第七話 キタン
あれから三週間が経ち、
それなりに依頼もこなすようになった頃。
「はい、ということで、次なる修行といきます。」
「ミラせんせ〜、何をするんですか〜?」
「お手本のような返しをありがとう。さて、次は、二人にスペシャルな依頼をこなしてもらいます。」
「「スペシャルな依頼?」」
「そうだよ〜?二人と私は役場で会ったよね?その役場には、町中からの依頼が届いてきます。二人には特別に、スペシャルな依頼を予約しておいたから、それを攻略してもらおう!」
「はい!スペシャルってどんな!?」
「はやる気持ちは抑えてね、ジオくん。そんなことを言ってられないくらい結構危険なものだから。」
「…もう一度死にかけてるので、今更では?」
「なら、二度と死にかけないように目指すのが強くなるということだよ、カイくん。」
「やっぱカイには分かんねーか!」
「うるさい。僕は別に強さに興味ない。」
「出た!口癖!」
「……。」
そして、不機嫌になると黙る。
カイはこういうやつだ。
ごめんだけど弄らずにはいられねぇ。
「はいはい、二人とも。依頼の内容だよ。"キタン山脈"。聞いたことはあるかい?」
「「キタン山脈?」」
「うん。この町の最北端にある、6000m級のキタンという山を中心に連なる山脈だ。」
最北端、か。
グレートダークは東にあったよな。
「来ている依頼は、この町の町長さん。つまり、絶対に失敗できない依頼ということになるね。」
「ちょ、ちょう?町で一番偉い人!?そんな人が何で?」
「ふっふっふ…私は宇宙全体を通しても有名なんだよね〜。こんなこと言ったらあれだけど、町長とか私の足元にも及ばないよ。」
…まさか、想像のはるか上を行く地位だって言うのか?
「えっと…領主とか…?」
「どころじゃないよ。いっか、言っちゃっても。実は私、前々代大帝でございます。」
しばらくの沈黙。
「え…え、え゛え゛え゛え゛え゛え゛え゛!?!?」
た、た、たたた大帝!?
嘘だろ嘘だろ!?!?
「……?」
カイまで放心状態だ…!
「なななんでそんなに!?」
「ん?どうしてそんなに強いかって?まあ私は…相当無茶な鍛え方したからね。」
「そ…そうですか…」
「タメ口!敬語は嫌いだからね。」
「わ、わかった…」
「……?」
「カイ?いつまで心ここにあらずなんだ?」
「…大帝…ね……」
「おぉーーい!」
まあ、どう見ても20代前半、なんなら10代後半の可能性もあるし、服装もバリバリの運動着だもんな。
魔術師であることすら疑う。そんな人が実は大帝とか脳がバグる。
「あっはは!そんなにいい反応をくれるとは思わなかったな!もう、話逸れちゃったよ。どこまで言ったかな?…あ、そうだった。町長さんからの依頼は、キタン山脈の調査さ。」
「調査?」
「そうだよ、ジオくん。キタン山脈には、秘宝が眠るとされているんだ。」
「ひ…秘宝!?」
「そう。町に古くから伝わる逸話でね。ずっ〜〜と昔に、大剣を使っていた英雄が、キタンに愛剣と身に纏っていたネックレスを埋めたという伝説があるのさ。この町の人たちは躍起になって探してるよ。」
「へぇーー!!楽しみだなぁー!なあ、カイ!オレらが見つけてやろうぜ!」
「アホか。この町の人たちがそんなになって探してまだ見つかってないのに、ぽっとでの僕たちがそんなすぐ見つけられるわけないだろ。」
「ちぇっ、ノッてこないやつだな。」
「ていうか、オマエはどちらかというと秘宝よりも大剣使いの英雄に興味が湧くものだと思ってたけどな。」
「…あ!確かに!ぜってぇ強いよなそいつ!」
「勝とうとか思ってないだろうな。」
「まっさか〜!オレはまずカイをぶっ倒す!」
「はっ、オマエが僕を?何の冗談だ。」
「何だと!?今ここで白黒つけるか!?」
「はいはい、二人ともすぐアツくなるんだから。いいかい?依頼は明日から、期限は二週間。」
「今までずっと見つかってねぇのに二週間!?」
思わず声出たわ。
