衝撃は胸焼けの後で
澄はコンビニにいた。
そう、時尭に捕まってしまい、また二人きりで下校する事になったのだ……。
チュルルアイスをニコニコ顔で差し出す時尭。
薫が受け取ったパプコアイスとは、えらい違いだ……。
「澄ちゃんは胸がいっぱいにはならないのかな。」
「どうやったら胸がいっぱいになるのよ。むしろ胸焼けで気分が悪いわ……。」
「そっか、残念。」
ブラックコーヒーとカカオ85%のビター味。
新作のチュルルアイスは美味しかった。
「美味しい?可愛いね。」
表情に出したつもりはなかったのに、この男……。
めざとい……。
「……………。」
澄は無言でチュルルを飲んだ。
そんな澄を甘いニコニコ顔で見つめる時尭に、やっぱり胸焼けしそうだった。
「そういえば、澄ちゃん保健委員なんだって?」
「そうね、それが?」
「俺が倒れたら運んでくれる?」
「ご自分の力で這って保健室にどうぞ……。」
「……介抱はしてくれ「しません。」」
「残念、澄ちゃんはつれないなぁ……。」
ちっとも残念そうな顔してない。
嬉しそうなのは何なんだろう……。
「澄ちゃん?」
――しまった、顔を見てしまっていた。
「見惚れた?」
心底嬉しそうに時尭が微笑んだ。
その顔は悔しいが、美しくて――。
澄は盛大に顔をしかめた……。
「……見惚れてないわよ。」
「ふふふ。そっかぁ。」
時尭の楽しそうな声が帰り道に響く。
澄は無理やり別の事を考えようと、
蒼祐の事を思い出していた……。
あの後、『心配だから……』と帰る準備をして、薫を抱き抱えて家まで送り届けたのだ。
流石に荷物までは持てなかったので、澄が持ち帰る約束をした。
双子でこんなにも性格が違うものなのだろうか。
優しく誠実な蒼祐。
優しさの皮を被って掴みどころのない時尭。
なんて男に気に入られてしまったのだろうか――。
そんな事を考えていたら、隣が静かな事に気がついた……。
――不気味だ。
澄はゆっくりと左を歩いている時尭を見た。
冷ややかな視線に射抜かれる。
ビクッと澄の体が硬直した。
「俺と話してる時に他の男のこと、考えてた?」
冷や汗が背中を伝う。
(――何で分かるのよ!)
時尭の手がゆっくり澄に伸びる。
澄は動けない。緊張で体は強張るばかりだ。
時尭は猫の尻尾に優しく触れた。
ひと撫でした指先を、自らの唇へと運ぶ。
スラリとした綺麗な指が時尭自身の唇を撫でる。
澄の顔がありえないくらい真っ赤に染まる。
「――俺だけ見ててね?」
そう言った時尭は、
およそ高校生が出してはいけないほどの色香を放っていた。
「……ぅ、……はぃ……。」
満足気な時尭に動けない澄は手を引かれ歩く。
澄はどうやってその後、家に帰り着いたのかよく覚えていなかった――。
自分の部屋で、先程の事を思い出して澄は盛大に頭を抱えた。
「『……ぅ、……はぃ……。」って何よぉーーーー!」
ベッドにクッションを叩きつけた。
脳内が勝手に、
時尭の冷ややかなのに熱い視線を思い出す。
髪に触れられた時の微かな衝撃と、
その指が時尭の唇を撫でた時の、全身の毛が逆立つような感覚が戻ってきた。
澄はそのままクッションに突っ伏した。
危険生物に片足呑まれている事にまだ澄は気が付かない。
今日も澄は眠れなさそうだ。
アーメン。




