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十九話 すぐ隣にあるひかり

 ゆっくりと目を開ける。

 すっかり薄暗くなった部屋は、慣れ親しんだ自室だ。

「起きたか?」

 佳澄の髪を、優しい手が撫でる。

 観月は佳澄の隣に体を横たえていた。

「もう掃除終わったって。まだ五時前だし、もう少し寝るか?」

 ぼんやりとしながら、佳澄は小さく頭を横に振った。

 そうか、と小さく言って笑うと、観月はそっと佳澄の体を引き寄せて抱きしめる。

 まるであやすように頭を撫で、額にキスを落とす。

「……ごめん」

 かさついた小さな声が観月に届く。

「お前が謝る必要なんてねぇよ」

「あんなことになったら、気持ち悪い」

「小柳さんからお前と婆ちゃんのこと全部聞いた」

 先の言葉を言わせないように観月の言葉がかぶさる。

 胸の中で、佳澄が息をのんだ音がした。

「兄ちゃんを恨むなよ、俺が聞きたいって思ったから聞いたんだ。

 聞けて良かったよ、これから付き合ってくやつのこと、ちゃんと知りたいから」

 佳澄が勢いよく顔を上げる。

 見開かれた目には、いつもと変わらない観月が映っている。

「重いだろって言われたら、そりゃ重いけどさ。

 それもぜんぶひっくるめて受け入れんのが彼氏だろ」

 じわりと佳澄の目に涙が滲む。

「落ち着いたらお茶でも貰うか」

「……うん」


 目まぐるしい感情の揺れは、佳澄の人生で初めての経験だった。

 恋愛も、激しい感情を向けられることも、トラウマを刺激する出来事も。

何より、本気で愛される経験も。


 落ち着いた佳澄と観月は階下に降り、家族と合流した。

 兄弟三人で泣き笑いながらプレゼントを開け、家族全員で、観月も交えて笑いながら思い出話に花を咲かせて、百合子の遺品整理は終わった。

「お祖母様ともっと沢山話せばよかったって思うけど、何よりも、何も知らずに終わらなくて良かった」

 そう言って笑う佳澄は、どこかすっきりした顔をしていた。


 きっと吉村のことも、祖母のことも、佳澄はまだ全てを受け入れて解決できたわけではない。

 それでも、怒涛のような数か月、数日間は佳澄に必要なことだったのだろう。

 観月は隣を歩く佳澄を見ながら、そう確信していた。


「俺の髪って、このままでいいのかな」

 いつもの十字路へ歩く最中、佳澄が唐突に言い始めた。

「なんで?」

「いや、なんていうか。男にしては長いから」

「ふーん」

 口を尖らせ不満そうに言う観月に、佳澄は怪訝そうに眉を寄せる。

「どうしたのさ」

「いや。俺お前の髪も好きだから、切るの、なんか嫌だ」

「……」

「女っぽいって思うかもだけどさ、お前の全部がちょっと減るのが、なんか嫌だ」

「なにそれ、くっさ」

「な、なんだよ、笑うな!」

 ケタケタと笑う佳澄に、観月は笑うなと繰り返す。

 佳澄の顔は、どこか満ち足りた表情をしていた。

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