#4 Platanus
今日、私たちは珍しく守り人五人集まって行動している。創造神から連絡があり、どうやら守り人全員分の仮面が完成したという。
「でもさぁ、そんなの作ってたなんて知らなかったよぉ~」
頭の後ろで手を組んで、小石を蹴るように脚を伸ばしながら歩く蒼の言葉に、私も首肯する。
「本当ね。輝ちゃんも茜も、知っていたなら教えて頂戴」
私がそう言うと、輝ちゃんは困り顔でこちらに手を合わせる。
「ごめんっ、すっかり忘れてたの!」
「ケッコー前の話だからなァ」
「輝ちゃんはいいのよ」
「ンでオレァダメなんだよォ⁉」
気まぐれにいじった私に律儀にツッコんで、「ッたく」と吐いてから笑う茜。背では、彼の身長にすら及ぶほどの大剣がゆさゆさ揺さぶられている。
「ふふっ、でもさ、今日晴れて良かったよね」
「ええ、そうね」
「だなァ。雨降ってッと湿気ちまってダメだァ」
「俺は曇りの方が好きだが」
「オマエだけ特殊なんだよォ」
「雨も楽しいよぉ~? 雨の音は楽しいしぃ、カタツムリサンも出てくるしぃ!」
「もう一人居たわァ……」
最前列の無我夜も巻き込んで、他愛もない、どうでもよいことを話しているこの時間が、何だか心地好い。ここ数日、新しく業務提携者として迎え入れられた四名と行動を共にすることが多かったが、どうしても、まだ慣れない。4F6が私にとって危険な存在ではないということは頭では分かっているものの、私の芯を構成しているものは、私が自立の華となった今でも、どうやら変わらないらしい。変われたと思っていたのに。そう胸中で自嘲する。
「あぁ〜っ! もぉ着いちゃったぁ〜!」
突然の蒼の大声に驚いて顔を上げ、彼が指差す方を見る。金属的光沢を湛えたドーム状の建物。屋根から突き抜けた二本の円筒が精密に伸縮し、垂直に射す太陽光を乱反射させている。飛行機のように両腕を真横に伸ばして駆け出す蒼を、私含めて皆が追う。蒼のおふざけダッシュも、無我夜と茜の小走りも、輝ちゃんのジョグにも追い付けず、遠のいて行く背中。私はずっと、この光景を見ている。
彼らがその建物に近付くと、円形の外壁が突如静かに稼働して扉が開く。上部に掲げられた鉄板には直線的なフォントで「亀等野工房」と刻まれていた。ここには、私たち守り人の武器の作製を担当している「天才」が住んでいる。武器を酷使する茜や無我夜と比べ、私がここに来る機会は少ない。彼女に会うのは久し振りだ。どうにか彼らに追いついて、共にそのドームへ入る。
外観の鉄板を貼り付け接ぎ合わせたようなレトロな雰囲気とは異なり、中は近未来的な様子だ。白色というより無色と表現すべき壁と、乱雑に配置された机。何の用途か分からない構造物が幾つも空間内を縦断横断し、正直家主でないとこの空間を安全に移動するのは難しい。
「零央チャ~ン、来たよぉ~!」
蒼の大声が半球状の天井で何度も跳ね返り空間中に響き渡る。周りを見回す皆。
「やぁやぁ、キミ達。ようこそ、我が工房へ」
上方から、三次元的に自由駆動するアームに接続された椅子が、静かに降下してくる。何にもぶつからずするすると降りてきて、私たちの眼前に降り立った一つ結びの白髪の少女。望遠レンズのような二対円筒のゴーグルを額までずり上げると、その下からは極薄い彩色の灰色の瞳が現れる。特殊な容姿の彼女が、この亀等野工房の若き天才、亀等野零央。
「零央ちゃん、久しぶりね」
「花林、武具の調子はどうだね?」
「良好よ。何も悪いところはないわ」
「そうかそうか。さすが、天才たるワタシが造っただけはあるな」
一人で自画自賛して一人でうんうん大袈裟に首肯する零央ちゃん。
