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推しが尊すぎて、気づいたら私もアイドルになってた件  作者: AI子
第2章:書類審査&基礎審査編

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第3話 音程迷子でも笑顔で突破

 ステージ裏に立った瞬間、私は後悔した。


(……なんで私、歌うって言っちゃったの……!?)


 足は震えてるし、手は汗でべたべた。

 心臓はドラムみたいに鳴っている。


「天野日和さん、準備お願いします」


「は、はいっ……!」


 声が裏返った。


(……終わった……)


---


 ステージに出ると、審査員が三人。

 ライトが眩しくて、視界が白い。


「では、簡単な音階チェックをします。後について歌ってください」


「は、はい……!」


 ピアノが鳴る。


 ドーーー。


「どー……?」


 自分でも驚くほど音が外れた。


(やばい! 最初から迷子!)


 審査員が一瞬だけ顔を見合わせた。


(終わった……)


---


 でも、そのとき。


 視界の端に、黒い影が見えた。


 ステージ袖。

 黒瀬瑠歌が、静かにこちらを見ていた。


(……っ)


 胸が跳ねた。


 瑠歌は無表情のまま、ほんの少しだけ首をかしげた。

 まるで

**「がんばれ」**

と言っているように。


(……やばい……見られてる……!)


 心臓が爆発しそうになる。


(……でも……)


 逃げたくない。

 推しの前で、ダサいところ見せたくない。


(……やるしかない!)


---


「次の音階いきます」


 ピアノが鳴る。


 レーーー。


「れぇぇぇ……?」


 また外れた。


 でも私は――

 **満面の笑顔で歌った。**


 審査員が一瞬驚いた顔をした。


(よし、笑顔でごまかせ!)


 ミーーー。


「みぃぃぃぃ!」


(外れた! でも笑顔!)


 ファーーー。


「ふぁああああ!」


(外れた! でも笑顔!!)


 ソーーー。


「そぉぉぉぉぉ!!」


(外れた! でも笑顔!!!)


 審査員の一人が吹き出しそうになっていた。


---


「……天野さん」


「は、はいっ!」


「音程は……壊滅的ですが」


(知ってる!!)


「表情が非常に良いです」


「えっ……!」


「笑顔のキープ、声量、度胸。アイドルに必要な要素が揃っています」


「ほ、本当ですか……!」


「はい。一次基礎審査は――」


(……っ)


「通過です」


「えええええええええええええええええええ!!?」


 思わず叫んでしまった。


---


 ステージ袖に戻ると、優ちゃんが駆け寄ってきた。


「ひよりさん!! すごかった!!」


「いやいやいや! 音程全部外したよ!?」


「でも……すっごく楽しそうだった……!」


「いや、楽しんでる場合じゃ……!」


 そのとき。


 黒瀬瑠歌が、すっと私の横を通った。


 無表情のまま、ほんの少しだけ私を見て――


 **コクリ、と小さく頷いた。**


(……っ)


 胸が跳ねた。


(……今の……応援……?)


 わからない。

 でも、確かに胸が熱くなった。


---


「ひよりさん……」


 優ちゃんが小さく笑った。


「……ひよりさん、やっぱりすごいよ」


「えっ……?」


「音程迷子でも……笑顔で突破するなんて……ひよりさんらしい……!」


「……うぅ……褒められてるのか、わかんない……!」


 でも、悪い気はしなかった。


(……推しの前で、ちょっとだけカッコつけられた……かも)


 胸の奥がじんわり温かくなる。


---


 こうして私は――

 **音程迷子でも笑顔で突破する陽キャ**

として、審査を通過してしまった。


 優ちゃんの夢を応援するはずが、

 気づけば自分もステージに立っていた。


(……これからどうなるんだろ)


 でも、不思議と怖くなかった。


(……推しがいるから、がんばれる気がする)


 胸の奥で、静かに火が灯ったままだった。

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