第5話 瑠歌の存在が頭から離れない
優ちゃんのダンス審査が終わり、
私たちは控室の隅でほっと息をついていた。
「ひよりさん……私、通ったよ……!」
「ほんとにすごかったよ! 優ちゃん、めちゃくちゃ輝いてた!」
優ちゃんは照れくさそうに笑った。
その笑顔を見て、胸がじんわり温かくなる。
(……優ちゃん、ほんとに頑張ってる)
でも――
その温かさの奥に、別のざわつきがあった。
(……瑠歌ちゃん……)
気づけば、頭の中はその名前でいっぱいだった。
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優ちゃんが水を飲んでいる間、私は無意識にステージ袖の方を見ていた。
(……どこにいるんだろ)
瑠歌の姿を探してしまう。
さっきの深呼吸、
あの静かな佇まい、
歌声、
目が合った瞬間の衝撃。
(……全部、忘れられない)
胸の奥がきゅっとなる。
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「ひよりさん?」
「ん?」
「……さっきから、ずっとそっち見てる……」
「えっ!? あ、いや、その……!」
優ちゃんに指摘されて、私は慌てて視線をそらした。
(やば……完全にバレてる……)
優ちゃんはくすっと笑った。
「……瑠歌さんのこと、気になるんだね」
「き、気になるっていうか……その……」
否定しようとしたけど、言葉が続かなかった。
(……違わない)
胸の奥が、はっきりと答えを出していた。
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そのとき。
控室の扉が開き、
黒瀬瑠歌が静かに入ってきた。
(……っ)
胸が跳ねた。
瑠歌は無表情のまま、ゆっくりと歩いていく。
誰とも話さず、誰にも気を取られず、
ただ静かに自分の席へ向かう。
その姿だけで、空気が変わった。
(……なんで……こんなに綺麗なの)
息が止まりそうになる。
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瑠歌が座る。
髪がさらりと揺れる。
水を飲む。
目を閉じる。
その一つ一つが、
まるで映画のワンシーンみたいだった。
(……やばい)
胸が熱くなる。
(……なんでこんなに気になるの)
自分でもわからない。
でも、視線が勝手に吸い寄せられる。
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「ひよりさん……」
優ちゃんが小さな声で言った。
「……ひよりさん、今……すごく幸せそうな顔してる……」
「えっ!? そ、そうかな……!」
「うん……。なんか……“推しを見てる顔”って感じ……」
「っ……!」
図星すぎて、言葉が詰まった。
(……そうかもしれない)
胸の奥がじんわり熱くなる。
(……私……完全に落ちてる)
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瑠歌は一度もこちらを見なかった。
話しかけてもいないし、声も聞いていない。
でも――
それでも胸が苦しくなるほど、気になって仕方なかった。
(……瑠歌ちゃん……)
(……どうしてこんなに頭から離れないんだろ)
自分でも驚くほど、
心が瑠歌に支配されていた。
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こうして私は――
**推しの存在が頭から離れない“沼の入り口”**に立っていた。
まだ何も始まっていないのに、
もう戻れないところまで来てしまった気がした。




