愛犬がめでたい
蒼祐の『愛犬』は頭の中が『おめでたい』……。
どんなに冷たくしても全力で尻尾振ってニッコニコで絡んでくるし、
そのしつこさに、折れて構うと全力で嬉しいを体現してくる……。
朝の薫の鼻血を拭いただけでその後『待て』から解放された犬の様に、もう、
――止まらなかった……。
気分は顔中舐めまわされたような気分だ。
いつだって、『待て』は出来ていないのだが……。
今日は一段と酷かった。
休憩時間になれば『栄養補給』という名目の元、
蒼祐に撫でてもらおうとやってきて頭をコテン。と傾げて見上げてくる。
(……目に毒ですね。)
移動教室ともなれば、世話焼き女房の如く、いや散歩が待ちきれない犬の様に、手を引かれ引き摺られた。
どうやったら163cmの女の子が185cmオーバーの男を引きずれるのか謎だが、
小型犬の様な顔して力は大型犬達並みだ。
流石、『異世界級タンクリベロ』と他校から恐れられてる薫だ。
「蒼祐次移動だよー!行こー!一緒にー!」
蒼祐の静かな抵抗は意味を成さない。
無言で引き摺られていった。
「……。」
お昼休みまで絡んでくるので蒼祐は午前中で結構消耗していた。
そんな蒼祐を時尭が笑いながら見ている。
今日は昼休みに普通科に来たようだった。
澄は少し嫌そうで、薫は嬉しそう。
今日も何故こんなにも騒がしいのか蒼祐はため息を付きながらも、
薫に触れられるのを振り解けない自分の中途半端な状態にもため息をついた……。
今日も『愛犬』は可愛いが、お昼を食べながらも、
ずっと話しかけてくる。
「……ぇえ。」
「……はい。」
「……そうですね。」
それしか言ってないのに、無言じゃない蒼祐が嬉しいらしく、幻影の尻尾は空を飛べそうなほどぶん回っている……。
『愛犬』に押し負けてる蒼祐をみて時尭の笑いは止まらない。
「蒼祐、朝から薫ちゃんにやられっぱなしだね〜。」
と言いながら肩を震わせている。
澄はそんな時尭を見て、静かに顔をしかめている。
「なんで皆んな優しいとか思ってるんだろ。」
とボソリと言ってる。
そこは完全に同意。
薫は、
「今日は蒼祐が可愛いし構ってくれるし栄養補給は十分だよ!」
とかいいつつ、八個目の巨大な唐揚げを食べ始めた。
そんな薫を険しそうな顔で見た蒼祐の脳内は、
(……今日も可愛い。バカですね。)
だった。
ちゃんと薫に毒されてます。
素直じゃない飼い主は今日も愛犬に振り回されて、ゲンナリするほど幸せな昼休みを過ごしていた。