「……それに比べて、無我夜。貴様はもっと武器を丁重に扱え。貴様が見るも無残に破壊した短剣だが、もうとっくの疾うに新しく作り直しておいた。ようやく受け取りに来たか。全く、この天才がわざわざ手作りしてやっているというのに、貴様には感謝が足りない」
一人でぶつくさ言いながら、その小さな体でずかずか無我夜に歩み寄り、鞘に納刀された短剣を手渡す。首が折れるほど見上げ、零央ちゃんは無我夜を不機嫌そうに睨み付けている。一方、無我夜は一言も声を発さずまま、差し出されたそれを受け取った。
「……なら、一つ言わせてもらうが、お前が作ったものは女一人のただの拳に砕かれたぞ。天才は、剣が拳に負けるものだと考えているのか? そもそも、天才は自分で言うことじゃない」
「オイ、ワタシが許可した発言は一つまでだぞ。というか許可していないが。それに、ワタシは完璧なのだから、ワタシが造ったものも完璧に決まっている。貴様の使い方が悪い」
「そんなわけあるか。俺が何年ここの武器を使っていると思ってる。それと、俺はお前より年上だぞ」
「ワタシが何歳かなんてどうだっていいだろう、なんたってワタシは天才だからな! ハッハッハ! コイツは傑作だ! なぁ輝! そう思うだろう!」
「あ、そだね」
悪態を吐き合う二人を見るのも久しぶりだ。どうにも無我夜と零央ちゃんは相性が悪いらしく、会う度にこのように口論じみた小競り合いが発生する。まあ、どちらもクセの強い人だし、こうなるのは自明のように思えるが、どうにも二人の間には不思議な信頼関係があるように思えて仕方ない。喧嘩するほど仲が良い、というものだろうか。皆、それを感じているのか、二人がこうなっても誰も止めることはなく、何なら楽しんでいる節がある。
「そういえば、キミ達、このワタシに何の用だね」
輝ちゃんにテキトーにあしらわれて我に返ったのか、零央ちゃんは改めて椅子に腰掛けて問うてきた。絡まれたら面倒臭い、とでも言うように身を退いていた茜が声を出す。
「仮面が完成したらしィから受け取りに来たぜェ」
「ああ、その件か」
「あ、アト、個人的に武器の点検も頼みてェ。輝も、だろォ?」
「あっ、うん! 零央ちゃん、お願いっ!」
「仕方ないヤツらだな、キミ達は。この天才に任せておけ。茜、輝、武器を貸せ。仮面を取りに行くついでに置いてくる」
携帯してきた武器をそれぞれ渡す輝ちゃんと茜。茜の大剣を受け取った瞬間、零央ちゃんは椅子ごとずんっと沈む。驚いた顔の零央ちゃんは「重っ、よくこんなものを振り回せるな……」とボヤきながら、またどこかへと消えていった。
少々五人で雑談していると、上の方から微かな機械の駆動音がして、皆一旦話すのを止める。
「ホラ、ご注文の品だ」
降下してくる椅子に座った零央ちゃんの膝には五枚の仮面が乗っている。
「先ず、茜と輝のがこれだ」
「おォ、ありがとなァ」
「ありがとっ!」
茜に手渡された何だか可愛らしいネコの仮面と、輝ちゃんに渡った糸目のキツネの仮面。存外、可愛らしいじゃない。創造神がデザインを考えたらしいけれど、意外とポップなのが好きなのかしら。
「随分可愛らしいわね。茜、ネコちゃんがよく似合ってるわよ」
「コレ、ライオンらしいぞォ」
彼がこちらへ掲げる仮面の外縁は、確かに鬣らしきもので囲われている。それにしたって、お顔にあまりにも覇気がなさすぎるような気がするが。
「まァ、コレ気に入ってたからイイけどよォ。中々カワイイじゃねェか」
「着用者とは似ても似つかんが」
「オイ!」
零央ちゃんは辛辣な言葉を吐いてから、残りの仮面を確認し、こちらを見る。
