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第40話  計られたタイミング



   【ベルンツ開催当日の早朝】


「いいこと!!何が、何でも間に合わせなさい!!」


揺れる馬車の中、仁王立ちで従者を指さすブリトニー。


「そ、そんな無茶な~っ!ベルンツの会場は予定と真逆なのですから、少し回り道にはなりますが、この先の町で馬も休ませないと間に合うどころか、たどり着くことすらできませんよ!」


「そうですよ、ブリトニー様!一度馬車も点検しないと途中で壊れてしまっては、元も子もありません!ここはブルーノ先輩の言う通り、次の町でしっかり準備してからが最善です!」


「なによペドロまで!そんな悠長なことを言っている場合ではありませんの!一刻も早くわたくしは、シャロン様のもとへ行かなくてはなりませんの!!」


ガタンと大きく馬車が揺れるたびふらつくブリトニーに、ブルーノとペドロは、気が気でなくあたふたしていた。


「ブリトニー様、どうか落ち着いて下さい!危険ですので先ずは、お座りになって!!」


「お気持ちはわかりました。ですが、先輩の言う通り、安全第一!ここはひとつ、我らを信じてください!!」


「ぐぬぬぬ~、わかったわよ!」


困り顔で譲らないふたりに、ブリトニーは、そっぽを向きドンと席に座った。


どうにか説得に成功し、ホッとした様子のブルーノとペドロではあったが、ブリトニーのイライラ、ソワソワはまだ続いていた。


そんな主のわがままに、胃の痛む思いだったブルーノの目に町が見えてきた。


「ブリトニー様、町が見えてきました。早速、厩舎(きゅうしゃ)でひと時ほど馬を休ませましょう。その間に馬車の点検も済ませれば遅くとも昼頃には会場に着きます」


不服そうではあったが、信頼している二人の意見にブリトニーは、一言「わかったわ」と言い、それ以上のことは言わなかった。



「どうだ、見つかったか?」

「いえ、それが、どこもいっぱいで空きがありません!」

「どうかしたの?」


することがなく、うとうとしていたブリトニーだったが、焦るふたりの様子を見て声をかけた。


「ブリトニー様、申し訳ありません。馬を休ませるために一時的に厩舎を借りようしたのですが、間の悪いことに今は、刈り込みの季節(収穫時期)どこの厩舎もいっぱいで入ることが出来ません」

「何ですって?!こんな所で足止めなんて、代わりは、無いの?」


「こんな田舎町に、ブリトニー様が乗れるような馬車はありませんし、何より足の速い馬がいません!」

「じゃ、どうするのよ!」


「そ、それは、……」


どうしようもない事態にブルーノは、答えに困った。


「あの~、貴族様。お困りでしょうか?」


声をかけてきたのは、ぼろ布のようなローブをまといフードを頭から被った、少々胡散臭(うさんく)さそうな老人だった。


「ん?何だお前は?」


ブルーノは、腰の剣に手をかけ、老人の様子をうかがった。


どうやら、老人はこの近くの農夫で、町へ買い物に来ていたらしい。


たまたま通りかかったら、ブリトニーとブルーノの話が耳に入り声をかけたと言う。


「わたくしは、街はずれで農夫をしております。汚い所ですが、馬を休ませる厩舎がございます。良ければお使いになりますか?」

「おぉ、それは、助かる!相場の倍は出すから頼む!!」


ブルーノがその老人から色々話を聞いたところ、この時期は、よくある話のようで簡単な馬車の修理であれば、この老人ができるという。



無事、馬を休ませ、馬車の点検も済み、農夫に謝礼を渡したブリトニー達は、急いでベルンツ会場を目指し、農夫の家を出発したのだった。


「いや~、先輩、タイミングが悪かったわりに、ついてましたね!」

「そうだな、これも、ブリトニー様の運の強さ!!さすがです、ブリトニー様!!」


と、言ったブルーノだったが、何か引っかかるものを感じ、半笑いになっていた。


「ふふ~ん、いや~、それほどでもあるかな?!」


ブリトニーが、ドヤ顔でふんぞり返った直後だった。


   バキッ!!


