八話 小さな話
生徒会選挙が終わった。
順当に佳澄が生徒会長を務めることになり、生徒会室では吉村のポケットマネーからお菓子とジュースが振る舞われていた。
準備期間やら何やらと忙しかったが、終わってみればあっという間に感じるものだ。
「みんな本当にお疲れ様。継続の生徒は新任に色々教えてやるんだぞ」
「はーい! じゃあまずは、吉村先生はおっかないから気をつけろかな」
「余計なことを教えるな」
からかうように小突くと、セクハラだー! 暴力教師だー! とはやし立てられる。
「これくらいでハラスメントって言われてたら、俺なんにもできなくなるだろ! お菓子買うのも菓子ハラとか言われるかもしれんだろうが」
「お菓子は別です、もっとください!」
「吉村先生、私次はチョコがいいです」
「もうないもうない、俺の小遣いがなくなるだろ!」
どっと沸いたように生徒会室内に笑いが溢れる。
一歩引いたところでこの光景を見ながら、佳澄は目を細めた。
「誉志」
「ぁ、先生」
生徒達の輪から離れ、佳澄の横に立つ。
観月とのトラブル以来、吉村は佳澄の交友関係に口を出すことはなくなった。
穏やかな顔で笑いかけることが多くなり、佳澄も吉村が落ち着いたのだと、以前より信頼を覚えるようになっていた。
「お疲れ様、引き続きよろしくな」
「はい、よろしくお願いします」
互いにジュースを飲みながら、楽しそうに話している生徒達を見やる。
「俺、こういう時間が好きなんだよな」
唐突に言い出した吉村に顔を向けると、優しく目を細めて笑っていた。
「色々大変なこともあるだろうけど、これから夢を追いかけてくお前達と学校生活送れるのが、楽しいんだよ」
そう言うと、吉村の大きな手が佳澄の頭を撫でる。
「つまるところ、青春の延長戦だ。ありがとうな」
いつもと雰囲気の違う吉村に、胸が熱くなるのを感じた。
「いえ、いつも俺達を指導してくれて、ありがとうございます」
「どういたしまして。お前達が卒業しても記憶に残れる先生になれるように、まだまだ頑張らないとな。
と言っても、どうにも俺は熱が出やすいからな。生徒指導の加減ができなくなる」
はぁ、とため息をつく吉村に、佳澄がおかしそうに噴き出した。
「先生、そんな風に思ってたんですか?」
「そりゃあな。誉志の目線からはどうだ、俺は優しい先生と思うか?」
「そうは思いますけど……」
言葉に詰まっていると、今度は吉村が笑う。
「ほらな。ほんと、誉志は素直だな」
「それって褒めてます?」
「当たり前だろ」
「あー! 吉村先生、誉志会長にセクハラしてるー!」
女子生徒が指をさすと、吉村は「お」と言いながら佳澄から手を離した。
「どうした、お前も撫でてほしかったのか? 言ってくれたらいくらでも撫でるぞー」
「きゃー、先生マジでセクハラじゃん!」
「大人の人よんでー!」
「俺が大人の人だよ!」
また始まった賑やかな光景に、佳澄は嬉しそうに笑う。
下校時刻が過ぎた放課後。まだ日の落ち切らない夏の空に、セミの声が溶けて消えていった。




