#7 大衆購買
「全く、人使いの荒い人だわ」
腕を組んで優美に闊歩する花林が、飄々とした表情で文句を垂れる。
「……そのセリフ聞くの、今日二度目だわァ」
現在、オレら守り人五人+4F6四人は、華街カベン区の方向へ歩いている。オレら男三人と4F6は亀等野工房からの帰りそのまま、端の方で並んで歩いている輝と花林は「女子会」終わり、オレが電話をして呼び出した。
「っていうかさ! みんな、お洋服カワイイね!」
「あ、ああ……ありがとう」
「輝、ボスはカッコイイって言われてェみてェだゼ」
「バッ━━、余計なこと言うなっ」
「えぇ〜⁉︎ そんなの、尚更カワイイんだけど!」
「ホラ見ろ面倒臭えことになった……」
コイツら、ホント仲良いな。仲良いというよりかは、輝が一方的に絡み付いているような感じだが。
「零央が仕立ててくれたんだぜェ。コイツらのファッションも基礎的な部分は整ったッつーコトで、今度はオマエらの番だッつーコトだァ」
主に目を向ける白衣姿の女に黒パーカーの男。だが、当の本人たちはこちらに目を向けることはない。
「テメェらに言ってんだぞォ、花林、無我夜ァ‼︎‼︎」
まるで「えっ」とでも言うようにぶっきらぼうな面で振り向く無我夜と、冷淡な目でオレを一瞥してまた前を向く花林。
「海に行く準備じゃなかったのか」
「ソレもあるけどよォ、オマエ、『オマエ用の服を買いに行く』ッ言ったら来ねェだろ」
「……いや?」
「ぬるっと嘘吐いてんじゃねェよ」
溜息の音が聞こえる。花林だ。
「白衣、気に入ってるのだけれど」
「そのこだわりは何なんだよォ……? じゃあ百歩譲って白衣はイイがァ、白衣の下に着る服も、オマエ、ソレばっか着てねェかァ?」
「?」
「『そうですけれど何か?』、じゃねェ‼︎‼︎ あのなァ、幾ら顔を隠せるマスクを貰ったッ言っても、いつもと同じ服着てるんじゃァ正体モロバレだろうがァ! だから、今日買いに行くのは、そのタメの服でもあんだよォ。分かったかァ?」
一応納得したらしいものの、明快に肯くわけではない二人。
「楽しみだなぁ〜、花林の新しいお洋服ぅ! ボク、いつもの花林も大好きだけどぉ、いつもと違う花林も見てみたいなぁ〜ってぇ、思ってたんだよねぇ〜」
「そ、そう……」
唐突に話に入ってくる、ルンルンな様子の蒼と、その発言にたじろぐ花林。
「あっそういえばぁ、さっきの女子会、迷ちゃんも途中から一緒だったんだけどね。お兄ちゃん、パーカー以外も似合うのに何でパーカーしか着ないんだろうって言ってたよ━━うな気がするよ! 私も、色んな服着てるお兄ちゃん見てみたいな〜」
「……そうか」
多分嘘だが、ニヨニヨ顔の輝の言葉を間に受けて黙りこくる無我夜。
「早く行きましょう」
「海用品を買いに行くついでにな、服も見たっていい」
顔色を変えて勇み足になる二人。何なんだ、コイツら。扱い易ィ〜……。
「……ね、ねぇっ」
後方から、オレらの後に付いてきていた4F6の内、三令の声がして、ぞろぞろ振り返る。
「どうしたァ? あァ、安心しろォ。オマエらも、オレのオススメのアクセ屋に連れてってやらァ」
「あ、いや、そうじゃなくて……イヤッ、そりゃ嬉しいんだけど」
首を捻る。オーダーメイドの服に似合わない、どうにも覇気の無い四人。
「……アタシら、ホントに行ッてもダイジョブなのか」
「ニュースにも、なってんだろ。おれは知っている。この間、新聞に、おれたちの記事が載っているのを見た。おれたちが、店とか、そういう公共空間に現れたら、必ず騒ぎになる。どんだけ身なりを整えようと、おれたちは、殺人鬼だ」
