し前を向いた。
マユミが少し口元を動かした。
何も言わなかった。
でも、わかっていた。
マルティナさんが朝食を出した。
具だくさんのスープだった。
厚切りのパンがついていた。
卵が一つずつあった。
少し良い日の食事だった。
全員が揃った。
六人分の席が埋まった。
「いただきます」
うまかった。
コリンとリアが、いつも通り座っていた。
特に変わったところはなかった。
ただ、少し近かった。
それだけだった。
現場は、理屈じゃない。
人のことは、人が決める。
俺の仕事は、段取りを組むことだった。
それだけだった。
それにしても朝食がうまい。
第百七話「リアと、コリンの夜」 了




