猫を愛でたい
(――あー、猫愛でたいなー。でもなー、嫌われてるからなー。)
時尭は授業中に授業内容など聞いていない。
頭の中は猫を愛でたいが大半を占めている。
時尭が見つめる先の窓の外では、
普通科クラスが外で体育の授業中だ。
薫の元気な声が聞こえる。
隣には澄が居る――。
今朝、三人を置いて行った澄を思い出す。
時尭は澄のドン引きしてる時の顔が気に入っている。
(今日も怪訝そうな、良い顔してたなー。)
――あれは、薫に紹介されて初めて澄に会った時のことだ。
いつもの様に笑顔を貼り付けて完璧に振る舞ったつもりだったのに、
(苦手だな。)みたいな顔されて素っ気なく形式上の挨拶を返された。
その時の衝撃を忘れられない。
あの時から時尭は澄に夢中だ。
手に入れたいけど、好かれようとはしていないのかもしれない。
いや、好かれたい、けれど、
あの美人が怪訝そうな顔で見るのが堪らなく好きだ。
他の女の子達では得られない反応は時尭の心を擽ぐる。
そんな時尭を現実に引き戻す先生の声。
「――水智。さっきから随分と窓の外が気になるようだな。これ、答えてみろ。」
時尭は窓の外を見たまま、
「……-log 2です。」
「……正解。せめてこっちを見て答えろ。」
「すみません。」
ニコッ、と笑って黒板を見る。
けれど数秒後には、また窓の外。
(――澄ちゃん、髪結び直してる。可愛いなー。長毛種のふわふわな尻尾みたい。)
時尭の思考は、この後も授業に戻ることはない。
『猫』の観察に夢中だ。
先生は呆れながらも、これ以上突っ込めない。
一つも黒板を見ないくせに、ノートにはきっちり書き込まれている。
そんな異常事態が、この男に限っては通常事態で、指摘してもニコニコ微笑まれて躱されるのだ。
澄はなんだか視線を感じ、寒気がしてブルリと、肩を震わせた。
猫は白蛇の張った罠から逃れられるのだろうか?
ジワジワと知らないうちに出口は塞がれて行っている。
きっと気がついた時には手遅れだろう。
その時まで、白蛇は今日も猫を遠くから愛でながら狙っている。