怪訝の色の異形の瞳孔。四人の目が、オレらに訴えている。
「ソレなら、心配要らねェよ。まァ、取り敢えず付いてきなァ」
四人の疑念は未だに拭えていないようだが、オレは改めて前を見て歩き始めた。
眼前に聳える広大かつ巨大な構造物。
「ヨッシャ、着いたぜェ! 久々来たなァ」
ここは華街カベン区のランドマークである、巨大ショッピングモール「BODIIJ」。普段、通行人の往来の少ない専門店やら芸能人御用達と言われている有名店で買い物を済ますオレにとって、ショッピングモールに来るのは久し振りのコトだった。五階建て、三棟構造のこのショッピングモールは、来れば大体何でも揃っている。
「なんか、懐かしいねっ! 昔、みんなで一緒に買い物に来なかったっけ?」
「何十年前の話してんだよォ……懐かしいなァ」
「何十年ってほど、俺らはまだ生きてない」
あのときは、何を買いに来たんだったか。昔の話だ。もう思い出せない。
悠々と歩き出し、自動ドアを潜るオレら。振り返ると、4F6の面々は緊張の面持ちで、入口でまごついている。モール内から出てきた家族連れとすれ違う。しかし、親も子も、他の客すら誰も入口で立ち往生する四人を気にも留めず、するすると抜けていく。困惑している様子の四人は、眉を顰めたままのろのろと入店する。
「最近、昼が長ェと思わねェかァ? ソレに、陽射しが強ェとは感じねェか」
オレの問い掛けの意図を理解しないまま、四人は少し思い返して「確かに」というような返答を零す。
「今、世界魔力のバランスが大きく光属性に傾いてんだよォ。輝が、大量に魔力を使った影響だァ」
輝に目配せすると、余裕そうに微笑する。ぐるんっと振り返り、四人を見る。
「私が『無かったことにした』の。みんなの罪を。半径一千キロメートルの人間の、廃遊園地事件の記憶を消したんだ。久々に本気出したよ〜」
「ちゃんとした服さえ着てりゃァ、質のイイ、ナニかのコスプレとしか思われねェだろうなァ」
信じられないものを目の当たりにしたような、目を見開いて物も言えない四人。
「さァ、早速行くぞォ! 買いモンだァッ‼︎‼︎」
「よしっ、後は、この私にまっかせなさ〜い!」
私が胸を張ってそう宣うと、蒼だけが「ワァ〜ッ!」と声を上げる。お兄ちゃんと花林ちゃんは、いつも通り冷静沈着だ。4F6をアクセサリー屋に連れて行った茜に、私はお兄ちゃんと花林ちゃんのコーディネートを任された。ちなみに、蒼は審査員を任ぜられた(多分他にやらせることが無かっただけだけど)。現役アイドルからの直々の依頼は中々緊張物だが、何故か私は自信に満ち溢れている。何せ、お兄ちゃんのことを一番分かっているのは私だし、花林ちゃんの魅力も、十二分に分かっているつもりだ。
「じゃあ、先ずは花林ちゃんのコーデを選ぶから、お兄ちゃんと蒼は好きなところ見てて〜! 完成したら呼ぶねっ!」
「分かった」
「楽しみにしてるねぇ〜! じゃ〜無我夜ぁ、ボク、イカサン見たいなぁ〜」
「水族館じゃないんだぞ……」
とか何とか言いながらどこかへ消えて行く二人。残された私たち。
「……何だか、こういうのも新鮮ね。服屋さんなんて、いつ振りかしら。輝ちゃん、私は何をしていたら良い?」
「花林ちゃんは、私に付いてきてっ! よっし、行くぞぉ!」
手を振り上げて歩き出す。後ろから聞こえる困ったような笑い声が心地好かった。
鉱脈を掘り当てた坑夫の気持ちを、少し理解出来た気がする。
暖色系の照明に照らされて、店内に所狭しと陳列されたアクセサリーが鮮烈かつ華美に明滅している。
