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第百一話「二つ名と、ギルドの朝」

 翌日だった。


 朝食を終えてから、全員でギルドに向かった。


 依頼を確認するためだった。


 いつもと同じ朝だった。


 でも、マユミの腰が違った。


 二本の鞘が並んでいた。


 《緋閃の双刃》だった。


 ギルドに入ったとき、何人かが振り返った。


 冒険者たちだった。


 マユミの腰を見ていた。


 何も言わなかった。


 でも、目が動いていた。



 受付に向かった。


 いつもの担当者だった。


 俺を見た。


 少し表情が変わった。


「少し、よろしいですか」


「はい」


「マユミさんについて、確認したいことがあります」


 俺は少し間を置いた。


「なんですか」


 担当者が声を少し落とした。


「二つ名の件です。『緋閃』という名前が、ギルド内で広まっています」


「そうですか」


「正式に登録しますか」


 俺はマユミを見た。


 マユミが少し前を向いた。


「する」


 それだけだった。


 担当者が書類を出した。


「では、手続きをします。少しお待ちください」


 担当者が奥に入った。


 マユミが俺の隣に立った。


「広まってたのか」


「以前からギルド内で使われていたそうです」


「知らなかった」


「そうですね」


「変な感じだな」


「どういう意味ですか」


 マユミが少し前を向いた。


「自分の二つ名が、自分の知らないところで決まっていた」


「そういうものだと思います。外から見えているものは、自分には見えにくい」


「そうか」


 マユミが少し間を置いた。


「緋閃か」


「はい」


「悪くない」


「そうですね」


 マユミが少し口元を動かした。


 笑ったわけではなかった。


 でも、嫌ではなさそうだった。



 担当者が戻ってきた。


「手続きが完了しました。『緋閃』として正式に登録されます」


「わかった」


「おめでとうございます」


「ああ」


 マユミが短く言った。


 コリンが言った。


「おめでとうございます、マユミさん」


「ありがとう」


 リアが言った。


「『緋閃』は正確な評価だと思います」


「そうか」


「昨日の動きを見ていて、そう思いました」


「リアに言われると、信用できるな」


「合理的な判断です」


 マユミが少し笑った。


 ミルヴァが言った。


「二つ名持ちが増えたな」


「そうですね。アーヴィンさんとマユミさんで二人になりました」


 アーヴィンさんが静かに言った。


「次は全員だ」


 全員が少し止まった。


 アーヴィンさんがそういうことを言うのは、珍しかった。


 でも、嘘ではないと思った。


「そうなるといいですね」


「なる」


 断言だった。


 ミルヴァが少し前を向いた。


「あたしの二つ名は何になるんだろうな」


「『影渡り』あたりではないですか」


「悪くない」


「まだ確定ではないですが」


「そうだな。実力で決める」


 コリンが言った。


「俺はどうでしょうね」


「『最後の壁』だと思います」


「頼もしい感じですね」


「コリンさんらしいです」


「そうだといいですね」


 リアが言った。


「二つ名は結果です。今は依頼をこなすことが先です」


「そうですね」


「合理的な順序です」


 マユミが言った。


「リアは本当にそういうやつだな」


「問題はありません」


「褒めてる」


「そうですか」


 全員が少し笑った。


 ミルヴァも、今日は少し声が出た。


 珍しかった。



 依頼板を確認した。


 いくつか候補があった。


 その中に、一枚だけ違うものがあった。


 紙が、少し古かった。


 俺は手に取った。


《霧裂きの穴》内部異常報告

・三層に通常では見られない濃霧が発生

・四層の霧が三層に侵食している可能性あり

・原因不明

・調査依頼:Cランク以上推奨

・報酬:応相談


 俺は少し間を置いた。


 羅針盤を確認した。


 針が、ゆっくりと動いていた。


 いつもと違う動き方だった。


 《霧裂きの穴》の方向を向いていた。


「これです」


 全員が覗き込んだ。


 マユミが言った。


「《霧裂きの穴》か」


「はい。以前制覇したダンジョンです」


「また行くのか」


「調査依頼です。ただ」


 俺は依頼書を見た。


「三層に四層の霧が出ているというのは、普通ではありません」


 リアが言った。


「前回、四層で霧の中の戦闘を経験しています。三層でそれが起きているとすれば、環境が変わっています」


「そうです」


 アーヴィンさんが静かに言った。


「行くか」


 俺は全員を見た。


「準備を整えてから。急ぎません」


「いつだ」


「三日後にしましょう。情報を集めてから動きます」


「わかった」


 ミルヴァが言った。


「あたしはあのダンジョンに入ったことがない」


「そうですね。事前に構造を説明します」


「頼む」


「今夜、全員で確認しましょう」


「了解です」


 コリンが言った。


「また全員で入るんですね」


「はい」


「前回より、段取りが厚いですね」


「そうです」


 コリンが少し笑った。


「心強いです」


「そうですね」


 依頼書を受付に持っていった。


「この依頼、受けます」


 担当者が少し表情を変えた。


「《霧裂きの穴》の異常報告ですね。お気をつけてください。何人かが調査に入りましたが、三層で引き返しています」


「そうですか」


「霧が、以前とは違うそうです」


「わかりました」


 受付を済ませた。


 全員が外に出た。


 朝の空気だった。


 マユミが空を見た。


「《霧裂きの穴》か」


「はい」


「あのダンジョンの近くで鞘を取り戻したな」


「そうですね」


「今度は違う用件で行く」


「はい」


 マユミが《緋閃の双刃》の柄に少し触れた。


「悪くない」


 俺は少し前を向いた。


 羅針盤が、ゆっくりと動いていた。


 何かが、待っていた。


 三日後に向けて、段取りを組む。


 急ぎません。


 でも、準備は怠らない。


 それが、現場仕込みだった。



第百一話「二つ名と、ギルドの朝」 了


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