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第45話  ギフト 




湯船から洗い場へと移り、私は、セグナに洗い方を教えてもらいながら、イリアを洗う手伝いを始めた。


当然だけど、シャワーどころか、蛇口すら無いから、洗うための湯は、桶に汲んでこないといけない。


自分ひとりで洗うとなるとこれが、けっこう面倒で大変。


だけど、誰かに手伝ってもらえたなら、そうでもない。


特に手の届きにくい所や髪を洗う時は、誰かにしてもらえれば早くて楽だ。


早速、イリアの髪の洗いに、とりかかった。


さすが、セグナ。手慣れたもので、その手際の良さであっという間に髪の洗いが終わった。


「―――、それにしても、イリア様の髪。ツヤもあってとても綺麗よね!」


私は、お世辞抜きにそう思った。


けれどそれを聞いたイリアは、


「ふん!私にへつらってまで取り入ろうとするなんて、裏で何を考えているのか分かったもんじゃないわ!私にお世辞なんて通用するもんですか!」


「お世辞じゃありませんよ。えっと〜私、ヘボい加護のせいで、嘘がつけませんので……」

「あっ!そ、そうだったわね……失礼なこと言って、ご……ごめんなさい」


加護のおかげ?で、疑念は晴れたけど、今度は気まずい空気が流れ込んできた。


「フ、フ、フッ、ようやく気が付いたようだね?!シャロン君よ!!」


何だか小芝居がかったセグナにツッコミを入れること無く、私はその会話にのった。


「うん、細くて、まだ幼い髪質だけど、結構長い髪なのに、ほとんど枝毛も無くって毛先まで光沢がある!ちょっと羨ましいかも」


自分の毛先と比べつつ、そう思った。


「その、髪後を手で全体に伸ばしたら、そこにあるコームで優しく、毛先まで均一になじむようにすいて伸ばしてくれるか?」


私は、言われた通り、歯の間隔が広いコームでゆっくりと丁寧に、イリアの髪にあの髪後ってのを付けて伸ばしていった。


それから、セグナが汲んできたお湯を静かにかけ、洗い流すとあのイイ香りが湯気に混じって辺りにふわりと立ち込める。


「『あっ!思い出した!!』」

「何だ?急に」


脈略無く、突然だったから、セグナが目を丸くして驚いた。


「あっ、ごめん!実はこの香り、どこかで覚えがあったんだけど、ずっと思い出せなくって。そうよ!イリア殿下と初めて会った時だわ!!」


「初めて会った時?……。あっ!東屋にいた時か!?」

「そう!あの時は、イリア殿下の周りにあった花の香りだと思っていたけど、イリア殿下の髪の香りだったんだ」


結構、引っかかっていたからスッキリした。


「それにしても、この『髪後』?っての凄いわ!これを作った人は、絶対に天才だよね!ねぇ、セグナ!私もこれが、欲しいんだけど、どうすれば手に入るの?教えて!!」


「ふふっ、だって、イリアどうする?」

セグナは、私の質問に答えずに、クスクスと笑いをこらえながら、イリアにそう言った。


「??」


私は、意味がわからず、イリアをのぞき込むと、真っ赤な顔でうつむいたまま、「そ、そんなに欲しければ、まだ、数本予備がありますから差し上げますわ」と、そう言われた。


「えっ?そんな、自分で買いますから、売っているところを教えてください」

「そ、それは、―――」


そう言いかけ、言葉を詰まらせたイリアに、セグナは、

「イリア、シャロンに言ってやれ!これは、私が作ったものだから非売品だ!と、そして、これが欲しければ、私に(ひざまず)(こうべ)を垂れよ!と」


「そ、そこまで、言わないわ!」

イリアは、慌ててセグナの言葉を否定した。


「えぇーーーーっ!!こ、これ、もしかしてイリア殿下が、お作りになったのですか?」


私は、驚きのあまり声が大きくなり、浴場に響いた。


イリアは、顔を赤らめ、コクリと小さくうなずく。


「凄い、凄いです!」

「べ、別にこんなの大した事では、ありませんわ」


ツンとした表情ではあったが、けれど誇らしげに頷いた。


「そんなことありません!こんな凄い物、誰にでも作れはしませんよ。この世に無い何かを生み出しす者は、けっして多くいません。目的を持って形にする力……それは『才能』というその人だけに与えられた唯一無二の『贈り物』を両親からもらったのです。勿論そこに至るまでは、本人の努力があってのものですから、ご両親に感謝し、自分を褒めてあげてください」

「自分……を」


「はい。髪後(これ)には、それだけの価値があると私は思います!」

「……」


不意に真っ向から放たれた肯定の言葉。


イリアは言葉を失い、困惑したように視線を彷徨わせた。


「だって、よかったなイリア。お前がやっている研究を遊びや道楽なんて言うやつもいるが、気にすることはない。少なくとも私とシャロンは、お前を認めている。だから胸を張るといい」


