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画面の奥の旦那さま  作者: 大関 里


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2/22

特進科の王子様

四人で話しながら登校するのがお決まりだ。


下駄箱で靴を履き替えながら時尭とは分かれる。


時尭だけ『特進科』なのだ。

制服も一人違っている。特進科は男女共にブレザーだ。


普通科の蒼祐は学ランだし、薫と澄はセーラー服。

同じ学校でも校舎も離れている。




「それじゃあ、薫ちゃん澄ちゃんまたね。」


時尭が二人に手を振って自分の教室に向かう。

蒼祐は先に一人で教室に行ってしまった。



「時尭またねぇー!」


「それじゃ、また。」



ブンブン手を振る薫と、あっさりとした挨拶の澄。





二人と分かれて教室に一人向かいながら時尭は思う。


(――犬と猫みたいだな。)




時尭は犬には好かれるのに、猫には何故か嫌われる。



ふふふ、と笑いながら教室に向かう。

その顔をすれ違いざまに見た女子達は、胸キュン者多発だ。



この男、学校一顔が良い。


頭も良く、模試も全国一位を何度も取っている上に、性格も穏和で、分け隔てなく優しいので、

男女共に人気がある。


弓道部で袴姿を見た女子が失神したと言う逸話の持ち主だ。





(猫、飼いたいなー。)


なんて思いながら上機嫌で、笑っている為。

朝からすれ違った女子達の血圧を跳ね上げていることを、本人は、知っているのか……いないのか……。







昼休み、時尭は普通科に行こうとしたが特進科の女の子に呼び出されて体育館裏にいた。




「――時尭先輩のことが好きです!付き合ってくださいっ!」



可愛い女の子だった。でも時尭には手に入れたい人が居る。


「ありがとう、でも……ごめんね。今は誰とも付き合う気がないんだ……。」





入学してから何人目だろう。

数えたこともないのでわからないが、

高校に上がってからだけでも、100人は超えている。




女の子は泣きながらもお礼を言って立ち去った。



毎度断らなくてはいけないので気が滅入る。

気持ちは有り難い。

でも、手に入れたい人はただ一人……。


(……多分あまり好かれてないけど。)





(そんな所も……好きだなー。)


なんて思いながら。




(今日は昼一人で食べるか……。)


と普通科に行くことを諦めた。







特進科の王子様はなかなか静かな時間が取れないようだ。




王子とか言われてるのは知っている。


だが、そんなガラじゃないんだよな。と思う。



蒼祐が時尭が『王子』と呼ばれてるのを知った時の反応は、


「女子は目が節穴なんでしょうか……?」

だった。


基本、心から優しくしたい、守りたい。

と思うのは『薫』限定だ。




その他の人に関しては当たり障りなく接しているだけ。

なんなら面倒だとすら思っている。




その気持ちに少し変化があったのが中学に上がってからだ。



でも、逃げられるのが分かっているから、逃がさないようにゆっくり、ゆっくりと締め付けて。


最後には丸呑みするのを想像して、今から楽しみで仕方ない。





そんな時尭を、蒼祐は『蛇』みたいだ。

と言うけれど、その通りだ。




自分がどれ程執念深く、一度欲したら逃がさない性格なのかはよく知っている。


それは物心付く前から知っている事だ。







蒼祐は憶えていなくても、時尭は憶えている――。



自分の前世も、その後、蛇だったことも。


蒼祐や薫と、前世でどんな風に関わっていたかも――

よく憶えている……。


けれど、今は今の自分だと思っているので、前世の記憶があっても普通に過ごしている。

二人に打ち明けることも無い。







蒼祐には前世の記憶はないが、

日本に来る前、ロシアに住んでいた頃は――悪夢をよく見ていた。


夜中その悪夢を見ると、決まって大泣きして時尭を抱き締めていた。



『ゔぁーーーん。っぅう……時くん、時くん!死んじゃ、やだぁーーーーー!』


そう言って、存在を確かめるように抱き締めるのだ。



『大丈夫だよ、死なないよ?ここに居る。……大丈夫だよ、蒼くん。』



抱き締め返して、何度も『大丈夫』そう言い聞かせるとそのまま抱き締めながら眠りにつく蒼祐は可愛くて、

でも前世を憶えている時尭は一人、苦しかった。




それでも、一生『秘密』だ。


蒼祐にも薫にも何も背負わせたくない。

今世も二人が大切だから――。

そこは、変わらない……。






蒼祐が悪夢を見なくなったのは、日本に越してきた5歳くらいの時だ。

幼稚園で薫と出逢ってから、段々と落ち着いてきたようだった。





記憶は無いのに、薫の影響力は凄かった。

前世の薫と比べると、天然な部分は一緒だが、その他は全くもって似ていなかった。


それは面白い程に。



前世で妻だっただなんて、不思議な気分だし。

前世でどれ程愛していたかも憶えてる。


それでも今の自分と前世の自分は別物だと思っている。

実際、薫のことを大切に思っても恋愛感情は持ったことがない。

大事な『妹』的な存在だ。



とても、手のかかる可愛い妹。


見ているだけで微笑ましい。






稀に、時尭に好意がある女子から嫌がらせを受けたりしているみたいだが、

全力で気が付いていないのが面白い……。


あの明るさで、逆に本人が知らぬ間に返り討ちにしていて、

度々時尭の腹筋は笑い過ぎて筋肉痛だ。




笑っている時尭を見て蒼祐は顔をしかめている。



勿論、薫に悪さをした女子はその後、時尭に笑顔で冷たくされるので、

薫を標的にしたら嫌われるのは周知の事実となった。




それすら知らない薫は最強の天然危険物だと思う。





時尭が薫にだけは心から優しいので、時尭が優しいと全力で思っているのも、

可愛くて仕方がない。



特進科の王子様こと、時尭はお腹が空いたので購買でパンを買おうと、



体育館裏を後にした。




今日も平和だ。

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