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第47話  袋小路の果て




「おは……よう」


朝食をとりに、まだ眠そうな顔のノエルが部屋へ入って来たが、先に部屋にいた私達の姿を見て、驚きのあまり啞然となっていた。


それもそのはず―――、


昨日まであんなに刺々しかったイリアが、私と楽しげに談笑し、セグナは、黙々と朝食を平らげているのだから。


「ふふっ、それは、よくある話ですよね?……!あら?!おはようございます、殿下。イリア様と先に頂いてます」


「おはようございます、お兄様。ってもう!また!!様はやめてと言ってるのに!それに、敬語も!次、使ったら『髪後』あげないからねっ!」


私とイリアは、ノエルに気が付き、振り向きざまに挨拶をした。


「そ、それは、困りま……困る!!」

「だったら、イリアのことは、イリアと呼んで!私は、……そうねぇ~、シャロン姉って呼ぶから、ん~、ちょっと長いわね。シャ~姉……シャロ姉?ロン姉……うん!ロン姉にする!!ロン姉でいい?」


「いいけど、……」

「じゃ、そうする!」


昨日、あれだけ険悪な雰囲気を漂わせていたイリアが、打って変わって、別人のように私に接する姿を見て、彼は、かなり戸惑っている様子に見える。


啞然となりながらノエルは、セグナの近くに寄り、小声で話しかけた。


「あれは、どういうことなんだ?」

「ん?私を『イリア』と呼べ、私は、『ロン姉』と呼ぶから……と、言うことだろう?」


ノエルの質問に、セグナは、朝食を口に運ぶ手を休めることなくそう答えた。


「いや、そういう事ではなく、昨日、何かあったのか?」

「昨日?どうだったかな?ただ一緒に風呂に入って、寝ただけだが」


「それだけ?それだけで、あの気難しいイリアが、ああも変わってしまうのか?」

「何だ?ふたりが仲良くなるのが、不満なのか?」


「そうではないが、―――」

「もしかしてお前、シャロンと楽しそうに話す妹に嫉妬しているのか?」


セグナは、ニヤリと笑った。


「はぁ~!そんなわけあるか!!」


思わず、むきになりノエルは、勢いよく立ち上がったものだから、私とイリアは、何事かと会話をとめてノエルを見た。


「すまない、ふたりとも。何でもない」


ふたりの視線を感じ、ノエルは、軽く咳払いをし、静かに座り直した。


「くくっ、冗談だ!」

「まったく、お前は!!」


してやったりのセグナにノエルは、イライラしたが、私とイリアの手前、気持ちを表に出せない。


「しかし、今更だがシャロンは、誰であってもすぐに仲良くなってしまう。本当に不思議な人だ」


ノエルは頬をつき、再び賑やかに話し始めた私たちを、見つめていた。


「そうだな。おそらく、半分は嘘を言えない加護があるからだと思うが、あの子の言葉は、相手を受け入れようとする気持ちが伝わってくる。そんな気がするからかな?」


「オレも家族以外であんな顔をして話すイリアは、久しく見ていないからな。―――そうなのかもしれない」


食べる手を止め、私を見つめるセグナと、顔を緩ませたノエル。


ふたりがそんな話をしているとは、つゆ知らず、朝食をすっかり食べ終えた私とイリアは、飲み物を片手に髪後の原材料で話が盛り上がっていた。


「ふ~ん、海藻か~。でも、よくそれに気が付いたわね?!」

「偶然だったんだけどね。肌の乾燥を抑えてくれる塗り薬の材料が、使えないか色々試してみたの」


「なるほど……そうだ!あのね、素人目線だから参考にすらならないかもしれないけど、乾燥した土地でも育つ多肉植物にも、そういった保湿成分が豊富に含まれているんじゃないかしら」


研究魂に火が付いたのか、イリアは、目を輝かせ、少し興奮気味に身を乗り出した。


「多肉植物かぁ~。そっか、確かに!この地方では、あまり見かけないし、ほとんど流通していないから見落としていたわ!うん、機会があれば試してみる!」


私とイリアは、髪後の原材料と早く全部読みたいネタバレ寸前の『魔王子と半魔の娘』で、盛り上がっていた。


しばらくして、食事を終えたノエルが、まだ夢中になって話をする私とイリアに、少々呆れ顔で訊ねてきた。


「ふたり共、楽しく話しをしているところ、すまないが、そろそろいいだろうか?」


「あっ、そうだった!つい、話に夢中で忘れていたわ。ごめんね、イリア、話の続きはまた今度。改良版の試作品ができたら、ぜひ私に試させて」


「うん、わかった。ロン姉がさらに驚いてしまうくらいのを作ってみせるわ!」


「えぇ、期待して待ってる!」


私は、イリアに軽く手を振って席を立ち、彼女から送られる視線を背中で心地よく感じつつ、ノエルの後についていった。


「じゃ、イリアも、そろそろ行こうかな」


私とノエルの後ろ姿を見送り、そう言って、席を立とうとしたイリアの後ろにセグナが立っていた。


「そうだな。『私ら』も、そろそろ行こうか?」

「私、―――ら、??」


セグナは、イリアの肩を鷲掴みにして、立てた親指をクイクイ外へと振り出しイリアを促した。


「え~と、イリアは、研究室に……」

「おう!後でな」


ニヤリと笑うセグナに、イリアは、顔を引きつらせていた。


「ま、待って!セグ姉~っ!!」


セグナは、イリアをひょいと小脇に(かか)え部屋の外へとむかう。


「ちょっ、鍛錬は、……鍛錬は、いやあぁぁぁぁぁぁぁあっ!!」


手足をバタつかせ、半泣きのイリアの声が 、(むな)しく誰もいなくなった部屋に響いた。



   【謁見の間】


「シャロン、疲れたか?」

「そ、そうですね。何をどうすればいいのか、能力(ちから)の使い方を理解できていないから―――なのでしょうか?すみません。上手くいかないものですね」


私は、能力に目覚めた物語の主人公のようにあっさり、技や術を使いこなせるようになると、勝手に思っていただけに、軽くため息をもらした。


最近、時々刻印に感じる電気のようなピリッとした感覚。


それは、何もこの部屋だけの事ではない。


あの時、何が引き金となってノエルを感知できたのか、その境界線がどうしてもはっきりしなかった。


結局、私とノエルは、魔法が使えないこの部屋で色々試していたけれど、納得のいく結果は、今のところ何ひとつ得られていない状況だった。


魔力を阻害し、魔素を分解して魔法を発動できないように作られているこの部屋―――。


だけど、わずかにノエルから送られてきている魔力は、背中にある刻印から感じ取れる。


もしかしたら、……とも思ったけど、多分ノエルが求めているのは、もっとハッキリした確証なんだろう。


今の私には、それを形にする術が見つからなかった。


「条件として変わりはないはずなんだが……けれど、検証に必要なことは、あらかた試したし、根を詰めても仕方ない。どうだろう?気分を変えて、休憩がてら少し外を歩かないか?」

「はい……」


その力ない私の返事に、ノエルも少し困り顔で私に笑いかけた。


果てしなく続く迷路に迷い込んだ私とノエル。


期待して曲がった先に見えたのは、またもや『徒労』という袋小路だった。



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