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第38話   鬼胎の胎動




ガブドルの復活……。


それは、この世界の人達にとっては、『天災』。いや、『災厄』と言える。


けれど、ごく一部の魔族にとっては、『悲願』であることもまた事実……。


300年前といえど、千年にも及ぶ魔族と人族の血塗られた戦いの歴史がそう簡単に乾くはずもない。


それは、私がいた世界も同じだと身につまされる―――。


「あの、陛下。発言、よろしいでしょうか?」

ローランツが恐る、恐る、オリオンに訊ねた。


「あぁ、我の許可はいらぬ。思うままに発言するといい」

「では……。その、邪神ガブドルの復活は、誠でございますか?」


「我は、その気配を感じている。完全とはいかないまでも復活は間違いないであろう」

「そ、そんな!ガブドルはアルテナ様の手によって滅せられたと伝えられているのに。だとすれば人族と魔族の間で、また(いくさ)が起きると?」


「そうだ。その可能性は十分にあり、ガブドルが完全復活したなら、それは、避けられないだろう。そして奴の狙いは、王族もしくは魔族の権力者の誰かに憑依することだ」

「権力者でございますか?」


「あぁ、今までガブドルは、その大半が魔王もしくは、その直系の者に憑依している。今回も我を含めた王家の血筋を狙っているに違いない。そして、体を乗っ取られた者は、ガブドルの絶対支配に抗えず、意のままに操られてしまうことが知られている。よい機会だ、ガブドルの使う能力について少し長くなるが、皆には話しておこう」


オリオンは、真剣な面持ちで話を続けた。


「―――邪神ガブドルの『絶対支配』は憑依した者の体だけではなく精神や記憶をも取り込んでしまう。だから、ガブドル本人が明かさない限り、おそらく周りの者は、気付きもしないだろう。そして、もっと厄介なのが、奴は、言葉に魔力を込めることができる『カリスマ』を使って魔族に対し、ガブドルの思想の種を植え付け、魅了することができることだ。そして奴は、この能力によって魅了された魔族を従え、これまで人族との間で争いが起きるように陰から操っていたのだ。その結果、長きにわたり幾度も両者間で全面戦争が繰り返されてきた過去があり、ガブドルは、時には『英雄』として、時には『暴君』として、その渦中の中心に必ず奴の姿があったと言われている」


オリオンの話を聞けば聞くほど、ガブドルの復活は人族にとっても魔族にとっても厄災にしか思えない。


人々を魅了し、恐怖させ、死へと(いざなう)う。


まさに『死神』……。


「魔族と人族が和解して約300年。その懸け橋となりガブドルを倒したのが、魔族と人族の混血で女神と崇められる皆も良く知るアルテナだ。ガブドルの復活は、彼女との戦い以降、確認されていない。だが今、我らはその胎動を感じている。そして、我らがせねばならぬ事は、……」


皆、固唾を吞んだ。


「―――奴の『完全復活の阻止』と『完全な死』だ。今こそ魔族と人族で手を取り邪神を倒すため共に戦わねばならん!今の奴の状態は、そうだな例えるならこの世に生を受け母の胎内で産声を上げるのを待つ赤子の様なもの。そんな感じだととらえて欲しい。確たる証拠はないものの、復活の時を待っている。もしくは、既に復活を遂げ機会を伺っている。そんな気がしてならん」


「何ということだ……」

ローランツは、絶望に打ちひしがれて頭を抱えた。


「復活を遂げたガブドルの前では、我ら魔族は危うく、無力だ。奴の持つ『絶対支配』の前では、(あらが)うことが難しい。そうなってしまう前に何としても我らで阻止せねばならん!」


強い口調で訴えるオリオンだったが、オリオンの話に私達は難しさを感じていた。


復活を遂げ、産声を上げるのを待つガブドルは精神生命体。


実体はなく、見つけるのも困難。


才に秀でた、あのアルテナでさえ取り逃がしてしまった邪神を非力な私達で対処できるのだろうか?


