両蛇の胸中
憂鬱な朝に蒼祐は時尭に引きずられるようにして家を出た……。
(なんで、皆俺を引きずるんでしょう……。)
そう思いながら登校する。
薫に会いたいけど、会いたくない。
いつだって、触れたいけど、触れられなかった。
自分で詰めた距離なのに、昨日までのようには行かない事くらい分かる。
学校に近づいた時、前を歩く薫と澄を見つけた。
薫の方が早く登校しているのを初めて見た。
(このまま、適度な距離で――。)
そう思っていたのに、時尭が二人に話しかけた。
「薫ちゃん、澄ちゃんおはよー!」
ビクリ、と二人が反応した。
薫は時尭ではなく蒼祐と目が合った。
一気に目を逸らされ、蒼祐は落ち込む。
「……時尭おはょ。」
薫がしおらしい。
「……ぉはょ。」
澄も消え入りそうに小さな声だった。
「澄ちゃん、今日も可愛いねー。」
ニコニコと時尭が追撃する。
「バッ!かじゃないのっ!」
澄が赤くなり距離を取った。
そんな澄を満足気に見ている時尭のメンタルは化け物なのかな、と蒼祐は思った。
いつもなら飛んでくる薫が近づいてこない。
近づかれても困る。
でも、近づかれないと悲しいと思ってしまう自分は我儘だ……。
蒼祐は無言で歩いた。
今日は皆ギクシャクしながら登校しているというのに、時尭だけ嬉しそうで、
我が兄ながら、とんでもなく変態だな。と思わざるを得なかった……。
蒼祐は薫の後ろ姿に願った。
(薫の元気な姿が見たい、触れたい。……お願い、こっち見て――。)
そう願った時、不意に薫が後ろを振り返った。
目が合う二人。
薫は唸ると、叫んだ。
「ごめん!先に行くーーーーー!」
その耳は少し赤かった。
「え?!ちょっとまって薫!私もっ!!!」
そう言って走り出した澄がチラリと、時尭を見たのを時尭が嬉しそうにニコニコしながら手を振っていた。
その顔を見た澄が顔をしかめたのを、満足気に見ている時尭。
蒼祐は思った。
自分にもこれくらいの余裕が欲しいものだと……。
離れて行く薫の背中を追いかけたかった。
そんな勇気も無いくせに……。




