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0-4.森

明日以降は一日空いたりなどするかもしれないです。

あと書きたいところに早くいきたいので今回は二話更新させていただきます。

メリアルは少年の前を歩く。

メリアルの言葉は間違っている、とは思わなかった。けれどそれだけなのかと疑問も抱いた。だっていくら靴の質が悪いとしても裸足で歩かずに済んでいるのはヒューダルのおかげだ。足の裏が虫に噛まれず傷口から感染して病に至らないのも踵が凹んだ靴のおかげである。もしヒューダルがいないままなら、靴は手に入らなくなってしまう。見知らぬ靴職人から買えば今より高値になって、大人達が買えたとしても子供の分までは難しいだろう。孤児院に大量の靴を買うお金はあるのだろうか。自分だって小さな仕事をこなしてこつこつと貯めているが、靴を買ったらきっと貯金箱にしている瓶は蜘蛛の巣の餌食になるだろうな。


「メリアルは心配にならない?」

「どんな心配?」

「……普通が、普通じゃなくなること。僕はヒューダルさんがいなくなることも、メリアルと遊べなくなることもさびしくて……心配になる」


少年は見栄えのない地面を見ることで視界のぼやけを誤魔化そうとした。けれどメリアルは彼を思ってか、はたまた気づかない様子であっけらかんに答える。


「じゃあずっと遊べるようにしたらいいじゃない!」

「ずっと……?」

「そう。そうしたら心配で元気じゃなくなったりしないよね?」

「う、うん……。でも、そんなことできるの?魔法?」


少年は袖で顔を拭い、メリアルを見る。振り返った彼女と目が合って、彼は自分の耳が赤くなるのを感じた。


「私、知ってるよ。ずっと一緒にいてずっと遊んでいられる魔法」

「すごい……。どこで知ったの?孤児院の本?」

「ちがうわ!孤児院の本だったら、子供たちみんなが使えて全然特別じゃないじゃない」


たしかに。少年はそう思った。しかしそれは魔法を学んだことがない彼と孤児院で暮らすメリアルだから納得できた事で、実際の魔法を覚える方法は少し異なっている。しかしこの町では魔法に精通した大人もいないので彼らは勘違いしたまま話を進めていった。


「私が使えるとっておきの魔法よ。どう?試してみない?」

「うん!メリアルと、ずっと友達でいられるなら僕はうれしい」


少年のあどけない言葉にメリアルはさらに笑みを深くし左手の小指を彼へ差し出した。

彼女の指に金髪が絡む。毎日、朝と晩に院長にといてもらい、自分でも花油を塗っているらしい自慢の髪は太陽の光を吸って煌びやかにうねる。風と共に香る花の匂いに少年は何度も瞬きをした。同い年の女の子を多く見た事はないが、きっとメリアルは可愛いか綺麗の部類に入るのだろう。


「じゃあね、小指を絡ませて、それから……」

「メリアル!メリアルこんな所で何をしてるの!」

「げっ!ドーブル院長……」


少年が指を絡ませようとした時、遠くの方からメリアルの名を呼び駆け寄ってくる老人が見えた。メリアルは肩を縮こまり足が内向きになっていた。


「ドーブル院長。こんにちは」

「はあ……はあ……。はい、こんにちは。それよりメリアル。あなた今日の皿洗いのをせず外に出ましたね?」

「うっ。そ、それは……」

「遊びたい気持ちは構いませんがやるべき事はやる。子供とて仕事放棄することは許しませんよ」


ドーブル院長の鋭い瞳にメリアルは唾を飲む。とはいえ約束を破ったのは彼女自身で、真面目な少年は優しく方を叩いた。


「また明日遊ぼう。魔法も、明日教えてね」

「うう……。ありがとう。院長、ごめんなさい。すぐ行きます……」

「はい、よろしい。では私達はこれで。こんな子だけど明日も仲良くしてやってちょうだいね」

「はい!院長、メリアル、気をつけて」


少年にさえ言われればメリアルは従うしかない。結局、落ち込んだメリアルはドーブル院長と共に歩いていた道を戻っていった。本当は新聞を読んでもらいたかったが、仕方ない。家で暖炉の餌にならぬよう、部屋で持っておこうと思った。


