第六話 あれ…
オレは、思い返していた。
聖魔大帝祭。
その、頂の景色。
何のために…頂を目指してたんだっけ…
羨望。
憧れ。
決意。
そんな気がして、そうじゃない気がする。
オレは…
……。
今は…いっか。
オレは、まだ死にたくない。
それが分かればいい。
戻ろう。
あの死の淵に。
まだ死ぬわけにゃあ…いかねぇからな。
目覚めと同時の一撃が飛んできた。
『グアアアアアアアアアア!』
来る!障壁!
バリィィン!!
まっじか!破られ──
「おいジオ、危ないぞ!」
爆音が鳴る。
カイが…ぶっ飛ばされて壁に叩きつけられた音だ。
オレを庇ったのか!?あいつらしくない!
「がっ...ぐぁ......!」
カイの苦しい声が聞こえる。
オレだってキツい。
この状況、かなり絶望的だ。
カイはもう起きないだろうし、オレも左腕の感覚がない。
くそっ、一旦、落ち着け…
落ち着け、落ち着け…そうだ…よし。
足は動く。
右腕にも力が入る。
魔力もあと少し残りがある。
あいつの図体はしっかりと視えるし、音も聞こえている。
これだけ分かれば、十分だ。
冷静になんてなれるもんか。
これはただの強がりだ。
でも今はいい。
パニックにだけはなるなよ。
自分から、相手へ。
観察するか...
魔力を読んで…
こちらからは、まず手は出さない。
これもミラ姉に教わったっけ?
今ならわかる。
これも洞察力の修行の一環だって。
右?左上…
進んで、横に二回、顎…左か!
前足、首、触覚、下左後ろ...
「もう...十分だ。」
余裕がないのは…おまえもかな。
いける。
馬鹿デカい足も、避けれるようになってきた。
てか、避けなきゃ一発で死ぬ。
こいつは、目潰されて冷静さを失ってる。
ただのバーサーカーだ。
カイのおかげだな。
だから、避けるのが簡単なんだ。
問題は避けれても次に繋がらないことだ。
こっちの攻撃が通じないから、ジリ貧になっちまう。
するとどうなるか。
怪我に出血、体力切れでジ・エンドだ。
もう体力はほぼ残ってない。
飲まず食わずで半日以上戦っている。
鍛えてなかったらもう死んでたかもな。
『グアアアア!!!』
叫びもワンパターンだな。
その単調な攻撃にお似合いだ。
さて…
どうするかな。
切れないなら...貫くか。
イメージは…線か…?
直線上に女王を置いて、撃ち抜く感じ。
風の応用だ。
もっと起点を小さくするんだ。
指先サイズに…
もっと鋭くだ。
貫通する弾みたいに...もっと小さく...もっと...
そうするうちにも、女王の腕が、頬を切り裂いた。
あっぶねえんだよ。
こいつの攻撃も意識は途切れさせちゃいけないな。
線に沿って指向性をつける。
高速で回転させる。
火を作るための流れじゃない。
流れそのものを飛ばすための流れ。
狙いは、残ったほうの目。
隙を狙え。
左足を振った後にできる隙を!
『グアアアアアア!!!』
打て!!
ヒュン!
抵抗もなく通り抜けた弾が、奴の眼を破壊した!
これでもう、あいつは視れない。
『グアアアアアアアアアアアアア!!!!』
叫んだって遅い!
次で終わりだ!
質量だ!
魔力剣を、大きくしろ!
もっと…もっとだ!!!
そのでけぇ図体、断ち切ってやる!!!
振りかざせ!
隙を作る行動だけど、視られない今なら関係ない!
大剣を持った体が、悲鳴を上げる!
痛い!
苦しい!
死にそうだ!
だが耐えるんだ!!!
「うおおおおお!!」
『グアアアアアア!!!』
な…!
こいつまだ…!
がむしゃらな攻撃…!
避けられな──
その時、横から炎が飛んでくる。
女王の身を焦がした!
けど、なんで!?
「ああ…いてぇ。貸し1だからな…」
──ッ!!
いけ!
この隙を無駄にはしない!!
「うおおおおおお!!!」
刃先は空を切り、風を裂き、狙われるは女王。
ブチ破れ!!
こいつの体!!
巨大な剣身は、迷いなく首へと飛んでいき…
破壊した!!!
