表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

105/203

第百五話「霧喰いのオルディス」

 三方向からの同時攻撃だった。


 でも、終わらなかった。


 霧が、また濃くなった。


 視界がなくなった。


 完全な白だった。


 オルディスが動いた。


 形が、分かれた。


 一体が、七体になった。


 全部が同じ形をしていた。


 マユミが言った。


「増えた。どれが本物だ」


 俺は羅針盤を見た。


 七つの形が、霧の中を動いていた。


 針が、揺れていた。


 でも、一方向だけ、強く反応していた。


「左前方です」


「わかった」


 マユミが動いた。


 《緋閃の双刃》が、霧の中を走った。


 光の軌跡が残った。


 赤かった。


 でも、手応えがなかった。


「外した」


「分身だったかもしれません。もう一度確認します」


 羅針盤を向け直した。


 針が、また揺れた。


 今度は右後方だった。


「右後方です」


 アーヴィンさんが動いた。


 《沈黙の長剣》が霧を裂いた。


 音がしなかった。


 衝撃があった。


「手応えあり」


「本体ですか」


「わからない。でも、違う」


 分身だった。


 オルディスが、また動いた。


 圧が来た。


 頭の中に、直接来る感じだった。


    ―― 見えているか。


 前と同じ問いかけだった。


 でも、今回は違う感じがした。


 試していた。


 揺さぶっていた。


 俺は深呼吸をした。


 全員の色を確認した。


 六つ、全部あった。


 マユミのオレンジに近い赤。


 アーヴィンさんの深い青。


 リアの澄んだ青。


 コリンの落ち着いた緑。


 ミルヴァの灰色。


 全員、生きていた。


 全員、動いていた。


「見えています」


 また答えた。


 羅針盤を握った。


 針を見た。


 七つの反応の中で、一つだけ違った。


 重さが違った。


 密度が違った。


 本体は、そこだった。


「全員に伝えます。本体は正面、やや右。七体の中で一番重い反応です」


 リアが言った。


「霧の流れを確認します」


 風魔法が走った。


 霧が動いた。


 六体が揺れた。


 一体だけ、揺れなかった。


「そこです」


 リアが言った。


「霧が動かない個体。正面右、約八メートル」


「一致しています」


 羅針盤とリアの索敵が、重なった。


 本体が、確定した。


「段取りを組みます」


 全員が静かに聞いた。


「アーヴィンさんが正面から踏み込んでください。本体を引きつける。ミルヴァさんはその間に背後に回る。マユミは側面で待機、核が露出した瞬間に動いてください」


「わかった」


「了解」


「リアさんは霧の制御を続けてください。タイミングを見て、もう一度視界を開けてもらいます」


「はい」


「コリンさん、結界はあとどのくらいですか」


「五分は問題ありません」


「十分です。急ぎません。でも、正確に動きます」


 全員が頷いた。


 アーヴィンさんが動いた。


 《沈黙の長剣》を構えて、霧の中に踏み込んだ。


 音がしなかった。


 気配も、なかった。


 完全な沈黙だった。


 オルディスが反応した。


 霧刃が走った。


 アーヴィンさんが受けた。


 また、静かな火花だった。


 オルディスがアーヴィンさんに向いた。


 その瞬間だった。


 ミルヴァが霧の中から現れた。


 音がしなかった。


 背後だった。


 短刀が、オルディスの背中に入った。


 オルディスが動いた。


 霧が揺れた。


 形が崩れかけた。


 でも、崩れなかった。


 ミルヴァが言った。


「硬い。核じゃない」


「わかりました。もう少し引きつけてください」


「了解」


 リアが言った。


「準備できています」


「タイミングを見てください。核が見えたら」


「はい」


 アーヴィンさんがまた踏み込んだ。


 オルディスが応じた。


 霧刃が三本走った。


 アーヴィンさんが二本を受けた。


 一本を躱した。


 ミルヴァが背後から連続で刺した。


 オルディスが揺れた。


 形が、崩れ始めた。


 胸が、開いた。


 核が、見えた。


 暗い光だった。


 リアが言った。


「今です」


 風魔法が走った。


 霧が割れた。


 一瞬だった。


 でも、見えた。


 核が、そこにあった。


「マユミ」


 俺が言った。


 それだけだった。


 マユミが動いた。


 速かった。


 霧が戻る前だった。


 《緋閃の双刃》が走った。


