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十二話 初めましてと

 佳澄の家に遊びに行って以来、佳澄と観月は互いの家に遊びに行くようになった。

 今日も観月は佳澄の家に遊びに来ており、力いっぱい遊んでくれる観月は柚子のお気に入りになっていた。

「でたわね! カイジン ミヅキ!」

「お前はキラキラハッピー! おのれ、負けないぞ!」

 がおー! と言いながら、観月は柚子を追いかける。

 広い居間が役に立ち、キラマクごっこは盛大に行うことができた。

「キラキラハッピーのラブリーパワーをくらいなさいっ! きらきらー……はーとっ!」

「う、ぐあぁあ!」

 柚子が手に持ったステッキを観月に振ると、観月は大げさに苦しみながら膝をつき、バタリと倒れこんだ。

 その姿に、柚子は両手を上げる。

「せーぎは、かーーつ!!」

 負け方がリアルだな。と佳澄が感心していると、観月は上半身を上げた。

「っく、キラキラハッピー。今回は、俺の負けだぁ……。

 しかしっ! 俺が負けたとしても、まだ俺の仲間は残っている。そう、怪人アクーマ カスミがなぁ!」

 びし、という音が立ちそうな勢いで指をさすと、観月はまた畳の上につっぷして倒れる。

「はぁっ!?」

 驚いている間もなく、柚子の目がきらりと佳澄をとらえた。

「アクーマ カスミ! キラキラハッピーがラブリーパワーでキラキラにしてあげるわー!」

「ちょ!」

 ニヤニヤと笑いながら見ていた観月が、ステッキを向けられている佳澄を見て立ち上がる。

「よし、キラキラハッピー。君のおかげでキラキラになった観月が、ヒーローとして参戦しよう!」

「わーい! ヒーロー ミヅキとキラキラハッピーだー!」

「いくぞ、キラキラハッピー! カスミにアタックだー!」

「きゃー!」

「ぎゃー!!」

 二人で佳澄に抱き着くと、座っていた佳澄はそのまま床に倒れ込んだ。

 観月の手が頭を抱えていたため痛みはないが、柚子が乗っているため重たい。

「いった、重いって!」

「まいったかー!」

「参った、参ったって」

「あっはは、カスミはよわよわだな、柚子」

「よわよわだー!」

 きゃっきゃとはしゃぐ二人にため息をついていると、ふと今の状況が冷静に見えてきた。

 観月は佳澄と柚子を潰さないように覆いかぶさる体制になっており、佳澄の視線の先はよく見た天井と楽しそうに笑う観月の顔だ。


 それに気づいたとき、思わず体が硬直した。

 心臓が早鐘を打ち、ベタな状況から抜け出せずに観月を見ていた。

「どうした、佳澄」

 ふと黙り込んだ佳澄に気づいたのか、観月が心配そうに佳澄の頭を撫でる。

「悪い、どっか打ったか?」

「……い、や。だいじょうぶ」

 思わず背けてしまった顔は、まるで焼けているように熱い。

 観月を視界に入れられない。

 頭の上で息をのむような音が聞こえた気がした。


「おーおーやってるな」

 はじかれるように観月が佳澄と柚子から離れる。

 顔を向けると、小柳が白い手持ちの箱を片手に立っていた。

「兄さん、お帰り」

「ただいま佳澄。柚子、ケーキ買ってきたぞ」

「ケーキー!!」

 跳ねるように立ち上がると、柚子は小柳からケーキの箱を受け取り、台所へ走っていく。

 佳澄に手を貸して立ち上がらせている観月に歩み寄ると、小柳はにこりと笑いかけた。

「柚子と遊んでくれてありがとう。間違ってたらごめんだけど、山里君?」

「あ、そうっす。山里観月です、お邪魔してます」

 立ち上がった佳澄は軽く体を伸ばすと観月に顔を向けた。

「小柳兄さんはうちの二番目の兄なんだけど、今は家を出て一人暮らししてるんだ」

「へー、だから前来た時いなかったんだ」

「前? あ、もしかして前も遊びに来てくれたの?」

「はい、何回か」

「へー」

 含みのある笑いを向けると、小柳は佳澄の肩に腕を回す。

