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第50話  偽りの凱旋




「え~っ!?それじゃぁ、消えてなくなっちゃうの?」

「もちろんです」


そう言って、テレサは、魔法で生み出された石を私の手に乗せた。


私は、昨日、4人で昼食を摂った後、魔王オリオンに別れの挨拶をし、魔王宮殿から、ここ離宮ブルング宮殿へと戻ってきた。


今は、午前の歴史の授業が終わり、魔法座学の真っ最中!


「―――で、なければ、今頃この世の貴金属は貴金属と呼ばないでしょうし、宝石も高価な物ではなくなります」

「そりゃそうか。あっ、消えた!」


私が、手にしていた石の感触や重みを確かめていたら、突然石は消えてしまった。

実に不思議だ!


テレサはコクリと頷き、話しを続けた。


「例えば、喉が渇いたとして、魔法で水を生み出し飲んだとしても、喉の渇きが癒えることはありません」

「ふん、ふん!」


私は、興味津々で、身を乗り出して話を聞いた。


「ですが―――、」


テレサは、小さな紙を一枚取り出し、手に乗せ呪文を唱えた。


すると紙は、燃えてしまい、すぐに灰となった。


「このように灰となった紙は元には戻りません。つまり、『この世界の物質』に与えた影響は残ります。―――、これを『幻影残滓(げんえいざんし)の法則』と言います」


「なるほど、なるほど!つまり、魔法で受けた傷は、傷として残るということね」

「その通りです。そして、浄化や治癒、状態異常回復などの魔法は極めて特殊で、未だに全てが解明されていません」


「えっ?解明されていないのになぜ使えるの?」

「それらは、『原初の魔法』と呼ばれる古い魔法なのですが、そうですね―――」


そう言いかけて、テレサは、紙に花の絵を描いて見せた。


「ある魔法を花にたとえると、花は、『花びら』、『茎』、『葉』、『根』などに分けることができます」

「ふむ、ふむ」


「原初の魔法は、これら、花びら、茎、葉、根に相当します。これらの組み合わせで『花』という魔法が発動するのですが、残念ながら私達は、葉をどれだけ分けても葉としか認識できずそれ以上は、理解の範囲を超えているのです」

「ふ~ん。じゃあ、原初の魔法は、発動する魔法の『最小単位』ってことで合っているのかな?」


「はい、合ってます。それに条件や魔素の種類、量などを加えた魔法を『現代魔法』と呼び、より複雑な魔法が発動します」

「へぇ~。私は、てっきり『ウォーターボール』って唱えれば、水の玉が飛び出すのかと思ってた」


「あながち間違いではありませんが、最終的には、シャロン様がおっしゃった言葉に魔素、魔力、原初魔法などを紐付けることでイメージできれば、魔法は、発動します。少し雑な言い方かもしれませんが、魔法とは、『イメージを現実化したもの』と言えるでしょう」


「なるほど!『妄想は得意です!』」

「は、はい?」


おっと!久しぶりのヘボ加護のせいで、テレサを困惑した表情にしてしまった。


「き、気にしないで、発作のようなものなので、続きを」

「は、はぁ~」


うぅ、恥ずかしい。


教壇へと戻ったテレサは、魔法の講話を続けた。


「原初魔法に関しては、いつ、どこで誰によって生み出されたものか分かっておりません。一説には、龍が人となり、発した言葉が魔法となった。とも言われますが、これも不確かなものです。ただ、それらの原初の魔法術式に魔力を込めると効果が発揮されることだけは、広く知られている魔法なのです」


「その、龍が人となった。と、いうのは、もしかして『龍人』(りゅうと)のことでしょうか?」


「はい。その通りです!よくご存じですね」

「以前、ノエル殿下との話しの時に少しだけ。龍は、実在するのですか?」


テレサは、小さく首を振った。


「残念ながら、古いおとぎ話や語り継がれる物語の中に登場するだけで、龍の存在は、今となっては伝説上の生き物とされており、その姿を確認した事例は、報告されていません」

