初恋?
現実逃避中の薫にとって今日が土曜日なのは、
大変っっっ!!!
……有り難かった。
蒼祐に抱き付きたいのに、抱き付けない。
目が合えば動悸がする。
素直に蒼祐を可愛がれない……。地獄だ……。
だが、そんな薫の第二の栄養源!
SOUは今日も可愛いくてカッコよくて、そしてエロかった。
薫の中で『エロい』なんて感覚はSOUが初めてだった。
初めて画面の奥のSOUを見た時の衝撃は今でも忘れられない。
自分でも女子としての、中身が残念なのは分かっている。
色恋なんて縁がないと思っていたし、自分には関係ない事だと思っていた。
なのに、心から、
いや……魂が揺さぶられた。そんな衝撃だった。
ずっと探していた。
そんな感覚で……逢いたい。
……触れたい。そう思ったのだ。
だが、SOUの事を考えてた薫の頭の中に、
急に蒼祐に触れられてキスされた時の記憶が割り込んできた――。
そういえば、エッチだと思ったのはSOUだけではなかったようだ……。
「ぁあああ!!!せっかく忘れようとしてたのに!!!」
黒蛇のぬいぐるみに顔を押し付けて叫んだ。
小さい頃からのお気に入りの一匹だ。
薫は蒼祐のエッチなキスを考えまいと、
この、黒蛇ちゃんを手に入れた時の事を思い出していた。
あれは時尭や蒼祐が引っ越してきて、幼稚園で初めて会う前の事だった。
公園で、父親と隠れんぼをしていた時に黒蛇ちゃんに出逢ったのだ。
現在、色恋に興味も関心も持ち合わせていない薫だが、
アレは、……今思うと確かに、初恋だった。
その頃から薫は蛇が大好きで、
ピンクのお気に入りの蛇のぬいぐるみをマフラーの代わりに首に巻いていた。
そんな奇妙な格好の薫が、
公園で泣いていた黒蛇を見つけたのだ。
黒蛇のモコモコのパーカーを着たその子は茂みの奥でうずくまっていて顔が見えなかった。
黒蛇パーカーの蛇さんと目が合ったのだ。
可愛いパーカーだな、と思ったので話しかけた。
『黒蛇さん?だいじょぶ?』
薫が話しかけるとその子は、酷く身体をビクつかせた。
泣いているみたいだった。
『ヤー、アッチイッテぇ!』
少し高めの声が可愛かった。
泣いているせいか、話し方が辿々しくて、薫は守ってあげたくなったのだ。
『だいじょぶだよ?カオルは蛇さんが、だーーーい好きだから、こわいことしないよ?』
そう言うと、黒蛇さんがピクリと動いた。
――ゆっくりと顔を上げる。
『ホントぉ?』
顔を上げたその黒蛇さんが薫の瞳に映った瞬間に、
――薫は恋に堕ちたのだ。
『わぁ、すごーーーくっ、綺麗ね!黒蛇さんっ!!!!』
『キレー?』
『うん!綺麗!!!可愛い!!!』
『きもち、わうく……ない?』
黒蛇さんはその綺麗で可愛い顔をコテン、と傾げた。
『わるくないよ?とっても!可愛いよー?』
『ホントぉ?』
『うんっ!!!本当ぉ!!!』
その瞬間の黒蛇さんの笑顔は、もう。見ていられないくらい輝いていて、可愛くて、綺麗で、
夢でも見てるみたいに世界が輝いて見えた。
銀色の綺麗な髪は光に透けて、言い表せないくらい綺麗だった。
グレーとブルーのオッドアイは、
吸い込まれるように綺麗で、涙で縁取られてるその瞳がキラキラと光っていた。
『ソぉーくん、ウレシー。』
そう言って笑ってくれたあの黒蛇さんが薫の初恋だ。
その日の事を久しぶりに思い出した。
あの日の後、何度公園に行っても綺麗な黒蛇さんには会えなかった。
悲しかった薫はおもちゃ屋さんで見つけた黒蛇のぬいぐるみをサンタさんにお願いしたのだ。
その黒蛇のぬいぐるみを抱きしめながら、
ふと画面の奥のSOUを見て、
(『ソぉーくん、ウレシー。』)
頭の中で黒蛇さんの名前を思い出す。
「……えっ?えっ???……SOUっ!!!!!――くっ、黒蛇さん?!!!!?!」
薫は家の外まで響くような声で叫んだ。
衝撃波並だった。
勿論、母和葉からの雄叫び衝撃波が返ってきた。
「休みの日くらい静かに出来んのかっ!!!!!」
今日も東雲家は平和に騒がしい。




