自覚
薫の画面いっぱいに映ってボヤけた蒼祐。
静かに、柔らかい唇が離れた……。
薫は動かなかった。
クリアになった薫の目に映った蒼祐は、
怒っているような、でも泣き出しそうな顔だった。
「…………」
「…………」
何が起きたのか分からない。
ただ、唇が熱い。
「…………蒼祐?」
「はい……。」
「……今、なん、で?」
薫は混乱しながら熱い唇に触れた。
ブワッと、顔が熱を持つ――。
射るような蒼祐の視線。
「……まだ分からないんですか?」
「?????」
「嫌だったのなら、謝ります……。」
「嫌じゃ、ない、よ???」
「……いい加減にしてください。」
「え、!あっ!」
もう一度キスされた。
何度も角度を変えて、蒼祐の熱い舌が薫の唇を舐める。
「っあ!」
わずかに開いた隙間から舌が滑り込む。
「――っ、んぅっ!」
ビクリと、薫が震える。
蒼祐は薫を見つめたまま、ゆっくりと唇を離した。
二人を繋いだ銀の糸がプツリ。と切れた。
それが、とても恥ずかしい事に思えて、薫の声が震える。
「……キス、は、好きな人と、するもの、だよ?」
「……そうですね。」
「え、……蒼祐、私のこと……?」
「……今更ですか。」
そう言った蒼祐の目の奥の熱に身体の奥が切なく疼いた。
恥ずかしくて、
思わず蒼祐を突き飛ばした。
薫は丁度開いたエレベーターのドアの外へ駆け出した。
階段を使ってダッシュで降りる。
頭の中は大混乱だ。
薫は蒼祐を初めて『男の人』だと、認識した。
唇がジンジンする。
お腹の奥も切なくて、戸惑う。
薫は必死に走った。
どうやって家に帰ってきたか覚えてない。
頭の中では何度も、蒼祐の柔らかい唇と、薫を絡め取った舌の熱さを思い出す。
蒼祐の射るような視線が、目を閉じても薫の心を離さない。
暗い部屋で布団に丸まって何度も悶絶する。
その日薫は人生で初めて、ご飯が喉を通らなかった。
薫の母、和葉は、
槍でも降るのでは?と何度も外を確認した。
世紀末でも、我が子はカツ丼食べてそうだと本気で思っている。
まさか、
娘の異常事態が、恋煩いだと夢にも思わなかったのだった。