「そう、なんだ」


この世界なら龍が存在してもおかしくないと、思っていただけに当てが外れた。


「少し話がずれてしまいましたね。今日はこのくらいにして、明日は、実践といきましょうか?」

「??実践?!私、魔法が使えるの?!!」


「はい。恐らく……。確か、ノエル殿下に刻印を施されたと聞きましたが、違いましたか?」

「ううん、違わない。ノエル殿下と結ばれていますが、……」


「で、あれば使えると思います」

「うゎ~っ!!ほんとに?!」


私は、感嘆の声を上げ、椅子を蹴るような勢いで立ち上がった。


「もちろん、後で殿下に確認は取りますが、許可が下りれば、明日、実践してみましょう」

「はい、先生!」


魔法が使えると知り、鼻を膨らませ、興奮を隠しきれない私に、テレサ先生は少々困ったような、気まずそうな顔をした。


「あの、シャロン様。その、先生というのは、……。何と言いましょうか?わたくしは、身分も低いので、」

「え~。だって、昔から教える人を先生、教わる人を生徒と呼ぶじゃない?」


「そ、そうですが、」

「それに、身分が低かろうと、年下だろうと、私の知らないことを教えてくれる人は、等しく尊敬に値します!だから、テレサは、私の尊敬する先生なの!」


これは、何を言っても無駄だと悟ったのか、テレサは、困惑した顔のまま目をつむり小さく吐息を漏らした。



   【魔王宮殿 謁見の間】


「ジルベルトよ、魔獣討伐、ご苦労であった。無事に戻ってくれた事、嬉しく思うぞ」

「はっ」


ジルベルトは、活性化した魔獣の討伐報告をする為、謁見の間に来ていた。


「一年前に比べ、発生回数は少なくなり、規模も小さくなったとはいえ、すまぬな、そなたに討伐を一任させている現状を心苦しく思っておる」

「もったいのうございます」


「今は、急を要するものもない。そなたもゆっくりと休み、部下たちには、臨時の褒賞を出すゆえ、労をねぎらってやるといい」

「はっ、有難く存じます」


ジルベルトは、片膝を折り、右手を床に着けた状態で、深く頭を下げた。


「今日は、もう遅い。討伐の報告は、明日、この者たちふたりを向かわせるゆえ、その時で良い」


オリオンは、壁際に立たせている次官を指し、そう告げた。


「承知いたしました。ときに陛下」

「何だ?」


「兄者と人族のフィアンセは、もう離宮へと戻られたのですか?」

「うむ、一昨日、互いの顔合わせも済ませ、昨日ここを発った。そなたとは、入れ違いになってしまったな」


「そうでしたか、それは、残念」

「まぁ、ホークの一件や、同盟の記念式典も近いから、婚姻は、もっと先になりそうだがな。そなたともいずれ、会う機会もあろう」


「はっ。では、私めはこれにて、」

「うむ、大儀であった」


そう言って、オリオンは、玉座から立ち、ジルベルトも謁見の間を後にした。



―――自分の部屋へと戻るジルベルトに、近づく女がいる。


ジルベルトは、自分の部屋の扉の前で立ち止まると、振り返ることなく女に問いかけた。


「エイジャか?」

「はい。遠征ご苦労様でした」


「フッ、放った火を消しただけ、大したことはない」

「ふふふ。……左様でございましたわね。ご報告が幾つかございますが、いかがなさいますか?」


「夜も更けてきた。もう、寝室で休むつもりでいたが」

「まぁ!せっかく良いお酒も用意しておりましたのに……。わたくしは、ベッドの上でも良いのですが?」


妖艶な笑みを浮かべるエイジャに対し、ジルベルトは、眉一つ動くことは無かった。


「好きにするがいい」

「はい。では……」


ふたりは部屋に入り、静かに扉は閉まった。


―――体を起こし、ベッドの上でグラスを傾け、窓から見える月をジルベルトは、グラスに重ねた。


『俺様とイリアが、蚊帳の外は分かるが、シャロンの古くからの友人ということで、ブリトニーが招かれたのが気にかかる。表向きは人族の後ろ盾とは言っているが、隠された真意があるやもしれんな』


グラスに残った琥珀色のお酒をジルベルトは、一気に(あお)った。


「アルテナか、―――あれから300年。……時間を与え過ぎたかもしれんな。事を起こすには、まだ早い……か」


そう言うと、ジルベルトは、冷たく月を睨みつけた。


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