「ココはオレの贔屓にしてるアクセ屋の系列店だァ。綺麗だろォ?」
「すっげぇ……!」
迷惑にならない程度の声量で盛り上がる三令と感嘆の息を漏らす冷。それに、店内のアクセサリーに負けない程の輝きを放つ、砂夜の目。まるで朝起きたら枕元にプレゼントを見つけたときの子供のようだ。砂夜の、こんな顔は、初めて見た。
「陳列してあるモノは、全部試着出来るからなァ。好きなモンを好きなだけ、試し放題だぜェ。好きに見て回りなァ」
そう言っておれたちの後ろに退く茜。砂夜は、天蚕糸を引かれたかのように一面のアクセサリーに引き寄せられた。おずおずと、しかしうずうずと店内を先行く三令と冷。おれも、何となく足が勝手に店の奥へ進む。
どうにも、やはり視線が気になっているおれがいた。店員も、客も、皆おれたちを見ている気がしてしまっていた。だが、この店は、違う。皆、眼前で煌めく手の届く星にしか興味がないようで、おれたちなんかのことは、誰も気にしていない。何だか、おれだけが夢の中みたいだ。
「えッこれ……」
三令の声に顔を上げる。寄っていく。
「うるせえぞ、どうした」
「い、いや、これ」
三令の指差す先、よくよく見知った赤髪の載ったポスターが貼り出されている。
「オイオイ……」
「オマエらどうしたァ……ッて、あァ、ソレのコトかァ。この仕事の話貰ったときは、ホント嬉しかったぜェ。仕事貰う前から利用してる店だったからなァ。アト、あんまデケェ声で話すんじゃねェよ。バレちまうだろうがァ」
そんな少し服装変えてニット帽被っただけで何を言っているんだ、コイツは。オーラ漏れまくり、こんな照明の良い空間にいたら、誰がどう見てもアイドルだろうが。
「ッつーか、オマエらはアクセには興味無ェのかァ?」
「まあ、正直おれは無い。が、綺麗だな、とは思う」
「そうだろォ? 別に、自分が着けるだけがアクセじゃねェんだ。見て、キレイだって思ってくれたんなら、連れてきた甲斐があるッつーモンだなァ」
切に続けて、三令も口を開く。
「ウチも、綺麗だなって思うけど、あんまり自分には似合わないかなぁって……」
「ンなコトねェよ。誰だって、何だって着けてイイのがファッションの世界だぜェ。まァ無理に着けるコトァ無ェが、ホントは着けてェのに遠慮すんのは勿体無ェよなァ。冷、オマエも着けてみるかァ?」
茜がしゃがみ込んで冷と目を合わせる。冷は恥ずかしそうに三令の後ろに隠れた。
「まだ恥ずかしいってさ」
「そうかァ、まだ十だもんなァ。まだ早ェか。じゃァ、オマエが大人になったら、オマエにピッタリのモンを買ってやらァ。欲しくなったら言えよォ。分かったなァ?」
控えめに肯く冷。その頭を自然に撫でてから、茜は立ち上がる。店内を見回して、砂夜の方へ寄っていく。おれも何となく付いていく。
相変わらず目を輝かせて指輪を見ている砂夜。
「━━決めたゼ。コレ、買う」
茜が口を開いて呼び掛けようとした途端、砂夜は自発的に口を開いた。壊さないように、慎重に摘んで、掌に載せた菱形のレリーフの施された金の指輪。
「……ウン、イイじゃねェか。カネ、あんのかァ?」
「アァ。この間、創造神サマから貰ッた」
「そうかァ。自分で選んで自分で買ったアクセには、愛着が湧くモンだァ。大切にしろよォ」
「……アァ」
自分の心臓を握るように、大事に手で包んでレジに向かう砂夜の背中。
自由は、良いもんだな、砂夜。
4F6をココに連れて来るコトが出来て良かった。後に残るは、アイツらだな。
次回「おかいもの〜着せ替えを添えて〜」