「これは花林のらしい。こっちは蒼、そしてこれが貴様のだ」
「貴様じゃなくて無我夜だ」
私に差し出された仮面。立派な五つの花弁を持つ鮮やかな紅色の一輪の花を模している。受け取って観察すると、花弁の皺も花蕊の一つ一つの凹凸も緻密に再現されている。さすが、天才と言ったところか。
「うわぁ〜っ! イカサン‼︎‼︎」
歓喜の声を上げる蒼の方を見ると、既に仮面を装着していた。可愛らしくデフォルメされたイカの仮面。茜も輝ちゃんもいずれも顔だけを模した仮面だったが、どうやら蒼の仮面はイカの全身を模しているようだ。まあ、想像の通りというかなんというか……私が蒼のために仮面を設計しろと言われたとしても、同じくイカをモチーフにした仮面にしただろう。案の定、蒼はすごく気に入っているし。茜も輝ちゃんも「やっぱりね」とでも言いたげな表情だ。
無我夜の方を見ると、自分に渡された仮面を繁々と眺めているようだ。目を落としている、黒い仮面。どうやら黒猫らしい。彼は何も言葉を発さないが、何も文句を言っていない様子とその表情から、最低でも気に入っていないというわけではないようだ。
「ありがとねっ、零央ちゃん! 最高の出来だよ!」
「当然だ! 何せワタシは天才だからな! お前と茜の武器は今日中に仕上げておこう。明日以降、好きなときに取りに来るといい」
得意気な零央ちゃんに強く肯く輝ちゃん。茜も「頼むぜェ、ありがとなァ」と口を挟む。
「じゃあ、また来る。今度は新顔を連れてくるからな。俺の刀を折った張本人も来るぞ」
「ほう、それは興味深い。天才であるワタシの刀を折ったその力、実に興味がある!」
既に帰ろうと入口に差し掛かっている無我夜の話に食い付く零央ちゃん。彼女は一人の職人であると同時に、かなりの研究者気質でもある。その部分において、私は彼女にシンパシーを感じている。
「オイ、無我夜ァ。ソレ、オレも連れてけよォ? 零央、そんトキ、オマエには衣服の作製を依頼してェんだが、出来るかァ?」
「服……? また、珍しい依頼だが……出来るか、だと? 何度言えば分かる? ワタシは━━」
「天才だもんなァ、出来るよなそうだよなすまねェな、バカなコト訊いたわァ」
「全くだ、キミ達が凡人だということは周知の事実だが、バカも休み休み言いたまえ」
「ハイハイ、じゃあまたなァ」
無我夜と同じように、零央ちゃんから逃げるように工房の入口に差し掛かる茜。二人して先んじて工房から出ていく。そんな二人を見て、蒼は「ボクも行くぅ〜!」と腕を伸ばして挨拶も無しに駆け出す。輝ちゃんと私は揃って零央ちゃんに挨拶をしてから、その後を追う。
蒼が入口に差し掛かる直前に、突如開く自動扉。外から、相変わらず無表情の無我夜と、引き攣った笑顔の茜が再入室する。
「オイ、零央。今日は、随分とデケェ来客が控えてたんだなァ」
茜の言葉に怪訝そうな表情の零央ちゃんは、天井へ向かって手を翳す。ドーム状の天井が開き、天窓が現れる。射し込む直射日光、を遮る、巨大な二つの赤色の影。
「ヒフキトカゲッ⁉︎」
しかも、成獣二体。皆、顔を見合わせる。言葉なく、私たちの意思は合致し、皆同時に外へ飛び出す。苛烈な陽射しか、もしくはこの眼前の巨大爬虫類の放熱が身を焦がす。
「ッたくよォ、ベストタイミングもイイトコだぜェ」
「丁度、試し斬りがしたかったところだ」
真っ先に構える血気盛んな茜と無我夜。しかし、直ぐに茜は「あ」と声を零す。
「大剣、無ェんだったァ……」
ヒフキトカゲは体内で強力な焱属性魔力を分泌し、その両肩から突き出た鋭い真紅の結晶体に蓄積、増幅して狩りに利用する。そのために、茜の焱属性魔力はそこまで有効であるとは言えない。