そんな不安が湧き出てくる。


「―――とは言え、ガブドルと対峙するとなると不安になるのも当然であろう。実は、公にはされていないが、ガブドルは、アルテナとの戦いを免れ、いずれ復活すると我の曾祖父の時より予期されておった。ただ、問題は、我ら魔族ではガブドルが憑依した者を見分けることが出来ない事だった。だが、魔族では無理でも人族であれば、その見分けを可能にする者がいる……」


「誠で?それは誰ですか?」

セグナが、驚きの表情でオリオンに訊ねた。


オリオンは、小さく頷き答えた。

「それが、聖女だ!」


『聖女?!』


円卓に、驚きの声が重なる。


「だから我々は、人族と協力し、いずれ来るだろう厄災に備えることにしたのだ」


「陛下。ここからは、わたくしが……」


ブリトニーが、そう言って立ち上がり、オリオンは、黙って頷いた。


「アルテナ様とガブドルとの戦いから数十年程経って、わたくしの所属するパルテール教団は設立されましたの。初めは、この世界に平和と協和をもたらした功績から、アルテナ様を信仰神とし崇め讃える小さな集団でしたわ。それから、規模が大きくなるにつれ、アルテナ様に『存在』の力が注がれ、アルテナ様は、奇しくもガブドルと同じく精神生命体としてこの世に降臨を果たされたのです。そして、わたくしたちパルテール教団はアルテナ様の意思を継ぎ、ガブドルの天敵と呼べる存在、聖女の発見、保護、育成を目的に活動し、尽力して参りましたの。来る厄災と言えるガブドル復活時には、その根絶を悲願とし非公式ながらも歴代の魔王様達と共闘する約束を交わして……」


ブリトニーは、団結を促すように一人ひとりの顔を見ながら話を続けた。


「オリオン様の曾祖父でいらっしゃる元魔王のディラン様によって、ガブドルの解析が進められ色々とわかってきましたの。そして、ガブドル復活の兆しが観測され、今、それが現実のものとなってしまい、約束の通りこうしてわたくしが、代表として馳せ参じた次第ですの。今、確認されている聖女の数は、現在国交の無いジパの国のひとりを含めて七人。ただ、いずれもガブドルと互角に戦えたアルテナ様には遠く及ばず、ガブドルにしてみれば赤子のようなもの……束になったところで結果は見えておりますわ」


「我々には、打つ手なし……と言うことでしょうか?」

セグナが問いかけた。


「はい、残念ながらセグナ様のおっしゃる通り、今の私達に勝ち目がありませんの。せいぜい憑依した人物を見分ける程度……たかが知れていますの」


ブリトニーの話に皆、ため息を混じり合わせた落胆の表情を浮かべた。


「このような場です。皆さまの期待を膨らませるつもりはございませんが、対抗手段が全く無いわけではありませんの」


策があると知りオリオン以外の誰もが、続く、その言葉を待った。


「それは、聖女の上位存在、大聖女の存在です!」


『大聖女?』


皆、口を揃え聞き返した。


「ブリトニー様。聖女様は存じていますが、恥ずかしながら私は、無知で大聖女様なる存在を知りませんでした。本当にそのような方がいらっしゃるのでしょうか?」


「はい。存在はしますが……、まだ確認はされていません」


ハイメの質問にブリトニーは歯切れの悪い言葉を返した。


「ただ、大聖女であれば、邪神にも対抗できると考えております。アルテナ様の時代には聖女なる存在が認知されていなかったのであくまで仮説なのですが、恐らく当時のアルテナ様は、大聖女だったと思われますの。それから300年の間に大聖女と認められたのは、たったのひとり……そのお方も現在は消息不明で生死すらわかっておりませんの。残念ながら現時点では新たな大聖女の誕生が待たれる。そんな状況ですの」


「そ、そんな……300年経ってまだたった二人だけだなんて……邪神は目を覚まそうとしている中、こちらは切り札さえ手にしていない……」


そう言ったハイメの言うことは、もっともだった。


「けれど、わたくしは、まだ諦めていませんの」


誰もが暗い表情に対し、ブリトニーは、笑顔でそう言った。


そして、ブリトニーは、席から離れ私の横に立ち、


「それは、ここにおられる……シャロン様ですわ!!」


「!!!」

私は、びっくりしすぎて、声も出なかった。


「そして、何よりもわたくしが、ここへ来た最大の目的。それは、シャロン様が聖女……いえ、『大聖女』としての適性があるのかの見極めなのですの!!」


この時、何故かドヤ顔のブリトニーに、私は、世界の危機という渦中へ真っ逆さまに放り込まれたのでした。



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