「なんだよ佳澄、こんなに仲良くなったのなんてかず以来じゃん。兄貴に紹介くらいしろよ」

「なんでだよ。流石に交友関係なんて逐一離さないだろ」

「心配してんだよ、でもいいヤツそうでよかったわ」

 観月は佳澄と小柳をじっと見ていた。

 先日お茶を勧めてくれた緒元は穏やかな雰囲気だったが、小柳はつり目で佳澄とよく似ている。

 佳澄や緒元と違って髪が茶色いのは染髪しているからだろう。佳澄が髪を染めたらこうなるんだな、と、観月は心の中で呟いた。

「山里君、よかったらケーキ食ってってよ。多めに買ってきてるから。

 なんかアレルギーある?」

「あ、大丈夫っす。頂きます」


*****


 小柳、柚子、観月、佳澄という面々でテーブルを囲む。

 緒元達の分も入っているのだろうが、それにしては多いケーキの数。

 定番のチョコレートやショートケーキ、モンブラン以外にも季節商品らしいゼリーもある。

「おお、結構な量っすね」

「うち甘いもの好きなやつの集まりだからさ。特に佳澄と柚子は甘党」

「へー」

 意外。と思う反面、確かに。と思うところもあった。

 佳澄と佐藤と自販機で飲み物を買う時、佳澄はココアやミルクティーを買うことが多い。

 健康志向でお茶を飲みそうだと思っていたから、記憶に残っていた。


 柚子、観月とケーキを取っていくと、小柳の淹れた紅茶をお供に食べ始める。

 有名店のケーキは勿論美味しいが、紅茶も負けないほどに美味しい。

 先ほどの興奮が治まらないのか、柚子はケーキを一口食べるごとに、ハッピーになったんだよ。悪者を倒したんだよと同じことを繰り返す。

 横に座っている佳澄はケーキを食べる余裕もあまり無い状態で話を聞き、それを見ている観月は目を細めて笑っていた。

「山里君さ、子供の扱いうまかったりする?」

 話しかけられて見ると、小柳はにこにこと笑っている。

「まあそうですね。うちの親、結構交友関係広くて。その人達のガ……子供達と遊ぶことが多いんで」

「あはは、ガキでいい。と言いたいとこだけど、柚子の前ではだめだな」

 声を上げて笑う小柳を見ながら、兄弟と言っても違う人間だな。と頭の中で呟いた。

 笑いが落ち着くと、小柳は目を細めて笑う。

「ヤンキーヒーロー君。うちって結構お堅いし、他の家と違うとこ多いけどさ。佳澄はいい子だから、これからも仲良くしてやってね」

「? うっす?」

 何を言われているのかと首をかしげると、小柳はまた面白そうに笑った。

「っは、いいね! 佳澄、君みたいなタイプの友達いたことないから、結構いい刺激かも!」

「はぁ?」

「いーのいーの。君はそのままでいな。たださ。佳澄、あれで結構抱え込みやすいからさ。なんか話し始めたら、愚痴の一つも聞いてやって」


*****


 その後、夕食も食べて帰ることとなり、佳澄と観月は暗くなった道を歩いていた。

 最近まで汗ばむほどに暑かった陽気は、この頃には風が吹くと少し肌寒い程に落ち着いている。

「色々ありがとな」

「いいよ、柚子もすっかり懐いてたし」

「まさか帰らないでって泣かれるとは思わなかったけどな」

 二人同時に声を上げて笑う。

 帰ろうとした観月に、柚子は「みじゅはかえんないー!」と泣きながら引き留めた。

 ここまで全力で遊んでくれる相手が相当嬉しかったようで、なんとか振り切って帰るような形になってしまった。

「また遊んでやらないとな、約束したし」

「そのうち、うちに住んでとか言われそうだね」

「子供の言いそうなことだなー」

 ケタケタと笑っていると、いつもの十字路だ。

「ほんとありがとな、今度はうち来いよ」

「うん、またお邪魔させて」

「ん。じゃあな」

「またね」


 二人は互いに背を向けて自転車にまたがった。

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