「ボクのハルバード貸そうかぁ〜? ボク、花林と一緒に動き止めるからさぁ〜、ねぇ、花林〜?」
「ええ。私たちは、今日は見学ね。見させてもらいましょう、三人の狩猟を」
「良いのかァ? じゃ、オ言葉に甘えさせてもらうぜェ……!」
早速体勢を低くする蒼の背から得物を抜き取る茜。ぬっと前に出てきた輝ちゃんは、待ち切れないように目を金星のようにギラギラ明滅させている。
「私、奥の方殺めるねッ!」
「あぁっ! ねぇねぇミンナぁ〜!」
前傾姿勢の総員が拍子抜けする蒼の声。
「せっかく仮面もらったんだからさぁ〜、コレ着けて処理ろうよぉ〜! 使用感、確かめたくなぁい〜?」
「……確かに、一理ある。ここなら、不具合の一つでもあったら、直ぐにクレーム入れられるしな」
辛辣な言葉を吐きながら流れるように仮面を装着する無我夜。待ち切れないようにせかせか仮面を着ける輝ちゃんと茜。私も、着けてみる。着けるまで、そういえば視界を確保する部分はどこにあるのか全く分からないデザインだったものの、着けてみて、何の違和感もなくクリアな視界だったので驚いた。こんなものを作れるのは間違いなく、神か、あの子だけだ。
技術力に驚嘆している私を後目に、眼前の何だか可愛らしい仮面集団は戦闘体勢だ。いつの間にか全ての短剣を抜刀し両手両刃剣を構えている無我夜、飛び膝蹴りの予備動作に入っている輝ちゃん、慣れない暗器の持ち心地好いところをくるくる回して探す茜、依然カエルのような体勢で地に手を付ける蒼。私も体勢を低くし、地に手を付ける。見上げる。ヒフキトカゲが赤色灯のような光漏れる喉奥をこちらに見せ付けている。
「━━束縛の触腕」
蒼の発声。同時、害獣の足元から伸びる大量の湖属性魔力のイカの触腕と、棘の蔦。蒼のことは、大抵分かる。二体の害獣にそれぞれ絡み付き、火炎放射の予備動作中だった二体を反対方向へ引っ張る。揺らぐ巨体。咆哮。赤色灯の光量が増幅する。
怒号。焱が顕現し、茜がトカゲへすっ飛んでいく。空中から急降下、彼のいつもの暗器と比べれば爪楊枝のような、銀の針のようなそれを振り翳し、振り下ろす。現れた銀色の円。怒号は止まず、一方のトカゲの片肩の赤色灯を破壊する。
「軽ィなァッコイツっ‼︎‼︎」
「茜のが重過ぎるんだよぉ」
大声でつい文句にも似た感想を吐く茜と、本人には届かないがそれにぶうたれる蒼。
いつの間にか、金色の彼女と黒色の彼もいない。気付いた瞬間、とんでもない轟音と断末魔が地を揺らす。奥のトカゲが完全に倒れ切る寸前、その体表に白い閃光が止まる。私の蔦すら千切り、彼方まで飛んで行く爬虫類に面食らう。
「輝ちゃんッ⁉︎」
最早ヒフキトカゲのあれ程の巨体はこの位置からでは目視できない。私は駆け出す。私の創出した巨大な葉に飛び乗って、私自身が駆けるより数倍速い速度で移動する。後ろから「えぇ〜っ! 花林、どっか行っちゃうのぉ〜⁉︎」という声が聞こえて振り返ろうとしたが、直ぐに「じゃ〜ボクも動いちゃお〜」と続いたので、私は諦めて振り返るのを止めた。
花林がどっか行っちゃうなら、ボクも動いちゃうからね。
最近、あんまり運動出来てなかったし、この間の4F6チャンたちとの合同任務も完全見学だったもんなぁ。
ボクが魔法を解いたことで起き上がりだすトカゲさん。近くに来てみると、ホント、おっきいなぁ。
あ、ボク、武器持ってない。茜に貸したんだっけ。何しようかな。茜みたいに、無我夜から借りる、って言ってもボク、ハルバードしか上手く使えないし、そういえば無我夜どこ行ったんだろう。やっぱり魔法を使うしかないか。でも、今運動したい気分なんだよなぁ。
