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画面の奥の旦那さま  作者: 大関 里


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9/22

蛇に微笑まれた猫

澄は部活の後顧問に呼び出された。



遅くなりそうだったので薫には先に帰ってもらっていた。


たっぷり日が暮れて辺りは真っ暗だ。

昇降口に向かう足取りは重い。




インターハイに向けて新しいチームでの主要メンバー構成を顧問から話された。

有能な一年が入ってきて嬉しい反面、三年でレギュラーを外される予定の者も居る。

仕方のないことだとは分かっている。

勝つ為なのだから……。


それでも、気持ちの良いものではない。




薫ならこんな時、こんな気持ちも含めてドーン!と構えていられるんだろう。

澄は白黒ハッキリしているタイプだが、繊細な心の持ち主ではある。


薫は相手の気持ちには鈍感だが、それでも人から好かれるだけのスケールの大きい器があるし全力でぶつかってくるし、

応えてくれるので、アホなところも含めて……皆に好かれているのだ。


薫は人の気持ちが読めない、ただのガサツな性格ではない。



澄はハッキリ白黒つけたがるので煙たがられるタイプだ。

だが、それは相手のことをしっかり考えた上での言葉なのでチームメイトからは信頼されている。

けれど、厳しい言葉を言った後にいつも自分の心に穴が空いているような気がして気分が落ち込む……。



唯一気にしなくて済む相手は、薫と時尭くらいだろうか?

薫は器が大きすぎて気にしないし笑って全部飲み込んでいく。



時尭に関しては、よく分からないが、澄の辛辣な態度や言葉で喜んでいる、一種の変態だと思っている。

なので、考えなくていいので楽だ。




まぁ、最近変に視線を感じて鬱陶しいが、それを除けば笑いのツボも、薫が好きなところも同じなので他の人と居る時のように変な緊張はない。心は楽だ。






(……部活のことで悩んでたのに、何で時尭くんの事なんて考えてるんだろ――。)


けれど、少し心は軽い。




(――早く帰ろ。)

そう思い昇降口へ急いだ。




もう誰もいないはずの下駄箱にスマホの光が見えた。



(――薫?)



近づいて薫じゃないことに気が付き、顔をしかめた澄。







「……なんで居るのよ。」


「猫ちゃんにチュルル買ってきたから待ってた。」

ニコニコしながら時尭がパウチタイプのアイスを差し出す。



「誰が猫よ……。」

目の前の時尭は澄に睨まれて嬉しそうだ。


「早く食べないとドロドロに、溶けちゃうよ?」

そう言って澄の唇を見つめた時尭は、



「それも美味しそうだけど……。」

と付け加えた。






澄はアイスを奪うようにして受け取ると、


「二メートル……離れてくれる?」

と『猫の勘』で何かを感じ取ったのか距離を取った。





「二メートルでいいなら!家まで送るね!」

近寄るなと遠回しに言ったのに、嬉しそうな時尭はやはり、変態なのだろうか。

きっと、そうに違いない……。



澄は嫌そうな顔をしながらも、

一人で帰らなくて良くなったことに心の奥ではホッとしていた。





時尭が安全かはさておき、澄の嫌がることはしてこない。

いや、不快にはさせて喜んでは、いるのだが……。








暗い夜道を歩く。


後ろから時尭がピッタリ、二メートル離れて付いてくる。





「……最近なんで見てくるの。」

澄が気になっていたことを聞いた。


「え?美しいものは愛でたくなるでしょ?」


「……バカなの?」


「ふふ。バカなのかも。澄ちゃん限定だけど。……猫飼いたくて、だけど猫には嫌われちゃうから澄ちゃん可愛がろうかなぁ、て。」



「え、迷惑なんだけど。」


「うん、いい。その顔。」


振り向いて不快さを露わにした澄の顔を褒めた。

――意味不明だ。




「初めて会った時からその顔好きなんだよね。」


ニコニコしながら爆弾発言に澄が呆れる。




「他の子は俺にそんな顔しないし、澄ちゃんもそんな顔他の人にしないでしょ?」



「凄い役得。」そう言って微笑む時尭。



――澄は心の中で叫んだ。


(――っ、誰よ!こんな危険生物を『王子様』だなんて言い始めた人っ!!!!!)



「その内、俺に飼われてね、猫ちゃん。」

そう言って笑った時尭は捕食者の目をしていた。




背中をゾクリと汗が伝う。



「――っ!!!ご、五メートル離れてっ!!!」


そう慌てて言った澄の目に映ったのは、ニンマリと笑った悪魔の様に綺麗な時尭だった。






部活での悩みなど吹っ飛んでしまった。


澄は早足で家へと急ぐ。

時尭が後ろで「可愛いー。」とか言いながら五メートル空けて付いてくる。





心臓がバクバク鳴るのに気がつかないふりしながら、澄は思った。





(沼地危険、毒物よ!混ぜるな危険!)


家の前で

「じゃあね!」だけ言うと逃げるように門を開け、素早く玄関の中へと身を隠した。





少しだけ開け直して、


「送ってくれてありがとう。」

バタン!


それだけ言うと返事も聞かず玄関を閉める。




外から時尭の笑い声が聞こえる。

嬉しそうなソレを聞いて、やはり「性格悪い。」と思った澄だった。






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