尊死
薫は今日、寝坊した。
非常にマズイ――!
母は大っっっっ変、ご立腹だ。
昨晩『SOU』の過去の投稿やら電子雑誌やらを読み漁り、
気が付けば朝方だったのは覚えている。
そしてそこで「少しだけ……。」と寝たのが運の尽き。
薫は大急ぎでボサボサの髪をポニーテールにまとめた!
(さらばっ!サラサラハーフアップの私っ!)
大急ぎで食パンかじって、歯を磨き、忍者のような素早さで準備する。
さすが、北陵の守護神リベロ。
目からレーザーが出てる母の視線を掻い潜り、家を出た。
「行ってきまーす!」
先に出てもらった澄に追いつくべく猛ダッシュ。
澄は既に時尭や蒼祐と合流していた。
「おはよーーーー!」
三人に突っ込んで行く。
澄はスッと避けるので、今日も蒼祐と時尭の間に、
ボスっ!と、無事挟まった。
「毎朝、元気だねー。」
時尭は相変わらず優しい。
「……。」
蒼祐は無言で腰をさすっている。痛かっただろうか?
「和葉さん般若だったわね。」
澄はちょっと面白そうに思い出していた。
薫の不幸は好物だそうだ。……酷い。
「あ!栄養補給!」
「ん?薫ちゃん朝ごはん食べれなかったの?」
時尭が心配そうに薫を覗き込む。
「んーんー、違うよー。寝坊してもご飯は食べる。」
薫はスマホを見ながら答える。
「――でしょうね。」
澄は相変わらず酷い。
『SOU』の公式Irustagramは朝、更新されるのだ。
朝の栄養補給にもってこい!
だが、寝坊したので今日分をまだ確認出来ていなかった。
画面の奥に『SOU』が映る――!!!!
「っ!ひやぁあああーーーーーーーー!!!!?へそぉおおっ!」
通学中の道で薫が奇声を上げた。
「?!なにっ!!!」
澄がキレる。
時尭は咄嗟に薫の口を押さえた。
「っ!んーーーー!!!!!」
手からこぼれ落ちたスマホを蒼祐が無言で素早くキャッチした。
が、薫を見て固まった。
「……え?」
鼻血が出ている薫。
ワナワナして放心状態だ。
「薫ちゃんっ?!」
時尭が焦りつつ、心配そうに声をかける。
「嘘でしょ?!薫鼻血っ!!!!!」
流石の澄でも薫の鼻血には、ギョッとしている。
蒼祐が画面を見た。
その瞬間首がとれる勢いで画面から目を逸らした。
そして、時尭にスマホを押し付けるとハンカチで薫の鼻を潰した。
これでもかという程に……。
「わぷっ!――えぇー!痛い痛い痛いよ蒼祐!」
(鼻めっちゃ痛いけど、蒼祐なんか顔赤いの可愛いーし!鼻拭いてくれるの嬉しいなー!)
薫はそんな事考えながら鼻をゴシゴシ拭かれている。
蒼祐から触れてくれる貴重な機会は逃さない、されるがままだ。
時尭は蒼祐に押し付けられたスマホ画面を見てみた。
画面に映っていたのは――。
『SOU』の更新されたばかりのIrustagramだった。
腹筋が少し覗く服装のショットと、
少し髪を乱して、アップでカメラを覗き込むSOUだった――。
時尭は盛大に吹き出した――。
「ぶはっ!!!!!」
体をくの字に曲げ肩を揺らしながら笑っている。
「蒼祐、こりゃ、っくっ!!!ふっふ、ふはっ――!」
「……時尭くんは黙ってください。」
蒼祐は険しい顔で薫の顔を拭き続けている。
その隣で笑い続けている時尭。
「ねぇ、凄いんだよ、澄ちゃん見てよー!!!SOUが!おヘソみせてて!!」
ギュウウウウ!
「痛いー!壁ドンしてるの!!」
ギュムゥウウウ!
「痛っ!んで、壁ドンの顔がドアップでっ!!!反則級の色気っ!!!」
ギュギュゥウウウ!!
「……薫さんもう黙りましょうか。」
蒼祐は鼻血を止めるつもりなのか、薫の暴走を止めるつもりなのか、
ハンカチを全力で押し付けている。
「蒼祐ありがとーーーー!けどめっちゃ痛いー!!!」
嬉しそうな薫は、蒼祐からのスキンシップならなんでも嬉しいようだ。
羞恥はどこに置いてきたのだろう。
澄だけ、この場で唯一まともだった。
ずっと笑ってる時尭に、
鼻血まみれで騒いで、SOUと蒼祐で栄養補給している薫、
長身猫背の蒼祐が、ハンカチで鼻血を押さえつつ、暴走する薫まで必死に取り押さえている。
(た、他人のふりしたいわ……。)
澄は終わらない馬鹿すぎる状況に、三人を諦めて置いて行った。
(破廉恥なSOUを見て鼻血出した薫に巻き込まれて遅刻なんて、絶対嫌だもの――。)