「だからこそ、だよ。今の町長は優しい人だけどちょっぴりせっかちなんだよね。私に依頼してくるなんて、それ程急いで見つけたいんだろうね。」
「…何の理由があるんですか。」
カイが聞いた。
「……さぁね!さてさて、もう一度言うけど、期限は二週間ね。それまでに、秘宝を見つけてこよう。じゃあ、今日はもう遅いし、しっかり休んで明日に備えてね。今までは対応できるレベルの敵だったし、言語化できる範囲内での戦闘だったと思うけど、次はそうは行かないから。」
はぐらかされたような、そうじゃ無いような気がすんだけど。
ま、いいや。
「…分っかりました!」
「…はい。」
「英雄ってどんな奴なんだろうな?カイ。」
「だからアホか。とっくに亡くなってるだろ。」
「あ、そか。…まあ、細かいことはいいじゃん。」
「はいはい、僕はもう寝るからな。」
「分かったよ。…大剣か〜。……ん?大…剣?おおきい…けん……おおけん……オーケン………流石にか!」
「なんか言ったか、ジオ。」
「いや、なんにも?さっさと宿に戻ろうぜ!」
――――――――――――
「うわ…すっげぇ険しいな…」
オレたちは山脈のふもとまで来ていた。
正直、険しすぎて秘宝とか考えてる余裕ないと思う。
だってもう、山というより巨大な円柱というか、これもう垂直じゃん。
「…ジオ、帰っていいか。」
「なに言ってんだおまえ!町長の頼みは断れねぇよ。それにこれは修行も兼ねてるんだからな?」
「町長にはミラさんに言ってもらうし、修行はするつもりもない。よし、帰ろう。」
「待ってくれカイ!依頼の報酬は6:4でいい!」
「8:2。」
「はあ!?ふざけんなよ!オレだって武器とか買いてぇよ!」
「ん?女王を倒した時の貸しを忘れたか?んん?」
「ぐっ!おまえそんなの覚えて…ああ分かったよ!持ってけ!」
「成立だな。」
8も取るとかアホだろこいつ!!
くそ、今オレの全財産はたった…いや、考えたくねぇ。
でもまあ…しゃあねぇ。
カイは金にがめついんだよな〜。
まさか老後に働かずに暮らすためか…?
平穏ってそういう?なんだこいつ!
「はぁ…とりあえず…途中までは山道があるって言ってたよな?」
「言ってたな。あっちに看板がある。」
「…あれか。行くか、カイ。」
オレたちは、軽い心持ちだったことを後悔することになるのだった。
――――――――――――
「さむっ…これは…きついな…」
もはや笑えてくる気温だ。
息が白いどころじゃない。
吐いた息が口元で固まって呼吸が苦しい。
途中転落して登山道はずれちゃったからさ…今すげぇ過酷な道を行ってる。
幸い魔物の強さはグレートダークよりは遥かにマシだ。
あれはマジで初の対魔物でやっていい難易度じゃない。
「カイ…後どんくらいかわかるか…?」
「僕に聞くなよ…半分も行ってないのは確かだろ。そもそも秘宝の探索で来ているんだからな。頂上行くのがゴールってわけじゃないんだぞ。」
「あ…マジじゃん。これで麓にあるとかだったら…想像したくもないな。」
寒いし険しいし魔物は来るし…めっちゃ疲れる。
もう十秒後には倒れててもおかしくない。
てか普通こんなに雪降るもんなのか?
何かがある。
勘だけど、これほどの異常気象はおかしい。
魔力感知も霧がかかってるみたいな変な感覚だ。
遠目で見たときはこれほど降ってなかったし。
何かに、迎えられてるような…
歩き戦い寒さに耐え…
もう限界だ。
そう思っていたら。
ふと、洞窟を見つけた。
「カイ…!あそこ行こう!休めるぞ!」
転がり込む。
ああ、雪が上から来ないことに感謝する時がくるなんて…!
…火って起こせんのかな。
寒いことに変わりはなかったわ。
そんなことを思っていたら、人の声がした。
カイではない、別の人の声。
「は?…あれ?あなたって…」
…女性?
同年代か…?
つむじが紅で先端がウェーブ気味の漆黒…特徴的なロングヘアだな。
いかにも冒険者っぽい格好で…
なんか…今にも崩れそうな…
「ねぇ…聞いてる?」
…て、違う!
洞察力はこういう事じゃないだろ!
