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【40万PV感謝】罪人令嬢は、二度目の人生でも幸せになれない~誰にも愛されていないと信じたまま、私はまた笑う~  作者: 水無瀬 霧乃
幸せを壊す罪人

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第47話 前世のあの日

視界が暗転し、意識が泥の中へと沈んでいく。


その深淵の底で、焼き付いて離れない光景が、鮮血のような赤さを伴って脳裏に浮かび上がる。


どうしても忘却の彼方へ追いやることのできない、呪いのような記憶。


前世のあの日。


私が世界の頂点に立ち、そして地獄へと突き落とされた、始まりの日。


◇◇◇


朝霧が晴れると同時に、学院の中庭に巨大な掲示板が屹立していた。


そこに張り出された羊皮紙には、無機質な数字の羅列が刻まれている。


私はその最上段に、己の名を見つけた。


『第一位:リリス・タロシア』


息を吸い込む。


肺が熱くなり、指先が微かに震える。


予測はしていた。


確信もあった。


だが、現実として突きつけられたその事実は、私の血管に火を放つような高揚をもたらした。


周囲がざわめき、やがて爆発的な歓声へと変わる。


「おめでとうございます、リリス様!王国始まって以来の快挙です!」


「王族を抑えての首位……!まさに奇跡だ!」


「我々の誇りです!歴史が変わる瞬間を目撃した!」


教授たちが顔を紅潮させ、唾を飛ばしながら私を取り囲む。


生徒たちが畏敬の眼差しを向け、道を開ける。


心地よい。


肌にまとわりつく羨望の視線、鼓膜を震わす称賛の嵐。


私は背筋を伸ばし、完璧な礼で応える。


これこそが、私が求めていた景色。


母上の遺言を遂行し、誰よりも優れた貴族として君臨する、絶対的な証明。


ふと、視界の端に動く影を捉えた。


カシリア殿下。


この国の第一王子であり、誰もが認める天才。


彼は今、取り巻きの令嬢たちに慰めの言葉をかけられながら、彫像のように硬直していた。


その表情から、いつもの余裕と傲慢さは消え失せている。


笑顔でもなく、悲嘆でもない。


ただ、受け入れがたい現実を前に、魂が抜け落ちたような虚無の顔。


敗北者。


その三文字が、彼の額に烙印として押されているように見えた。


ああ、なんと甘美な眺めだろう。


高貴な王子が、臣下である私に膝を屈する瞬間。


生徒会長となった私の指示に、彼が従わねばならない未来。


想像するだけで、背筋がゾクリと粟立つ。


私は唇の端を吊り上げ、優雅な足取りで彼へと歩み寄った。


「殿下。これから、どうぞよろしくお願いいたします」


私の声は、鈴の音のように澄んで響く。


カシリア殿下はハッと顔を上げ、私を見た。


その瞳が一瞬揺らぎ、引きつったように口元が歪む。


「……あ、ああ。一緒に……頑張ろう」


頬の筋肉が痙攣し、無理やりに作られた笑顔が張り付く。


怒りを飲み込み、屈辱を噛み殺し、それでも王族としての体面を保とうとする滑稽な姿。


鎖に繋がれ、牙を抜かれた猛獣。


愛らしい。


心の底から、そう思った。


「これから、より素晴らしい学生会を一緒に作りましょう、殿下」


私は追い打ちをかけるように、最も慈悲深く、最も残酷な言葉を投げかける。


「……ああ……」


殿下の返事は、風に消え入りそうなほど弱い。


胸の空洞が、黒く濁った蜜で満たされていく。


他者の尊厳を踏みにじり、その上に立つ快感。


これが権力。


これが勝者の味。


今日は、私の人生で最も輝かしい日だ。


社交界は私の名で埋め尽くされ、父上は私を抱きしめて褒め称えるだろう。


『お母様、見ていらっしゃいますか』


心の中で、亡き母へと語りかける。


『私は成し遂げました。あなたの望み通り、この世で最も気高く、優秀な貴族となりました』


帰路の馬車に乗り込む足取りは、羽が生えたように軽かった。


早く父上に会いたい。


この栄光を捧げ、あの温かな手で頭を撫でてほしい。


その一心で、私は家路を急いだ。


公爵邸の門をくぐり、馬車が完全に停止するのも待たず、私は石畳へと飛び降りた。


ドレスの裾が翻る。


「ただいま戻りました!」


弾んだ声が玄関ホールに響く。


だが、返ってくるはずの声がない。


いつもなら、扉が開くと同時にロキナが駆け寄り、笑顔で出迎えてくれるはずなのに。


ホールは静まり返り、どこかよそよそしい空気が澱んでいる。


使用人たちの姿も見当たらない。


違和感が胸を掠める。


けれど、高揚した気分がそれを打ち消した。


きっと、父上がサプライズを用意して待っていてくださるのだ。


今夜は父上と二人で祝杯を挙げる約束をしている。


広間にいらっしゃるに違いない。


「父様!」


私は重厚な両開きの扉に手をかけ、勢いよく押し開けた。


光が溢れる室内。


そこには確かに、父上の姿があった。


けれど。


父上は一人ではなかった。


豪奢な長椅子の傍らに、二人の影が寄り添っている。


一人は、亡き母上と同じくらいの年頃の、艶やかな美貌を持つ貴族女性。


そしてもう一人は、私と同じ年頃に見える、華やかな少女。


「……あ……」


喉の奥で言葉が凍りつく。


思考が停止し、時間が引き伸ばされる。


誰?


なぜ、家族団欒の場に、見知らぬ他人がいるの?


父上の表情が強張る。


まるで、見てはいけないものを見られた子供のような、気まずさと動揺。


私は咄嗟に呼吸を整え、染み付いた礼儀作法で仮面を被り直した。


「失礼いたしました。改めまして、リリス・タロシアと申します。カスト・タロシア公爵の娘です」


完璧なカーテシー。


だが、目の前の二人は目を伏せ、居心地悪そうに身を縮めるだけだ。


返事がない。


沈黙が、部屋の空気を鉛のように重くする。


父上も、顔色が蒼白だ。


何かがおかしい。


決定的に、何かが狂っている。


私の視線が、少女の顔に吸い寄せられる。


彼女がおずおずと顔を上げ、私を見た。


その瞳。


溶かした黄金を流し込んだような、鮮烈な金色。


心臓が跳ね上がる。


ありえない。


この瞳の色は、タロシア公爵家に代々伝わる、高貴な血統の証。


貴族の中でも稀有な、父上と同じ色。


なぜ、この少女がそれを持っている?


背筋を冷たい汗が伝い落ちる。


まさか。


いや、そんなはずはない。


父上は母上を愛していた。


私を愛している。


「……リリス。座りなさい」


父上の声は、地の底から響くように重く、しわがれていた。


私は操り人形のようにぎこちなく歩を進め、指定された椅子に腰を下ろす。


先ほどまでの幸福な余韻は、跡形もなく消え失せていた。


胃の腑が冷たく縮み上がる。


聞きたくない。


その口から紡がれる言葉を、聞きたくない。


「……リリス。これから話すことを、落ち着いて聞いてほしい」


「……はい、父様」


心臓が、早鐘を打つ。


嫌な予感が、黒い霧となって視界を覆う。


父上が意を決したように息を吸い、二人を手で示した。


「紹介しよう。この方が――君の新しい母となる、ミカレンだ。そして――」


言葉が途切れる。


父上の視線が彷徨う。


そして、私の世界を粉砕する一言が投下された。


「……この子は、エリナ。君の――姉だ」



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父親…(-_-;)
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