第五話 主
おはようございます。
まあ一時間くらい昼寝しただけだけど。
それよりも、囲まれてました。敵に。
そりゃ敵陣ど真ん中で昼寝するなんてことしたらそうなるよね。
皆さんお怒りのようで。
…逃げよ。
ん?ここって使えんじゃね?
「なあカイ。さっきの爆破でできた穴、落ちてショートカットしようぜ。」
「オマエは馬鹿なのか?あいつらが落ちていったのを見てただろ?」
「いやぁ、今はもう居ないんじゃないかと。それにほら、もう囲まれてるし、正直ここしか逃げ場ないって言うか…」
「…全く、誰のせいでこんな事に──」
「いや、それはいきなり敵地ど真ん中で睡眠を取り始めたカイのせいだと思う。」
こいつのセリフは早めにカットしておく。
「もう良いだろ!このままじゃ終わるし、オラァ!」
カイの腕をしっかりと掴む。
そして飛び込む。
「ふざけんなオマエ──」
カイの声は奈落にフェードアウトした。
――――――――――
「いてて…な?障壁も役に立つだろ?」
「……。」
出た。
カイは不機嫌になったり理不尽なことに遭遇したりするとダンマリするんだ。
…いや、オレのせい?
実際、逃げ場はここしか無かった訳だし…
はい、すみませんでした。
で、それよりここはどこだ?
「うーん、とりあえず道に沿って進むしかないな。行こうぜ、カイ!」
「……。」
「カ、カイ、悪かったって!」
もうしばらくは不機嫌そうなカイを連れて、
オレはどんどん進んでいった。
――――――――――――
「おい、これどこまで続くんだ?流石に長いだろ…」
「…オマエ、まだ気づかないのか?ここは迷路みたいに複雑な形になってんだよ。つまり僕らはずっと同じところをぐるぐるしてるわけ。」
「は、はぁ?早く教えてくれよ!」
「いや、教えたところで僕にもオマエにもできることは無いだろ。それとも、切り抜けられるような秘策でもあると?」
「う…進むしか無いか…じゃあ通った道に印でも付けとくか。」
壁に石で文字を掘ろうとしたその時。
音がした。
不気味で、恐怖と緊張がひしひしと伝わってくる…
これは…鳴き声?
「カイ…居るな、何か。」
「分かってる。しかも、岩っころより厄介そうだ。」
松明を無くしたから、その姿はもう肉眼じゃ捉えづらい。
だけど…あれは複眼か?
黒い空間によく潜み、幾つもの足を持ち、大群を成している。
それはまるで…
「アリ…?」
違うのは、大きさだな。
でけぇ。
1mは超えてるだろ。
てかこの洞窟、全てがでけぇ。
まずそもそも、地下7000mまで行く洞窟が他にあるかよ。
そりゃ、宇宙のどっかにはあるだろうな。
でも、最初に行くレベルの洞窟じゃ無いのは分かるわ。
いやそれより、今はこのアリをどうにかしよう。
たしか熱とか乾燥だっけ?
いや、分からん。
「ジオ、あのアリたちが抱えてるのは…」
「ああ、あの岩っころどもだな。アリがこの生態系の頂点なのか?」
「とりあえずアリだったら数が膨大だから、一気に殲滅する方法を考えないといけない。」
「だよな、カイ。でもガスも松明もないからなぁ。」
まずは情報収集か。
右、左、上、下、前、後ろ。
何もなさそうだな。
何も、は違うな。
アリがいる。
つまりは魔法やらなんやら使って自分らでやれって事か。
「カイ、おまえ魔法使えないのか。」
「いくら習得が早くても無茶だ。打てても握り拳サイズの火球が精一杯だろ。」
「じゃ、オレが何とかしないとな。とりあえず殴るやら何やらで足止めしてくれ。バリアは作っとくから。」
「チッ、しょうがない。帰ったらオマエ、逆にパシってやる。」
「へい、分かったよ。」
よーし、集中だ。
ふぅー。
魔法…か。
どうするんだ?
これは障壁の応用か?
