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第39話   聖女もどき




「は!?はい???」


ブリトニーが放った言葉の矢は、皆の視線となって私に戻り刺さってきた。


「あ、あの~、ブリトニー様。こういった席での冗談は、あまり好ましいものではありませんよ」


私には、彼女が言っていることが、さっぱりわからず冗談にしか聞こえなかった。


「冗談などでは、ございませんの。現時点で、シャロン様を大聖女と証明できるものはございませんが、サルモラ大聖堂までお越しいただけたなら、わたくしの言うことが絵空事ではなかったとおわかり頂けるはず。元々、シャロン様は『聖女』であるのは間違いないのですから」


「わ、私が、聖女??『だから、何でそうなるの!?』」


「はい、シャロン様は、洗礼式の時、光の降臨が起こりました。洗礼式の時に光の降臨が現れた娘は、家柄や身分に関係なく『神の使徒』として『聖女』と呼ばれるのですわ」

「なるほど!実力は無いけど、資格だけは取得済という訳ね」


ブリトニーは、私の解釈にやや困惑した表情で答えた。


「ん~、ちょっと違いますが―――詳しい説明はいずれ改めて、お話しいたしますわ」


察するに、わたしは、聖女に似た『聖女もどき』と、いう事なんだろう。……か?


「しかしながら、陛下のお言葉にもあったように、この件に関して悠長に構えている暇はありませんの。準備が整い次第、大聖堂までお越しいただく為の使者を向かわせます。ノエル殿下もそう、ご留意くださいな」

「承知した。『サルモラ大聖堂』か―――、人族が、日々の礼拝や洗礼式を執り行う所だったな?」


「はい。そこにシャロン様にお渡ししたい物。正確には、『お返ししなくてはならない物』がございますの」

「返す?私にですか!?」


「そうです。この場に持参すれば良かったのですが、あいにく数が多すぎて、シャロン様、ご自身で選んでいただきたいのです。お手数ですが大聖堂までお越しいただけませんか?」


ブリトニーは、私の手を取り懇願してきた。


「陛下や、殿下の許可があれば、私は、かまいませんが」

「大聖女の認定とやらに必要というなら致し方あるまい」


と、ノエルは、やや不服そうな感じで返答し、オリオンは黙って頷いた。


「なら、決まりですの。では、近いうちに」


そう言ってブリトニーは、私の疑問点を残したまま、自分の席へと戻っていった。


「さて、話しが少しずれてしまったな。皆思うところがあるだろうが、先ずは、我の話しを聞いてくれ」


自分に注目が集まっていることを確認してから、オリオンは、言葉を継いだ。


「―――、全てが、ここにいるシャロンに繋がる話だと、理解できただろうか?シャロンが異世界人であること。また、それがどのように、この世界に影響を及ぼすか誰も予測できん。そのことで我が思うに最も気にかけなくてはならないことは、やはり邪神ガブドルの完全復活による混沌の世の到来だ」


オリオンは、その場でゆっくりと立ちあがった。


「―――だからこそ、シャロンが異世界人であることをガブドルには絶対に知られてはならない!警戒を強められ対策を取られたなら、ガブドルが持っているスキルの性質で我らはどうしても後攻めとなり、しかも、向こうが、優位な立場を取った状態で対峙せねば、ならなくなる。それだけは、できるだけ避けたい。よって、今できる対策と準備は、この場にて確認し各々(おのおの)心に留めてくれ―――」


その言葉に、誰もが厳粛な面持ちで頷いた。


「始めに守り、警護に関することを先に言っておく。先ず、シャロンの警護は、ノエルを中心とし、正式にセグナとヒースを任命する。ノエルの警護には、バルカンを任命し、騎士団長を兼任させる。また、アルカイド夫妻には、一時的にノエルの元へと移行させていた元第一近衛師団のメンバーを交代制で派遣させる」


「自警団の雇入れを考えておりましたのに、陛下、私達も警護していただけるのですか?」


ローランツは、少し身を乗り出して聞き返した。


「勿論だ!民間の自警団など、底が知れてる。こちらで手配させてもらおう」

「それは助かります。陛下、ありがとうございます!」


オリオンは小さく頷いた。


「ブリトニー姫君は、どうかな?そなたと、枢機卿にも今まで以上の警護は必要だか、こちらで用意させようか?」

「陛下のお心遣い感謝申し上げます。ですか、ガブドルに私たちの密な関係性を知られるのも厄介ですの。警護に関してはこちらで対処いたしますわ」


「うむ、下手に我らの配下の者がうろつけば逆に目立ってしまうか―――わかった。では、姫君の言う通りにしよう」


ブリトニーは黙って頷いた。


「次は、シャロンのことだな。今のシャロンが異世界人であることは、引き続き沈黙を守ってほしい。世界に与える影響が、計り知れないからだ。仮に伝えなくてはならない者が新たにできた場合は、今、この事を知る者全ての承諾を必要とすることとするが、よいな!」


