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画面の奥の旦那さま  作者: 大関 里


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14/22

足軽で出立つ

朝から元気がなかった薫は蒼祐と何かあったみたいだ。


ケンカ?とは違う気がするけれど、

……蒼祐を補給せず逃げるだなんて前代未聞だ。


薫は足が速いので追い付くのは結構本気で走らなくてはいけない。

それでも追いつけないので呼び止めた。






「薫!待って!」


昇降口を通り過ぎて外にある部室の方に走って行く。





やっと追いついたと思ったら部室の裏でうずくまっていた。


「蒼祐くんとケンカ?栄養補給してないから元気ないの?」


「……無理、蒼祐の栄養補給なんて出来ないよ。」


「……何かあった?」


「……昨日……。」


「うん。」



「二人きりの時に、手を握ったら……。」

「うん?」



「……キスされた。」





「……そう……。」




どこから突っ込もう。

澄は蒼祐によく頑張った。と言うべきか、薫に自業自得と言うべきか、と悩んだが。

珍しく薫が頭を抱えて参っているので、責めないことにした。



あの薫にこんだけ悩ませるなんて凄いじゃない!と蒼祐を見直しさえした。


(多分、蒼祐くん薫の暴走、頑張って止めたんだろうな……。けど、タガが外れたんだろうな……。)





「……キスが嫌だったから避けてるの?」


「嫌じゃなかった。思い出すと胸の奥がギュッと切なくなるし落ち着かなくて……。」


「やっと、男の人だって、気がついたみたいで良かったわ。」


「おっしゃる通りで……。」




しょんぼり、落ち込んでいる薫は珍しいので澄は、

密かに記憶シャッターを押しまくって脳内に保存したのは、薫には一生秘密だ。





「好きなの?」


「……分からないよ。蒼祐の事は大好きだけど、ずっと弟みたいに思ってて、だけど、蒼祐に好きだと思われてたのを知って、嬉しいと思っちゃって――。」


「目も合わせられないし、栄養補給に抱きつくなんて出来ない!」





「蒼祐くんも、ずっとそうだったんだと思うわ。薫を好きなのは見ていて分かってた。だから薫が弟扱いで彼に抱きついたりしている時気の毒だったもの。」



「言ってよー。」


「言っても笑い飛ばして気にもかけなかったでしょ。」



「……そうかも、そんな事考えもしなかったから。」




まぁ、そうだろう。

男よりボール追いかけてる方が似合う。

(犬……。)


澄はハッとした。親友が本当は犬だったのかと錯覚してしまった。





「けど、澄ちゃん。キスってあんなにエッチなの?」


「えっ?!」


澄は戸惑う。キスなんてした事ない上に少女漫画でのキスしか知らない。



「唇が触れる、……のがエッチだった、の???」


恐る恐る聞いてみる。




「……口の中、舐められて、熱くて、蕩けそうだった……んだょ……。」

最後はモゴモゴと小さな声だった。



「…………。」

「…………。」





「それは、エッチね、確かに……。」

経験のない澄は、そう答えるのがいっぱいいっぱいだった。









「……それで?」


薫が澄に急に疑問を投げかけた。



「?、――なに?」


「朝、時尭が澄ちゃんに『可愛い』って言ってたし、澄ちゃん慌ててなかった?顔、赤かったよ?」





めざとい……。







「ぁーーー。言わなきゃダメ?」


「ダメでしょ、逃さないよ?」

薫が『ほらっ!』と急かす。






「時尭くんに、昨日……。」

「うん。」



「……飼われてね、って言われた。」

「……ん???――飼われる、とは?」



「猫が飼いたいんだって。」

「ほう。」


「猫みたいで愛でたい、らしいのよ。」

「誰を、誰が。」



「私を時尭くんが……。」







「…………。」

「…………、時尭?!」






「あ、……。」

薫は言いかけてやめた。


「なに?」

「……愛情の表現が歪んでるなー、て。」



「あれ、愛情なの、……?」

「愛情だと思う。」


「揶揄ってるだけだと思うんだけど……。」

「愛情だと思う。」


「根拠は!?」

「感っ!!!」






「…………。」

「…………。」






「……ホームルーム始まるから、行く?」

「……だね。」





なんの解決もしてないが、教室に向かう。


今日は午後から荒れ模様と天気予報が言っていた気がする。

生暖かい風が強く吹き始めた。





戦の開始の音がした。






――キーンコーン、カーンコーン


キーンコーン、カーンコーン――


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