感覚はちぃーと違うけど…
手だけから放出するように絞ればやりやすいな。
魔力を使いたい分に合わせてコップを用意して…
コップ一杯で一回分。
でもこれ…どうやって炎に変えたら良いんだ?
燃える原理…分からんから、発想を変えよう。
硬い金属同士イメージしよう。
魔力ってぶつけ合えるんだよな?
魔力を高速で回転させて、互いを打ちつけて…火花を起こす。
微々たるもんだが…これを、増幅させるイメージで!
よし、あとは一気にぶちまけてやる!
「カイ、行くぞ!」
「やっとか、くたびれたぞ。」
前方向、狙いはアリだ!
…いや、ごめんカイ、コントロールは無理だわ。
「ファイアーー!!」
光って、煙が舞って、熱された。
「…ジオ。オマエ覚悟しとけよ。」
「ごめんって!制御できなかったんだ!」
こんがり焼けた髪を撫でながら、カイが言ってきた。
てか、あの火力で髪焼けるだけなん?
こいつやっぱおかしいな。
でも、それより…
「何で嬉しそうなんだよ。」
「魔法が使えたからだよ!何でだろうな?ここぞって時の集中は、オレがオレじゃ無くなるんだよな。」
使えた!魔法!
やった…!
「もう良い。次行くぞ。恐らく女王アリが主なんじゃないのか?」
「確かに!じゃ、さっさと潜りますか。…どうやって?」
「はいはい、言うと思った。オマエノタメニイッピキノコシテオキマシタ。」
めっちゃ棒読みだな。
て言うかまじ感謝です。
「付いていけば良いってことだな?よーしカイ、行くぞ!…って、もう行ってんじゃん!置いてくな!」
――――――――――――
結構進んだんだが…
もう体感一時間は歩いてるぞ…道中アリに出くわすのもう勘弁してくれ、ぶっ倒れる。
「…ジオ、ひらけるぞ。着いたんだろうな。女王のお出ましだ。」
やっと着いたか…
てかずしずし言ってるけど?
…は?何だこのデカさ。
何処までが全長なんだ?
感知の範囲外まで体が広がってるんだが。
「30…は…いってるかもな…」
「いや、41mだ。」
「は?おまえ、何で分かったんだ?」
「目測は得意なんだよ。小さい頃に訓練が続いた記憶がある。」
「…それって聞いて良い過去か?いや、今は聞かないでおく。女王に集中するか。」
「まずはこの取り巻きのアリ共からだろ。ジオ、右半分いけるか?」
「やるだけやってみるさ。カイも気をつけろ。」
オレとカイは、互いに反対方向に走り出す。
さて、オレが担当するのは右半分の軍勢か?
まともな攻撃は炎魔法くらいなもんだが…
剣の一本でもあれば…
ああ、あれめっちゃ便利な武器なんだな…
…剣?
そうだ、剣の形をイメージするんだ。
魔力障壁を…剣の形に変形…!!
不格好だが…今は良い。
アリだろ?
狙うべきなのは首か。
1m超えの体も、女王を見たあとなら赤ん坊だろ。
切れ味だけが不安だけど…いけ!
ザンッ!
一匹目の首を落とした!
いける。
あとは不意打ちに注意して…
───これで…終わりだ!
「はあ…はあ…よし…結構疲れたけど…こっちは終わっ──」
瞬間、右半身を巨大なナニカが通った。
危ねぇ…!
そうか、今のは女王か…!
確かに攻撃しないなんて言ってないな!
足であのサイズ…規格外───
ブゥゥゥン!!
またか!
なんて音だよ!
ちっ、対処は…いや、危険だ!
早くカイと合流しないと…!
「カイ、どうだ!」
「とっくに終わってる。あとは女王だけだ。」
「早いな!あとは女王か…うし、やるか。」
さて…
まずは足の付け根とかいいんじゃないか?