皆、個々にオリオンの言葉に頷いた。


「うむ。最後は、ガブドルに関することだな」


オリオンは、席に座りグラスの水を少し飲んだ。


「これから先、奴がどう動くかは予測がつかん。先に述べたように標的にされるのは、その大半が魔族の王族や権力者であったと思われる。その者たちは少なからず言葉に影響力がある者たち。奴のスキルを後押しできるからだ。ただの凡人に憑依するよりは遥かに効率的と言えるだろう。その憑依された者を特定できれば、少なくとも不意を突かれることはあるまい。ブリトニー姫君、そなたが言っておった『マーキング』なる術であれば特定は可能なんだな?!」


「はい聖女であれば可能です。ただ、―――」

「ただ?」


「恥ずかしながら、わたくしも聖女の称号はいただいているものの『マーキング』なる術は扱えず、特殊なものといえば、せいぜい癒しや状態回復程度。アルテナ様が生み出した高等魔術は、未熟なわたくしでは、はっきり認識できない可能性がありますの。おそらく聖女であれば、五感のいずれかに反応するように組み込まれているとは思うのですが、残念ながらその事ですら300年経った現在でも未だに解明されておりませんの」


「―――と、言うことは、今はガブドルを特定することが出来ないのか?」

「現状はそうなりますの」


全員が落胆のため息を小さくもらした。


「陛下、『マーキング』なる術。ロリエッタであれば、もしかすると知っている可能性があります」

「何!それは、誠か?」


オリオンは、ノエルの言葉に身を乗り出して尋ねた。


「はい、幼い頃その『マーキング』なる術の話を聞いたことがあり、近々、会いに行く予定がございますので詳細を聞いてまいります」


「うむ、では、この件に関しては、ノエルに任せ報告を待つことにする。結果はブリトニー姫君にも頼むぞ、ノエル」

「はっ、かしこまりました」


「我から伝えるべき事は以上だ。せっかくの機会だ。皆も、意見があるなら申すがよい」


「陛下、……」


一番に手を挙げたのは、意外にもナタリーだった。


「わたくしと、隣にいるアイラは、身分的にも頭を上げる事すら本来であれば許されない身。本当にこのような重要な場にいて良いものなのかと思いまして」


「そうだな、普通であれば場違いであることは間違いないが、シャロンが異世界人であることを知る者同士の顔見せは必須であったのと、ノエルたっての希望であってな、ノエル自身の手が届かない時や場も、そなた達であれば、シャロンを任せられると、こやつから聞いていたからな。我が、そなた達をこの場に呼ぶように指示した」


「そうでありましたか、―――」


ナタリーは、席を立ち深々と頭を下げた。


「では、わたくしとアイラ。この身に変えても必ずシャロン様をお守りすることをこの場でお誓い申し上げます」

「も、……申し上げます!」


と、ナタリーのその姿を見たアイラも慌てて弾けるように席を立ち、同じように頭を下げた。


「うむ。では、ふたりとも、頼んだぞ!」

「「畏まりました」」


揃って返事をし、席に着いたふたりの姿を見ていたオリオンの顔は、少し(ほころ)んで見えた。


私もふたりの言葉に嬉しく思い、緩んだ顔をしていたら、隣のブリトニーが、


「良き、従者をお持ちになられてますわね」

と、小声で話しかけてきた。


「えぇ。私には、勿体(もったい)ないくらい、自慢の子たちです」


私も小声でそう答えたら、ブリトニーは、にこりと無言で笑った。


そんなブリトニーが、一変して真剣で険しい表情を浮かべ、オリオンに声をかけた。


「陛下、意見といいますか、半分はご報告なのですが、先日行われたベルンツにて起きた、ヒース様への魔力暴走の一件と、わたくしに起きた案件をどう思われるか、ご意見をお聞かせください」


「わかった。話を聞こう」


ブリトニーは頷き、話を始めた。


「わたくしが、ノエル殿下とシャロン様が婚約発表をしたあのベルンツに向かう途中の出来事でございますの―――」


けれども、そう話し始めたブリトニーの報告は、ここに居る全員の更なる不安をかき立てるものだった。


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