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第41話  点と点




「一見、関係ないように見えますが、もし、繋がっているのなら……そう考えましたの」


ブリトニーは、かつてないほど真剣な面持ちで言葉を紡いだ。


「わたくしが、陛下から邪神復活の懸念を伺い、ノエル殿下に詳細をお聞きした時に、ベルンツで起きたヒース様の件、そして、その詳しい話についても聞かせて頂きましたの。その時、わたくしは、わたくしの件とヒース様の件とが別々ではないと確信いたしました」


「ほう、その話、もっと詳しく聞かせてくれまいか」


オリオンは、自分が知らない事実に身を乗り出し関心を示した。


「はい。ヒース様の一件は、わたくしもその場に居合わせていましたから、知ってはおりましたの。ですが、ノエル殿下の推察でこれが何者かによって引き起こされた計画的犯行の可能性が高いとお聞きした時、わたくし思ったのです。これは、ヒース様の特殊な『読心』のスキルを疎んだ何者かによる企てではないかと……」


「オレの?・・」

無関心そうだったヒースも、さすがに自分の事でブリトニーに目線をやった。


「はい。ヒース様の読心のスキルは、幼少期に獣人と共に過ごしていた時に自然に備わって、自分では制御できず不完全だと聞いておりますの。そのせいで魔力を持たない人族や魔族でも魔力の低い者の心の声は、意識していないと次々に頭の中に流れ込み響いてくる……そうですわね?!」

「あぁ・・」


「ベルンツのように人が一か所にたくさん集まる時には、いわゆる『ハモり』が起き易く、暴走状態になってしまう事があると……。その為、薬を使用してそのスキルを抑えるようにしていたとお聞きしましたの」

「そうだ・・今回もそうした・・」


そう言ったヒースの表情は、あの時の事を思い出したのか少し硬く見えた。


「その薬を何者かに、すり替えられたと殿下はおっしゃっておられましたわね。であるなら、ヒース様の一件は時間をかけて周到に用意された計画だと推測できますの。一方私の件は、その逆。そして、もし、これらが全て繋がっているとするなら、ヒース様の魔力暴走を成功させる為に邪魔なのは、『状態回復』ができる者の存在。おそらくあの場でそれを使えるのは、わたくしとノエル殿下のみ……」


「確かに……」

そう言って、前のめりで聞いていたノエルは、背もたれに背中を預けた。


「ベルンツに参加しないはずだった、わたくしが突然参加を表明したから参加できないようにその邪魔をした。たとえ、わたくしの件が失敗に終わったとして、わたくしが、ヒース様の事に関わっていたにせよ、あの時のシャロン様のように一瞬とはいきませんから、多少の被害があったのは間違いないでしょう」


「それは、ブリトニー様の一件が、成功しても、失敗しても、(くわだ)てた者の描いた結果になった。そういう事でしょうか?」

「はい。セグナ様のおっしゃる通りですわ……では、誰が?何のために?その疑問の答えを仮に、『復活したガブドルが、憑依した人物を隠す為』とするなら、どうでしょう?」


ブリトニーの話を聞いていた全ての者の顔が強張(こわば)った。




「ヒース様の読心で魔力の高いガブドル本人を特定することはできません。ですが、その正体を知る手下であれば、あるいは可能ではないかと思いますの」


「そうか!私達が、ガブドル自身を見つけられないと思っていても、その正体を知る手下から情報が漏れる事を恐れた!そういう事なんだな、ブリトニー姫君!」


そう言ったノエルは、少し感情を抑えつつも、その表情に悔しさがにじんでいた。


「はい、もし、この事が成功していたならその責を負うのはノエル殿下。一見、殿下を(おとしい)れ、行動を狭める策にも見えますが、実はヒース様が恒久的に公の場に出てこないようにするのが目的で、しかも、その事を悟られないようにする二重構造になっていたのではないでしょうか?お二人は、お強いとおききします。そんな、強者相手に正面から挑むより、『責任をとらせる』という方法で簡単に排除できますの」


「そうだな、もしかすると、姫君の言う通りかもしれんな。手下からの情報漏洩を嫌い、厄介なスキルを持つヒースを潰したかった。と、言う訳か……」


オリオンは、眉間にしわを寄せ、ゆっくりと目を閉じた。


ブリトニーの鋭い推察に、円卓を囲む者たちは邪神の影がすぐそこまで伸びていることを肌で感じ、一様に息を呑んだ。


「―――なるほど、ガブドルひとりでは人族との戦争は出来ない。その為には、必ず手下となる集団が必要不可欠。しかし、それは、リスクが関数的に増大するということ。であるなら、ガブドルは復活を遂げ、戦争に向けた準備をもう始めていることになるな……ノエルよ」