なんせこんだけの巨体だ。
そうだな、潜り込むべきは…
「グアアアアアアア!!」
「ジオ、振りかざしてくるぞ!」
「分かってる…よっ!」
読んでたさ。
感知ナイスだ。
こいつは体内に魔力が流れまくってるって分かった。
なら予測は簡単だ。
避けて、腹の下に滑り込む。
じゃあ形作った剣をブッ刺し──
「危ない!」
カイが叫ぶ。
咄嗟に、腹の下から逃げるように跳び去る。
何だよ!と思ったが、なるほど、こいつ卵産んでやがる。
目の前のチャンスに夢中になり過ぎてた。
だが、後ろから来たアリの顎を回避できた。
「カイ、サンキュ。次はもっと上手くやる。」
「うるさい、もうオマエに主導権はやらないぞ。僕の言うとおりにしろ。」
カイの言う通りは嫌だ。
でも確かにヘマしたのはオレだから…くそ。
「…つっても、あいつどんどん産むぞ。作戦会議の時間もないんじゃないか?」
「だからうるさい。作戦は、僕にオマエが合わせる。以上。」
「あーはいはい、分かったよ!」
カイが飛び出す。
あいつ、頭部を潰すつもりか。
合わせんのは癪だが…
「ファイアーー!」
声に出すとやる気出る。
「そのままアリ倒しておけ。僕はさっさと潰しに行く。」
あいつ、障壁を足場代わりに…
いつ習得したんだ?
いや、あいつのことだ。
オレを参考にしたとかだろうな。
まあ口からは言わないんだろうが。
…って、この魔力の流れは!?
「カイ、気をつけろ!なんか吐き出してくるぞ!」
「分かってる。オマエは自分のことに集中しろ。」
「グアアアア!」
吐き出されたのは毒か?
カイ、大丈夫か…
ああ、あいつ魔力で身を包んでるな。
イメージは鎧って感じか。
それなら安心か。
じゃあ、オレは目の前の特別強そうなアリどもに集中するとしま───
「キエエエ!」
うおっ!速い!
…右頬掠めたか?
遅かったら首いってたな。
厄介なのは、これが数匹いるところか。
骨が折れるな…
ここぞって時の集中も今はあんまり来てないし…
あれ以上速いなら動体視力も足りなくなるな。
いや、今はいい。
次はこっちだ!
まずは足を切って動きを止める!
いくぞ魔力剣!
「はあっ!」
気合いを込めるが、躱された。
…だが、終わらない!
連撃を…叩き込む!
右手に剣、左手に炎を準備する。
おまえに避け切れるか?
「ギエエ!?」
右前足、捉えた!
あとは一気に…!
ザザザッ!!
切り刻んだアリの体は、崩れ落ちた。
いける!
あと…三匹!
「うおおお!」
…?何だこいつら、急に当たらなくなった?
ああ、こいつらも学習するのか。
だったらオレは、新しい手札を加えてやる!
炎の応用もかじって、基礎からやる。
敵の対処も忘れずに。
魔力の流れだ。
高速で流れを作るのもまた可能なはずだ。
あ、きた。この集中!
よし…
周りの空気を巻き込め。
流れる空気は、風流になる。
殺傷能力。
鋭く、疾く、確実に。
起点は手のひら。
適量な魔力を込める。
くそ、ムズい!
「キエエエ!!」
「…よし、来た!オレに時間を与えたのが間違いだったな!」
シュンッ!!
「キ…ギ…エエ…」
やつらの体は崩れた。
はは、風魔法の完成だ!
今のは風の刃ってとこか?
…あ、炎を纏わせて凶悪なこともできるな。
女王で試すか。
あ、カイは?どうなった?
「…おいあいつ、苦戦してそうだな。」
女王の眼に腕をブッ刺してやがる。
女王も暴れるもんだから、カイが振り回されてる。
「カイ、待ってろ!今加勢して…」
『グアアアアアアアアアアアアアア!!!』
待て…!?
なんか、マズ───
ドゴオオオオォォォォン!!!
グハッ……!!
声が出ない…痛い…!!
咆哮…
衝撃波…!?
オレもカイも…吹っ飛ばされた。
見逃しては…くんねぇか…
足振りかざしやがって…
やべ…死ぬ。
意識が…
瞳に映る景色…
女王は、不敵な笑みを浮かべていた。




