十五話 佳澄の知らない話
翌日、普段より早く。なんなら運動部と変わらない時間に登校すると、真っ先に職員室に足を運ぶ。
「吉村先生」
「……山里」
「ちょっといいすか」
空き教室で向かい合う。
緊迫した空気が満ちる中で、吉村は腕を組んだ。
「昨日のことだろ」
「そうすね。正直あんた教師として終わっただろ」
吉村が口を噤む。しかし、目はまっすぐに観月を見ている。
ここで脅しやとぼける行為をしないだけ、観月はこの男を見直した。
「変なことはしないっすよ。佳澄はあんたのこと気に入ってるし、俺も手出しちまったし」
思ってもみない言葉に、吉村は目を見開いた。
「脅されると思ってた顔っすね。そりゃそうだわ、普通なら金のひとつもせびれるし。でも、んなことしたら犯罪者だろ」
「……」
「あの後、佳澄言ってたんだよ。あんなことあったのに、あんたのこといい教師だって。生徒思いなのはかわんねーって」
観月の言葉に吉村は目を見開くと一瞬にして顔色を青くさせ、崩れるように近くの椅子に座り込んだ。
そのままうなだれて頭を抱える。
「んなことになるなら、生徒に手なんて出すんじゃねえよ」
吉村は黙ったまま、ぴくりとも動かない。
「正直お前のこと殴りたいけど、それは我慢する。佳澄が嫌がるだろうし。
あんたは自分のやらかしたこと忘れんなよ」
言葉を発することのない吉村を見ながら、観月は小さくため息をついた。
「佳澄はもう俺んだから」
「…………」
「これ以上、お前の『先生』ってスタンス崩すなよ。佳澄とか、生徒会のヤツに軽蔑されるようなことすんな」
去っていく足音が、扉の開閉音が、やけに大きく聞こえる。
「あと、あいつ、多分お前が思うほど弱くねえよ」