「はっ!」


「我らが思っていた以上に、事態は進行しているかもしれん。色々、事を早める必要がある。この後でいい、執務室まで来てくれ」

「畏まりました」


オリオンは、静かに立ち上がった。


「長きにわたり、魔族と人族が争うように仕向けてきた、邪神ガブドルの復活。時を同じくして魔族と人族との争いを止めた、女神アルテナが、異世界人をシャロンに転生させた。これは、もはや偶然ではあるまい。まだ、わからないことだらけだが、今のシャロンが異世界人であることは、ガブドルに絶対知られてはならない!そんな気がする……皆も、骨を折らせた!特に何も無ければこれで終わりにする」


一同が厳粛に頷く。


こうして、私が異世界人であることを知る人々の長い話し合いは終わった。


「陛下、少しよろしいでしょうか?お聞きしたいことがございます」


私は、席を離れようとしていたオリオンに声をかけた。


「ん?聞きたいこと?」

「はい。陛下は、転生に関して何かご存じではないでしょうか?どんな些細な事でも結構です。教えていただけませんか?」


「転生か……」


オリオンは、少し考え、席に腰を下ろし話しを始めた。


「閲覧できる者を制限した我の禁書庫にも、転生に関して記された書物がいくつかはあるが、実は、どれも失敗に終わっている」

「?!、転生や憑依といった類は魔法で実現可能とお聞きしましたが、違うのですか?」


「いや、成功例は、幾つか存在するが、特定の条件下で無ければ発動しないのと、誰でも扱えるわけではないことが知られている」


その場の床に膝をついて話を聞いていた私を気遣い、オリオンは、私に席に座るよう促した。


「理論上の術式もおおよそ9割は完成しているとされるが、完璧な事例は報告されていない。勿論、異世界人の転生は、我も聞いたことがない」


そう言って、オリオンは、私の質問に対し優しく丁寧に答えてくれた。


話によると、どうやら『召喚』、『憑依』、『転生』、そして『転移』の順番で難しくなるそうだ。


魔法によって生み出された物質の素、魔素を使って構築したものに対象を憑依させるのが『召喚』。


この世界に生まれた者と同居するのが『憑依』で、上書きしてしまうのが『転生』と呼ばれている。


どうやら、私はこれに該当するみたい。


しかし、『転移』に関しては、あらゆる文献、伝承にも事例はなく、それ自体が、おとぎ話で理論ですら構築されていないそうだ。


物質(質量を持つもの)の移動というのは、それほどに難しいものだとオリオンは教えてくれた。


転生について調べていけば、アルテナが、私をこの世界に呼び出した真意がわかるかもしれないと思ったけど、そう甘くはないわね。


オリオンとの話にひと区切りがつき、私は、ノエルとオリオンの話が終わるまで、待つようにとノエルに言われていたから、先にローランツとハイメを見送ることにした。



―――二人を乗せる馬車が到着した。


去り際、ハイメとローランツが名残惜しそうに私に歩み寄る。


「じゃ、私達は、もう行くわね」

「何かあれば、遠慮なくいつでも家においで……」


ふたりは、私を抱きしめ、到着した迎えの馬車に乗り込んでいった。

「はい、お父様も、お母様もお気を付けて……」


「ナタリー!この子をお願い。力になってあげて」

「はい、奥様」


「アイラ、あなたも……」

「はい!」


ハイメは、馬車の窓から二人にも声をかけてから、御者に出るよう伝えた。


そして、遠ざかる馬車から手を振る二人。私もその姿が見えなくなるまで、ずっと手を振り返し続けていた。


入れ替わりに、ブリトニーの馬車が入って来た。


「ようやく……ようやくですわ!シャロン様!!」

控室で待っていたブリトニーが、そう言って馬車に向かいつつ私に話しかけてきた。


「?」

ん?何の話かしら?


「横に並び立つお許しが、―――っと、それは、まだ早いですの」

私は、何の事かわからずに小首をかしげた。


「ブリトニー様?」

「コホン!申し訳ございません。こんな時に不謹慎にもウキウキしてしまいましたの」


ブリトニーは、恥ずかし気に咳払いをして答えた。


「では、シャロン様!わたくしもこれで、近いうちに使者を差し向けますの。その時まで……」

「ブリトニー様も、お気を付けて」


彼女は、静かにうなずき、馬車に乗り込むと、軽く手を振った。


私も無言で手を振り、彼女を見送った。


暫くして、ノエルがいつになく暗い表情でセグナと共にやって来た。


「シャロン、セグナと三人で話がしたい。庭園に場を設けた。そこで話そう……」

「はい」


「セグナも兄上の話をするがいいな?」

「あぁ」


セグナも、いつになく力の無い返事をノエルにした。


いつもと違う雰囲気のノエルとセグナに私は、胸騒ぎを覚えたのだった。



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