03 特命騎士の男子会
短めです。
良い歳した男子でも恋バナってするんでしょうか。
してたら可愛いと思います。
何やら女同士で盛り上がっているらしいのを確認してから、トマスの背を押して部屋に戻る。部屋の中央の卓に残された肴を口に放り込みながら椅子に腰を下ろした。流石に酒気帯びは拙いからと親友が差し入れた、酒精を抜いた炭酸飲料を煽る。
「二人とも仲良くなったようで、何よりだよ」
アルベールが言う。それには皆も同意した。マティアスが思い出したように私物の背嚢から瓶詰を取り出すと、蓋を開けて卓の上に載せた。中身を一つ摘まんでから、他の者にも勧めて来る。シグリットの手製だ。
「お、茸のオイル漬か。旨いな」
塩気と微かな酸味に、やや多めのスパイスが絶妙な味わいだ。噛むと程よい歯応えで、肴には丁度良かった。麺料理に絡めると旨いらしいが、肴として平らげてしまう方が早そうだ、とエルドリートは思った。
瓶詰を見て、アルベールとトマスも背嚢を漁り始めた。そしてやはり卓の上に置いて、それぞれに勧めて来る。アルベールの瓶は林檎の蜂蜜漬、トマスの瓶はキャベツの薄塩漬だ。
「塩漬はいいとして、肴に林檎の蜂蜜漬はどうなんだ」
マティアスが尤もな突っ込みを入れたが、アルベールはこれがいいんじゃないか、と取り合わない。どうやら甘党らしい。普段は朝食に楓糖をたっぷり塗ったパンケーキを食べているのだという話を聞いて、エルドリートもトマスも、うわぁ、という顔になる。
「しかし、いいよなぁ、料理の上手い女」
「マティアス殿、それ前も言ってましたよね」
「いいじゃないか。料理上手な上に優しくて気立ても良い。呪いが解けたら口説いてみるか」
マティアスの台詞に思わず飲みかけのジンジャーエールを吹き出し、何やってんですかとトマスから非難の声が上がる。手布で口と手元を拭うと、意味ありげに視線を寄越すマティアスと目が合った。
「あれはいい女だ。呪いが解けて外を出歩くようになってみろ。引く手数多だぞ。そうなる前に口説き落とさないとな」
「……だが、あいつはまだユリウスを忘れてない」
意識の無いシグリットを抱き締めた時、エルドリートをユリウスと誤認した。その時の微笑みは、あの時確かにエルドリートの心を抉った。あれは嫉妬だ。既にこの世に亡い男への嫉妬。
エルドリートは此処に至って遂にシグリットへの恋情を認めた。だが、間違えたくなかった。ひどく傷付いた女なのだ。恋情か同情心か。それを取り違えれば、傷を増やす事になるのではないか。
いや。
(――俺が傷付きたくないだけか?)
ユリウスに想いを残したまま、自分を見てくれないかもしれない。
目を伏せて黙りこくってしまったエルドリートに、三人の視線が集中する。
「え? え? 何ですか? もしかしてエルドリート殿って、その、」
微妙な空気に何かを察したらしいトマスが狼狽えた。お前、今まで気付いてなかったのか、とマティアスが呆れる。
「――間違えたくねぇんだよ」
「自分の気持ちが本物かどうかって?」
「……そう、だな」
「案外慎重なんだね、君。あれだけ細やかに気遣い出来てれば、十分に本物だと思うんだけど」
アルベールは炭酸で割った葡萄果汁を啜った。
「……あの呪いは辛い過去を繰り返し追体験させる事で彼女を追い込み殻に閉じ込める為の物なんだ。今回の治療は、彼女を過去に縛り付けているモノから解放する事が重点になる。過去は過去と認識させ、もう二度と起きる訳ではない事を認識させるんだ。忘れさせるわけじゃない。想い出として心の内に還してやるんだよ。想い出にするためには、新しい記憶を作らなければならない。それは彼女独りでは為し得ない。誰かが、手を引いて過去から連れ出してやるんだ。そうすれば、時間は掛かっても、おのずとあの残留思念は離れていく。ねぇ、エルド」
明るい金茶色の瞳が、こちらを見据えた。
「何を遠慮する事がある。君が手を引いてやれ。彼女を寂しい場所から引っ張り上げてやるんだ。自分の気持ちを確かめるのは、それからだって遅くはないんだよ」
白騎士の言葉が、胸にすとんと落ちる。エルドリートは笑った。心は決まった。
ああそうだ。何の因果か、かつて絵物語で恋した女に出逢い、そして惚れた。今は想うだけでいい。手を引いて、助け出してやるだけでいい。それでいいじゃないか。
「ああ。ありがとな、アル」
「……あれ。俺は? 俺が口説く話は?」
良い話を台無しにするマティアスの台詞は綺麗に黙殺された。