「うげェッ、分かれちまったァッ⁉︎」
頭上。青い空。茜が空中で、飛びながら驚いた顔して両手にボクのハルバードを持っている。
「貸してぇ〜ッ!」
湖の魔力で急浮上。サーフィンみたいに。サーフィン行きたいなぁ。ぐんぐん近づいてくる茜は驚いた顔のままボクを見る。咄嗟にハルバードから手を離した茜。落ちてくるハルバード。ボクは掴む。いつもの冷たい波みたいな感触じゃなくて、ほんのり温かい。青い空。ボクは舞い上がる。地上を見る。赤いドラゴンがボクを見上げてお口をあんぐり。かわいい。ぐんぐん近づく。その鱗の一つ一つ、牙の縦線の一本一本、瞳の襞の形まで分かる。宝石みたいな右目。片方のハルバードを振り下ろして振り抜いて、そのまま落下して二つのハルバードを繋げて残っている方の肩の本物の宝石をぶっ叩く。パキッと二つ音がする。
次の瞬間、バリギリシャリダダーンと音がして、宝石が砕ける。着地する。ハルバードの重心が変だ。パキキと音がして、ハルバードの先っぽが折れる。
「あぁ〜、壊れちゃったぁ……」
生温かい雨が降ってくる。見上げると、もうそこに害獣の顔はなかった。見下げると、そこにはトカゲさんより真っ赤になった無我夜が立っている。
「フ、完璧な仕上がりだ」
「無我夜ぁ〜! ココにいたんだぁ〜!」
「ここにいた、というか、今降ってきたばかりだがな」
どごおおんとすごい音がして、トカゲさんの大きな体が倒れたみたいだ。あ、花林は?
「大丈夫かなぁ〜……?」
「オレ、ほぼナニもしてねェじゃねェか……あァ、蒼。ハルバード貸してくれてありがとなァ━━ッてェ、ソレェ⁉︎」
「あぁっ、茜ぇ〜! 大丈夫かなぁ〜?」
「イヤ、大丈夫じゃねェだろどう見てもォ……すまねェな、オレが乱暴に扱い過ぎたかもしれねェ」
オレガランボウニアツカイスギタカモシレネエ? 花林と茜って、そんなに仲良しさんじゃないんだったっけ?
「……花林が気になるなら見に行ってみるか。茜、蒼のハルバードなら大丈夫だ。さっき、蒼が自分でヒフキトカゲの肩の排熱器官を攻撃した直後に折れていた」
「そうかァ……まァ、オレも無理矢理ソコをブッ壊したし、連チャンで狙っちまったのが良くなかったかァ……。まァイイ、取り敢えずもう片方の獲物に向かうぞォ」
「??? おぉ〜っ!」
お腹空いたなぁ。
それにしても、中々先程の戦闘は見応えがあった。普段は神か悪魔からの依頼通りにモノをただ造るだけで実際扱われているところは見ることがないから、中々新鮮でエキサイティングなショーだった。子供がヒーローショーを夢中になって見てしまう心理が、この天才にすら理解出来そうだった。いやまあ、天才だから分からないことなど皆無だが。
「さて、茜と輝の依頼を済ませてしまうか……っと」
今日は気分が良い。済ませた仕事をようやく引き渡せたし、あんなショーまで見れた。新たな仕事も武器の点検、直すとしても刃毀れくらいの非常に容易い仕事だ。鼻唄の一つや二つでも出てしまう。
ウィーン。
自動扉が開いた音だ。今日はもう来客は無い筈だが。
「どちら様かね、来客の予定は無い筈だが━━」
自動扉の直ぐ外。血塗れの、仮面集団五人衆。気の抜けるデザインのイカ仮面がこちらに差し向ける、プランプランに壊れた、サイキッカーが曲げたスプーンみたいな銀色の棒。
「零央チャ〜ン、コレ直してぇ〜……!」
全く、凡人はコレだから困る。
何はともあれ、仮面が完成したお陰で今後の依頼は捗りそうだわ。後日、どうやら茜が無我夜と 4F6 を連れて再び零央ちゃんのところに向かったらしいわね。
次回「天才的仕事術」




