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騎士様の初恋は御伽噺の呪われし魔女  作者: 文庫 妖
第二章 過去への旅路

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14/37

04 過去へ

04は短いです。

05は7/6更新。

「じゃあ、始めるよ」


 向かい合って座るアルベールが静かに言い、長椅子に深く腰掛けたシグリットがやや緊張した面持ちで小さく頷く。


「シグリット殿、君の受けた呪いは、君に対する非常に強い恨みと妬みが根幹になっている。呪術の実行者の強い恨みや妬みの残留思念が、君の精神に深く絡んだ状態で存在しているんだ。とても強固に絡んでいる上に君の罪悪感に付け込む形でその存在を維持している。だから、まずこの罪悪感を出来る限り取り除いて、ゆっくりほどいて行くところから始めようと思う」


 そこまで一息に言い、アルベールは一旦言葉を切った。


「ただ、その過程で、どうしても過去に向き合ってもらうことになるんだ。多分君には辛い思いをさせる事になると思う。でも、前にも説明したけど、この建物全体に大規模な退魔の陣を敷いた上に、この部屋にも強力な魔除けの陣を刻んでいる。だから、もし気持ちが揺らいで呪いが発動しそうになっても、私達が抑えるから相当のところまでは耐えられるはずだよ。だから安心して臨んで欲しい」


 シグリットの両脇にはエルドリートとカルラが守るようにして座り、マティアスは壁際に身体を預けて立つ。トマスはその隣に控えている。そして立ち会いたいというベルトルドは窓際、彼女の視界から外れる位置に座った。


「……なんだかちょっと落ち着かないね」


 要人にでもなった気分、とシグリットはいつもの見慣れた少し困ったような顔で笑った。オスティーユでは不健康そうな青白さだったその頬には仄かに赤みが差し、身体の負担が軽減されているだろうことが窺える。やはり王都に連れて来て正解だったのだとエルドリートは思った。

 ただ、この先の治療についてはやや不安を覚えるのも事実だ。また呪いが発動することになれば――。顔に出ていたのか、「君がそんな顔しててどうするんだい。大丈夫だよ、ここなら設備も整ってるから任せておいて。君は君が出来る事をしてくれればそれでいい」と、アルベールから言われてしまった。


「じゃあ、身体の力を抜いて、リラックスして。そう、背凭れにしっかり身体を預けてしまおう。そうしたら目を閉じて」


 ――過去に向き合う。

 シグリットにとっては辛い作業だ。うかつな環境で行えば、必ずあの恐ろしい呪いが発動する。だから、この医療棟のように環境の整った場所でゆっくり時間を掛けて解呪しなければならない。

 長椅子にすっかりと身体を預け、俯いて目を閉じたシグリットの手をカルラがそっと握るのが見えた。エルドリートも、反対側の手を握ってやる。

 側に居る。独りではないと、安心させるように。


「……俺達が、ついてる」


 呟いた言葉は、彼女の耳に届いたようだった。微かな笑みと共に、小さな頷きが返ってきた。

 アルベールの静かな語り掛けは続き、やがて、シグリットの身体が弛緩する。


 ――過去へ。

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