セグナの言葉に喜びの表情を浮かべるかと思ったけど、「うん」と、小さく返事をしたイリアは、下唇を軽く嚙み、意外にも堅い表情だった。


イリアに対し優しく発したセグナの言葉。


それに、今の表情。


第一王女としての立場や役割……。


多分、私みたいな凡人には、おおよそ理解できないものが、あの小さな彼女の上に絶えず降り注いでいるのだろう。


初めて会った時は、わがままで、偉そうにする小姑(こじゅうと)かと思ったけど、その考えは、改めないといけないかな。


それから暫く、三人での会話は無く、黙々とイリアの洗いを進め、あっという間に終わった。


続けて、セグナを洗うことに。


セグナは、「自分でするからいい!」と、言ったが、私が、「その方が早く終わるから」と、言うと、渋々受け入れた。


意外だったのが、イリアも手伝うと言って、今は、洗い用のたらいに湯を汲み足してくれている。


暫くして、セグナを洗い終わる頃だった。


背中にただならぬ視線を感じて思わず振り向くと、そこには、私の背中をガン見するイリアがいた。


私は、思わず、

「な、何でしょう?殿下」


イリアは、眉をひそめながらも私の背中から目を離さなかった。


「これが、刻印ですの?」

「えっ?あ~はい、ノエル殿下から頂いた刻印です」


「これが……」

そう言ったまま、まだジッと見ている。


「刻印に興味がお有りで?」

「ううん、そう言うわけではないけれど、少し気になったから」


「そうですか。この刻印は、ご存知の通り、お兄様のノエル殿下に頂いた絆であり、信頼の証。殿下には感謝していますし、今は、そうですね―――私の誇りです!」

「誇り?」


私は、真っ直ぐイリアに視線を注いだ。


「はい。これは、どんな宝石より価値があり、どんな甘い言葉よりも意味があるもの。……だからですかね。愛おしく感じるのは」

「『愛おしく』……ふ~ん、何か、セグ姉のと全然違うし、思っていたのより大きいのね」


「そうですか?刻印は形も大きさも同じものは、無いようですよ。ところで、この刻印の模様。殿下には、何に見えますか?」

「何って、ん~、折りたたまれた翼かしら?」


「やっぱり、殿下にもそう見えますか?これって何か意味があるのかな?セグナはどう思う?」

「ん?刻印の形か?あんまり考えたこと無かったからな~、私のは、なんか線で描いた雲ような形だし」


「えぇ~、イリアは、波の形だと思ってた!」

「えっ?そうかな?私は、ティアラに見えてたけど……」


「「ティアラ?!」」

セグナとイリア、ふたりとも口が揃った。


「うん、ほら、『第三の目』を中央の宝石に見立てたら、私にはそう思えたけど」


「どうだ?そう、見えるか?」

セグナは、第三の目を開き、イリアに尋ねた。


「あっ!本当だ、ティアラに見えるかも?!」

「ですよね?私、初めてセグナのを見た時は、刻印よりも瞳の綺麗さに目を奪われちゃったから、そう思ったけど」

「ふ~ん、そう考えると、不思議だよな~。場所も大きさも人それぞれだし、刻印の形って一体なんなんだろう?」


セグナの言う通り、私もそう思った。


すると、セグナは、「あぁ~面倒だ!」と、言って、立って頭から湯をかぶり、一気に洗い流した。


どうやら、考えてもわからない事は、考えないたちの三人だったみたい。


そういうところは、この三人、似ているのかも。


洗い終えた私達は、髪をタオルでまとめ横並びで湯船に浸かった。


「あ"~~~っ」

「うぃ~~~っ」

「ぷっ、何ですのふたりとも、年寄りくさい声を出して」


イリアが、少々、小馬鹿にしたように肩を揺らして笑った。


「イリアは、お子ちゃまだから、まだわかんないんだよ〜」

「あ~っ、セグ姉は、また、そうやってイリアを子ども扱いする!」


「鍛錬をしないから、いつまで経ってもポッコリお腹の幼児体型なんだよ」

「はぁ~っ?それは、今、関係無いでしょ!もぅ~っ、気にしてるのに!!」


イリアは、体型を気にしてかお腹を押さえ、口元まで湯に浸かった。


「ふふっ、なんだ気にしてたのか?!じゃ、明日から鍛錬しようか?」

「そうね、……。って!しないわよ!!危ない、危ない!危うく、セグ姉の術中に(おちい)るところだったわ!」


私は、火の粉が降りかからないように、こっそり冷水を汲んで置いた桶に用意していた小さめのタオルを絞りそれを顔に乗せて、存在を消していた。


けれど、こんな狭い空間、そう長く続くわけもなく、奇妙な行動をとる私にセグナが、何をしているのか問いかけてきた。


「これ?水を絞ったタオルよ。湯に浸かりながらこれを顔に乗せると気持ちいいのよ。セグナもやってみる?」

「あぁ、……」


半信半疑のセグナに私は、予備のタオルを絞って渡した。


セグナは、私の言う通り、顔にタオルを広げ乗せた。


「あっ―――これ、いいかもぉ~〜〜……」


セグナの口から、すぐに感嘆の漏息(もりいき)がこぼれた。


様子をうかがっていたイリアも興味津々のようだったので、「殿下もいかがです?」と、言って私は、絞ったタオルを渡した。


イリアは、コクリと頷き、セグナのように顔にタオルを広げ乗せた。


「あっ、本当だ!いいかもぉ~〜〜……」


では、静かになったところで私も―――。


「「「はぁ~~~~~~~ぁ」」」


三人仲良く?湯を堪能した。


他の人から見れば、一種異様な光景に見えたことだろうけど―――。


こうして、私に『茶飲み友達』ならぬ、『湯浴み友達』ができたのだ。


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