武器は片手剣、この人は腰につけてんのか。
魔力も鍛えられてんのか。魔法を併用するのか?
左手に指の出た薄い手袋、ボロいマントには何もなさそうだが、服にはいくつか光るものが隠れている。
「ちょっと、無視?」
てかどうしてこの人はここに1人で?
同伴者はいたのか?
目的はなんだ?
「ねぇ!…耳ついてる!?」
…にしても、どっかで見たような…?
思い出せない…っ!
「ねぇってば!聞いてんの!?」
「うわっ!急になんだよ?」
「こっちはもう何回も呼んでた!」
「そ、そうだった…?ごめん。」
「意外と素直……あ、えっと、この前にさ、受付で会った…?」
「受付…?」
(限りない熟考中……)
あ、そういうことか!
通りで既視感があったんだ!
「ああ、思い出したよ。アイシャ…だったっけ?」
「えっ、名前まで覚えてるの…」
「いやぁ、誰かっていうことさえ思い出せば連想出来るっていうか?てかさ、一人で何してんの?」
「いきなり馴れ馴れしすぎない?こっちはあなた達の名前も知らないんだけど…」
「あ、確かに。オレがジオで、こいつがカイ。」
「…完全に空気だっただろ、僕。」
「ま、仲良くやろーぜ!アイシャ!」
「やっぱり馴れ馴れしい……その……この前は、ごめん。急に怒鳴って強く当たって…」
「ああ、別に気にしてないよ、あんなの。なんかあったんだろ?」
「ええ。…聞かないの?」
「え?こういうって聞いた方がいいのか?カイ。」
「知るかよ。…普通は相手から言うものだろ?」
「変な2人…」
うーん…妙に儚げな顔してんだよな…
強気の中に、なんだかわからないけど、焦りだとか恐怖だとかがあって、それが…だめだ、言葉にできない。
まあ、今は英雄と秘宝の方が大事だけどな!
「でさ、なんで一人でいんの?」
「…事情よ。お金が欲しいの。なるべく大きいお金。この辺りのことは詳しいから…安全な道を来たの。それでもこの雪はおかしいけどね…」
「ふーん。あのさ、秘宝って分かる?」
「えっ…」
…あれ?
なんかマズかった?
「…聞いちゃいけなかった?」
「あ、いや。私も探してるんだ、それ。」
「そうなのか!?じゃあさ、一緒に探さねえ?」
「待てジオ、怪しいだろ。何人で来た?まさか1人で来るなんて馬鹿な事はしてないだろ。」
「…一人だけど、悪い?それを言うならあんたらだって二人で来てるでしょ?」
「目的はなんだ?秘宝か?だったら手は組めないぞ。」
「あっそ。だったら、さっさと行ってくれる?人が温まってたところに勝手に入ってきてさ。」
彼女は火の照っている焚き火をチラッと見た。
「そうさせてもらう。ジオ、行くぞ。」
「待て待て、おまえの方が待て!良いじゃねえか!何がダメなんだ?」
「ダメだろ。怪しい。」
「そう言って死んだら元も子もないぜ?危ない道だとか場所だとか、オレら何もわかんねぇじゃん。ちょうどここの地理に詳しいだか言ってたしぃ?」
「だから案内してもらおうってか?だとしてもダメだ。」
「ケチ!アイシャも言ってやれ!」
「…行けばいいのにさ。まあ、着いて行ってもいいよ。ただし、秘宝は私がもらう。」
「構わない。元々オレは英雄目当てだしな。」
「良くないだろ!ジオ、依頼はどうする!?」
「ミラ姉なら話せば分かってくれるって!しかもこれは仲間の勧誘じゃなくて取引だから問題ない!」
「…だあー!!そうやってオマエは…!!チッ、余計なことしたら、即外れてもらうからな。」
「しゃあ!!分かってくれるって思ってたぜ!カイ。じゃ、よろしくな、アイシャ!」
「ほんと、変な二人。こちらこそよろしく。」
この三人で、いよいよ秘宝捜索に乗り出すのであった。
「よぉーし!そうと決まれば早速行くとしますか!」
「もう十分休んだもんね。行こうか。」
「チッ、どうなっても知らないからな。」
ブォォォォォ!!!!
荒れ狂う吹雪は、更に勢いを増していた。
「…もうちょっと休むか。」
「そうだな。」
「そうね。」