   「「「!?」」」


木が折れる大きな音がしたと思ったら、馬車は大きく左に傾き、ものすごい衝撃音を響かせて、ザァーッと、地面を擦りながら止まった。


三人とも、物凄い勢いで前方へと投げ出されたが、ブリトニーが咄嗟に風魔法を使い、馬車の内壁へ叩きつけられそうだった三人の衝撃を和らげた。


しかし、それでも十分では無かった為に三人は、折り重なって壁に押し付けられている。


ブルーノとペドロが身を挺してブリトニーをかばったから、どうやらブリトニーに怪我は無かったようだ。


「大丈夫?……そうね。ふたりとも!?」


「いた、たたたっ。私は大丈夫です!」

「くっ、苦しい〜っ!」


ブルーノは頭を抱えながら返事をし、ペドロはふたりの下敷きになり、悶絶している。


「さて、どうしましょう?」


完全に横倒しになった車内で三人は天井になってしまった右ドアを見上げていた。


馬のいななく声はするが、辺りは静かだ。


「先ずは、あれを何とかしないといけませんわね。風魔法でドアを吹き飛ばします!ふたりとも少し耳を塞いでいなさいな」


ブリトニーは、詠唱を唱え、いとも簡単にドアを吹き飛ばした。


「私は、投げ出された御者の救護を、あなた達は、後から上がって、馬と馬車の状態を確認なさい!」

「お止め下さい!外は危険かもしれません。私とペドロが先に出て確認してまいります」


「大丈夫ですの。先ほど風の索敵魔法を使ったら、目の届く範囲内に魔物や人の脅威は感じませんでしたわ。それよりも、御者は息があるものの、動かないのが気になりますの」


ブルーノの静止を聞かず、ブリトニーは、風魔法を使って体をふわりと浮かせた。


「あぁ、ブリトニー様!お待ちを!!」


ブリトニーは、半身程浮いた状態で止まり一言付け加えた。


「あなた達!このまま仰ぎ見ていたら、その光景は、あなた達が見る最後の光景になるわよ!」


「!!失礼しました!!」


ブルーノは、いち早くその意味に気が付き、ペドロの頭を押さえて下を向かせ、自分もそうした。


「まったく、これだから気の利かない男共には困りますの!」


その様子を見て、ブリトニーは、小さくため息をつき、馬車の上にふわりと降り立った。


「あそこですわね?!」

ブリトニーは、茂みに人影らしいのを見つけ、そこに向かった。


御者は、気を失い、傷だらけだったものの、茂みがクッションになり、大したケガは負っていなかった。


ブリトニーは、治癒魔法を使い直ぐに治療を開始。暫くして、御者も気が付いた。


「ブリトニー様っ!!」


ペドロが御者の治療をしていたブリトニーの所へ慌てて走って来た。


ペドロの話だと、二頭いた馬は幸いにも無事だったのだが、馬車は完全にダメになってしまったようだった。


ブリトニーは御者の介護をペドロに任せ、ブルーノのもとへと急いだ。


「何ですの?ブルーノ、見せたい物って?」

「こちらです。ここを……」


ブルーノが指し示したのは、馬車の左の車輪が付いていた軸のあたり、その根本が折れた部分だった。


「丁度ここが折れた所です。途中まで折れた断面が綺麗なのがわかりますか?」

「えぇ、そうね」


「これは、(なた)(おの)、などの木を切る何かしらの金属を打ち込んだ跡です。あと、ここと,ここにも……」

「それは、どう言う事ですの?」


「この事故は、偶然ではなく、必然であったと。……車軸が折れたにせよ、二頭引きの馬車が、横倒しなんて変だと思ったんですよ」

「では、これを誰かが仕組んだと言うの?……まさか?あの農夫?!」


「と、言う事になります。申し訳ございません!違和感は感じておりました。しかし、間に合う事に気持ちが取られ見落としておりました。わたくしの失態です」

「今回は、仕方ありませんの。元は、わたくしのわがままで、急がせたのが発端なのですから」


「いえ、ブリトニー様を危険にさらしてしまいました。刈込の季節。しかも早朝という農夫にとって一番忙しい時間なのに、町でのんびり買い物に来ていること自体、変だと感じるべきでした。これは、私の失態!罰は如何様(いかよう)なものであってもお受けいたします」


「もう、よいと言っていますの!あなたの尻を100回蹴って気が済むのなら、わたくしのことです。とっくの昔に蹴り上げていますわ!それに―――」


拳を地につけ、膝を折ったブルーノに対し、ブリトニーは、


「わたくしを守護する騎士(ナイト)であるなら、汚名は罰ではなく主人への貢献で返してごらんなさい!」


「はっつ!!」


ブルーノは、今一度、深く頭を下げ、立ち上がった。



   【魔王宮 謁見の間】


「―――と、まぁ、ベルンツに向かう途中、こんな事がございまして、一度は、参加を諦めたのですが、その後、たまたま運よく、忘れ物を取りに帰ったベルンツに参加する友人と偶然出会いまして、かなり遅くはなりましたが、参加する事ができた次第です」


「なるほど!それで、開会前にブリトニー様をいくら探しても見つからなかったのは、そんな事があったからなのですね」


私が、初めてのベルンツで困らないようにとローランツが、私の為に口利きしてくれたブリトニーと会えなかった理由が、この時ようやくわかった。


「はい、その節は、大変失礼いたしました」


ブリトニーはシャロンに深々と頭を下げたのち、話を続けた。


「まぁ、こうしてわたくしのベルンツ参加は、大変なものでしたが、お伝えしたかったのはそちらでは無く、ヒース様のあの一件です」

「ヒースの?」


ノエルが、訝しげに問い返す。


「はい、わたくしに起きたこの事故とヒース様の一件が根底で繋がっているのではないかと……わたくしにはそう思えるのです」


そう言ったブリトニーの意外な話に皆、その後に続く言葉を待ったのだった。



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