 右のカグラが先に入った。


 左のヒナギが続いた。


 二閃だった。


 光の軌跡が残った。


 赤かった。


 熱があった。


 核に、届いた。


 音がした。


 静かな音だった。


 でも、確かな音だった。


 何かが、割れた。



 霧が、動いた。


 渦を巻いた。


 オルディスの形が、崩れた。


 分身が、消えた。


 七体が、一体になった。


 その一体が、また崩れた。


 霧になった。


 霧が、薄くなった。


 少しずつ、薄くなった。


 視界が広がった。


 三メートル。


 五メートル。


 十メートル。


 三層の天井が見えた。


 石の壁が見えた。


 全員が見えた。


 六人、全員がいた。


 誰も、欠けていなかった。


 静かだった。


 霧が晴れた場所は、しんとしていた。


 マユミが《緋閃の双刃》を下ろした。


 光の軌跡が、ゆっくり消えた。


 アーヴィンさんが剣を収めた。


 ミルヴァが霧の名残を見た。


 何も言わなかった。


 コリンが言った。


「結界、解除します」


「お願いします」


 温かい感覚が、引いた。


 全員の色が、少し遠くなった。


 でも、見えていた。


 羅針盤を確認した。


 針が、静かに止まっていた。


 反応が、なかった。


 終わった。


 リアが言った。


「霧の流れが正常に戻っています」


「そうですか」


「三層の霧は、消えました」


「わかりました」


 俺は少し間を置いた。


 頭の中を整理した。


 全員、無傷だった。


 核を破壊した。


 オルディスは消えた。


 霧が晴れた。


 段取り通りだった。


 いや、段取り通りではなかった。


 何度も読み違えた。


 何度も迷った。


 でも、全員がいたから、整えられた。


 現場は、理屈じゃない。


 一緒に動いて、初めてできることがある。


 マユミが俺を見た。


「終わったか」


「はい」


「確かか」


「羅針盤の反応がありません。リアさんの索敵も正常です」


「そうか」


 マユミが少し前を向いた。


「《緋閃の双刃》が、応えた」


「そうですね」


「カグラとヒナギが、動いてくれた」


「感じましたか」


「感じた」


 マユミが少し剣を見た。


「守るために使った。そういう感じがした」


「ガデルさんが言っていましたね」


「ああ」


 アーヴィンさんが言った。


「行くか」


「はい。四層と五層を確認してから、報告に戻ります」


「わかった」


 ミルヴァが言った。


「オルディスは消えた。でも」


「でも」


「また現れる可能性はあるか」


 俺は少し考えた。


「わかりません。ただ、セリウスさんに報告して判断してもらいます」


「そうだな」


「今日のことは、全部伝えます」


「語りかけてきたことも、か」


「はい」


 ミルヴァが少し前を向いた。


「あれは、お前を狙っていた」


「そうだと思います」


「可視化持ちだからか」


「おそらく」


「気をつけろ」


「わかりました」


 ミルヴァが短く言った。


 情報屋の口調だった。


 でも、心配していた。


 色に、混ざっていた。


 全員が動いた。


 四層へ向かった。


 霧は、もう薄かった。


 前回制覇したときの四層に、戻りつつあった。


 三層の異常は、消えた。


 でも、何かが残った気がした。


 頭の中に、まだ圧の感触があった。


    ―― 見えるか。


 あの問いかけが、残っていた。


 見えていた。


 でも、まだ全部は見えていなかった。


 レインのことも。


 魔族のことも。


 まだ、見えていないものがあった。


 急ぎません。


 でも、見続ける。


 それが、現場仕込みだ。



第百五話「霧喰いのオルディス」 了



━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━

次回予告 第百六話「霧が晴れて、報告へ」

━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━


 四層と五層を確認した。


 異常はなかった。


 霧は、四層の範囲に収まっていた。


 全員無傷で、地上に戻った。


 セリウスさんのところに向かった。


「報告があります」


 セリウスさんが俺を見た。


 目が、少し変わった。


「全員、無事ですね」


「はい」


「話を聞きましょう」


 全員が、部屋に入った。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