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【40万PV感謝】罪人令嬢は、二度目の人生でも幸せになれない~誰にも愛されていないと信じたまま、私はまた笑う~  作者: 水無瀬 霧乃
幸せを壊す罪人

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第48話 絶対に、許さない

「……この子は、エリナ。君の――姉だ」


時が止まった。


姉?


意味が理解できない。


私は、カスト公爵とサリス夫人の一人娘だ。


兄弟姉妹などいないはずだ。


それが、姉?


私より年上だと言うのか。


それはつまり。


父上は、母上と結婚する前から、このミカレンという女性と関係を持っていたということか。


あるいは、母上が病床で苦しんでいる間も、裏でこの女と通じ、子供まで儲けていたということか。


「……」


血管の中を流れる血が、急速に冷却されていくのを感じた。


裏切り。


不貞。


欺瞞。


母上が車椅子の上で、ただひたすらに父上を信じ、愛し、感謝の言葉を紡いでいたあの日々。


その裏で、父上は別の家庭を持っていた。


私たちが必死に守ろうとした「家族」など、最初から父上にとっては二の次だったのだ。


母上への献身も、私への愛情も、すべては罪悪感を誤魔化すための演技だったのか。


「出て行ってください」


私の唇から、氷のような声が漏れた。


椅子を蹴倒す勢いで立ち上がり、二人を睨みつける。


視界が赤く染まる。


「ここはタロシア家です。母上と私が守ってきた家です。あなた方のような汚らわしい人間を迎える場所ではありません」


「リリス、待ちなさい――」


父上が慌てて立ち上がり、制止しようと手を伸ばす。


その手が、今はひどく汚らわしく見えた。


「聞こえませんでしたか!?出て行けと言ったんです!!」


私は叫んだ。


喉が裂けんばかりの絶叫。


「……カスト公爵」


私は敢えて、他人行儀な称号で彼を呼んだ。


「母が亡くなって、まだ一ヶ月ですよ?喪も明けていないというのに、もう愛人とその“私生児”を連れ帰るなんて、ずいぶんとお早い切り替えですね」


侮蔑と嫌悪を込めた言葉が、ナイフのように空間を切り裂く。


部屋中の空気が凍りつく。


ミカレンが青ざめ、エリナが肩を震わせる。


「……そうだったのですね。私たちは、ずっと騙されていたのですね」


次の瞬間。


私の体は思考よりも先に動いていた。


パァン――!


乾いた破裂音が、広間に木霊する。


私の掌が、父上の頬を全力で打ち据えていた。


ジンと痺れる手。


父上の頬が赤く腫れ上がり、口元から一筋の血が滲む。


「出て行け!!」


私は金切り声を上げた。


もはや、公爵令嬢としての品位などかなぐり捨てていた。


ただの、傷ついた獣として吠えた。


「私は、あなたたちを一生認めない!!この家の敷居を跨ぐことなど許さない!!公爵位も、絶対に渡さない!!」


涙が溢れ出し、視界を歪ませる。


「……どうせ私を殺せばいいんでしょう!?そうすれば、その“子”が正統な後継者になれるのですから!!母上を殺したように、私をも殺して、その女たちと幸せになればいい!!」


父上は、殴られた頬を押さえることもせず、ただ呆然と立ち尽くしていた。


その目には涙が浮かび、唇が震えている。


……なぜ。


なぜ、被害者ぶった顔をするの。


なぜ、そんなに悲しそうに見るの。


裏切ったのはあなたでしょう。


私たちの愛を踏みにじったのは、あなたでしょう。


それなのに、なぜ、あの女たちのためにそこまで苦しむの?


私と母上は、あなたの涙を誘う価値すらないの?


「……今日は、もう帰りましょう、お父様」


沈黙を破ったのは、エリナだった。


彼女は涙を堪え、父上の袖を引いた。


「……そうね。行きましょう、カスト」


ミカレンもまた、静かに促す。


「……すまない、リリス」


父上は最後に一度だけ私を振り返った。


その声は、ガラス片のように掠れ、弱々しかった。


謝らないで。


謝るくらいなら、最初から裏切らないで。


三人は、逃げるように屋敷を去っていった。


重厚な扉が閉まり、錠が落ちる音が、私の心臓を潰す音のように響いた。


ガクン、と膝の力が抜けた。


私は床に崩れ落ち、冷たい絨毯に爪を立てた。


胸が痛い。


心臓を万力で締め上げられているように、息ができない。


「ぁ……あぁ……っ」


嗚咽が漏れる。


どうして。


今日は、私が一番幸せになる日だったはずなのに。


最高の栄誉を手に入れ、父上に褒めてもらい、これからも三人で――いや、二人で生きていくはずだったのに。


すべてが嘘だった。


私の努力も、母上の願いも、父上の愛も。


全部、全部、幻だった。


「お嬢様!!」


遠くから、ロキナの悲鳴のような声が聞こえる。


彼女が駆け寄ってくる足音が響く。


けれど、もう遅い。


私の心は、決定的に壊れてしまった。


「……もう……誰も……入れないで……」


私は床に突っ伏したまま、呻くように呟いた。


視界が急速に黒く塗りつぶされていく。


意識が途切れる寸前、胸の奥でどす黒い炎が燃え上がるのを感じた。


……絶対に。


許さない。


私の幸せを奪った、あの泥棒猫たちを。


私を裏切った父上を。


そして、私から全てを奪おうとするこの世界を。


絶対に、許さない!

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