オレ自身、勢いあまって床に叩きつけられる。
……だが…生きている。
...勝った。
この女王相手に、勝った。
「はああぁぁぁ...やったぁぁ...」
もう立てねえ...
だけど、勝った。
アリには感謝しておこう。
おまえのおかげで、オレはまた、強くなれた。
ありがとう。
「…ヒヤヒヤさせんな、ジオ。」
まだふらつきの残るカイが、こっちに寄る。
「ありがとうな、カイ。」
「ここ出てからにしろ。」
「そうだな、まずは出よう。…出口って、あっちか?」
「多分。」
「…分かった。行くか。」
心底安心して、やっと出口に向かおうとしたその時。
ドゴンと音を立てて、洞窟が揺れた。
「…カイ、今の…」
「分からない。ただ…アリより強い気配がする。」
強くなる。音が、近づいている。
これは、壁を…突き破る音か…!?
来ている!
ここに真っ直ぐ!
全力の感知を使う。
まだ範囲外!
「ジオ、速いぞ。十秒もしないでくる。」
「何が来るってんだよ…?」
たった十秒が、一時間にも感じるほど、緊張が走る。
時が止まるかのようだな。
額を滑る汗が、頬を伝って、顎までくる。
感知の範囲に来た…!!
って、これは!?まずい!!
『グオオオオオオオオオ!!!!!』
「カイ!避け──」
…何が…おこっ、た?
あ…かい…は、どうなっ、た?
ぶったおれ…ッ
…これ、しん…だかな。
からだ…うごか…ねぇ…
く、そ…まだ…つよ…く…
「まずい状況だ。二人とも、少しだけ待っててね。死ぬなよ。」
あれ…ミ…ラ…
ーーーーーーーーーーー
「おーい、ジーオくーん?起きてよー?」
まず視界に入ったのは、オレを覗きこむミラ姉の姿だ。
「…はっ!はぁ…はぁ…あれ?…そうだ、あいつは!?カイは!?」
「大丈夫。あの時襲ってきた大型の熊はしっかり対処しておいたからね。二人の怪我も治したよ。」
あれクマか…
恐ろしかったな。
「あ、カイ…はまだ寝てんのか。ミラ姉、ありがとう。でも、多分あのクマが主なんだろ?失敗した…」
「良いんだよ。そもそも女王アリを倒した時点でもう完了してたからね。」
「えっと…それはどういう?」
「あの洞窟はアリと熊の縄張り争いが激しくてね。元々生息していた生物たちが居場所を無くしてたんだ。町も被害を受けたしね。修行も兼ねて片方を倒すことで争いを鎮めようっていうのが真の狙いだよ。」
「そう…なのか。じゃあ、主はクマとアリ両方…ってことか。」
にしても、よく生きて帰って来れたな…
カイですらあんな重傷負ったんだもんな。
…あ、そういえば!
「そうだよ、ミラ姉!オレ、魔法習得したぞ!」
「しっかり観てたよ。やっぱり君は適性があると思ったんだ。」
「…?魔法に適性なんて要るのか?」
「普通はね。まあ、大帝になるくらい強くなりたいって言うなら、適性があるのが当たり前なんだけど。」
ふーん。
ま、出来たもんは出来たでいいか。
てか、ミラ姉って実は想像以上に凄い人なのか?
そんな人の弟子だなんて、初っ端からついてんな〜!
「…ん?ジオ…どうなった。」
「カイ!起きたんだな、よかった~!」
「うわ気持ち悪!抱きつくな!」
「カイ、オレ死んだかと思ったよ〜!」
「うるさい離れろ!死ななかったんだからもういいだろ!?」
「このツンデレクール野郎がぁ!!今くらいはいいだろぉ!?」
「ツンデレじゃない!いいから離せ!!」
「クールは否定しないんだなこの野郎!!てかクールの癖してスッゲェ大声出してんじゃねぇか!」
「あー!誰のせいだと思ってる!」
ガミガミガミガミ───
「…相変わらず、賑やかな二人だなぁ。コホン。はい、ストップ!二人とも。」
「「ああ!?」」
「ほーう?師匠に向かってああ!?とは、いい度胸だね、二人とも。どうやら怪我人だからと容赦する必要は無いみたいだ。今日はもう一回くらい死んでもらおうかなぁ?」
「「…あ。」」
その日の修行は、死ぬくらいキツかった。