さて、突然と予定がなくなった少年は空いた鞄を握りしめ考える。昼に帰ってしまうと両親と鉢合わせてしまうのでそれは避けたかった。かといってはした金で買うようなものはなく、町には子供に優しい娯楽はない。ドーブルド孤児院でのお祈りも頭に浮かべた。だが少年は長い時間のお祈りは苦手だった。何を言ったか何を言ってないか分からなくなってしまうからだ。


となると、少年の頭で自然と考えてしまうのはやはりヒューダルのことだった。探すなんて大層な事は成しえない。なら、せめて警備のドドルガの手伝いと思うならどうだろう。ドドルガが足を踏み入れてない場所まで見に行って伝えてやるのだ。もしかしたら怒られるかもしれないが、少年は怒られることよりも知らないままの方がずっと嫌に感じた。


「……うん。大丈夫、ちょっと見るだけだもん。ヒューダルさんの為だもん」


自分に言い聞かせるように、小さな声で呟きながら歩く。けれど歩いていた足は段々と幅が大きくなり、建物を二つすぎる頃には駆け出していた。

何人かが「どうした?」と聞いてきたが少年は適当な大声をあげて町の端へと向かうことにした。



町の端、墓場とは反対にある巨人が片足で踏み潰せるような小さな森。ここを抜けると一つ大きな街に続くのだが、魔物が出やすい難点があった。なので細い獣道の左右にはロープがあり大きな鈴が括り付けられている。


魔物が出たらすぐに走れ。魔物は考える時必ず足を止めるから、その内に見えないとこまで行くのだ。


少年は大人に教えられた言葉を思い出しながら、森の入り口に立つ。別に立ち入り禁止とまではされていない。木こりのアイガーは森から木をとっているし、ここを抜けると大きい街に行けるので誰だって入れるようにはなっている。ただ魔物がいるのは事実なので、入り口に立つと何となく町と隔絶された心地になるのだ。

少年は何度も町と森の奥を交互に見る。まだ太陽は上にいる。行くなら今しかないし、丁度誰も見ていなかった。


「……よし、よし。大丈夫、鈴の音が聞こえたら、すぐ走ればいいんだ」


そう言って一歩、二歩。もう一度後ろを振り返って三歩。前を見ないのは危ないからと四歩目をだしたら枝を踏んで少年は情けない声を出した。だが何も現れないし何も起きない。ほっとして、どんどん進んでいった。


森に魔物が住むのは魔力が濃いからだという。魔物は木の実も小型の肉も土もなんでも食べるが、特に魔力が好きだ。だから森に住みたがり人間を食うらしい。

なら、なぜ森は魔力が濃いのか。それは魔女の通り道と言われているからだった。これは本当か分からないが、魔女が通れば魔力は沢山残る。魔女は森を好む。だから森は魔力が多く、多い魔力を求めて魔物が住むらしい。

少年はその話を聞いた時からずっと、魔女は飛べるのだからなぜ森を歩くのか不思議に思っている。


「……静かだなあ。何にもいないや」


少年が森に入って数分は経っただろうか。まだ変化も進展もない。すると最初持ってきていた恐怖を道標に次々落としてしまって、少年は途中に拾った枝を振りながら歩くようになっていた。


「そういえば、魔物って本当に人間の姿を囮にして頭から生やしてたり、目が沢山あるのかな?」


なんて、呑気なことも言っている。散々大人に言われていた「気をつけろ」をまるで守っていなかった。しかしいざ入ってみると森は明るくないが意外と暗くもない。目で先が見えるくらい陽射しが射し込んでいるし、動物や木の実はないが風は通って心地良い。てっきり棘だらけの植物が道を横領し、真っ暗で先が見えず常に獣の唸り声がすると思っていたが、想像していた姿とはまるで違っていた。

怖くない安心感に少年の表情は柔らかくなる。しかしヒューダルの姿がみえないのは不安だった。


「ヒューダルさーん!ヒューダルさーん、いますかー!?」


ついに大声を張り上げながら少年は歩いていく。木々に当たって声が先に行ってくれるも、返しはこなかった。


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