第29・5話 閑話 【第一王子 ✕ 私 ✕ 恋心】
【今より十数年前】
「えいっ!!」
カーーーンッ!!
「ノエル!踏み込みが甘い!」
「やぁぁぁぁぁぁっ!!」
カキーーンッ!!
「セグナ!もっと相手をよく見て、フェイントに惑わされるな!」
高く澄んだ空の下、激しく剣を打ち合う音と声が響き渡る。
そこには、泥にまみれた幼き日のセグナとノエル。
そして―――、
二人を圧倒する存在感を放つ、第一王子ホークの姿があった。
「どうした?ふたりとも!もう、息が上がってきてるぞ。!無駄に力を入れ過ぎている証拠だ。それじゃ半時も持たない!」
「「はい!!」」
「ほら、ほら、手数が減っている!相手に余裕を与えるな!」
「「はい!!」」
三人は、いつものように剣術の鍛錬をおこなっていた。
乾いた金属音は、休むことなく鳴り続く。
◇
「そこまで!!」
ホークの声に剣を止め、鞘に納める三人。
「「はぁ、はぁ、はぁ、ありがとうございました!」」
肩で息をしながら、ノエルとセグナは声をそろえて頭を下げた。
ホークに促され、二人は日差しを避けるように、木漏れ日の揺れる柔らかな木陰へと向かった。
◇
「あぁぁぁ~っ、キツかった~っ」
「……。また、一本もとれなかった」
ノエルは、その場で大の字で寝ころび、セグナは、悔しそうに三角座りをしている。
「ほら、ふたりとも水分はしっかり摂れ」
ホークは、二人の間に腰を下ろし、水袋を手渡した。
横目で落ち込むセグナを見ていたノエルが、茶化すように口を開く。
「バーカ、兄上から一本なんて、百年早いんだよ!」
「うっさいわね!そんなのわかってる!!……わかってるけど」
また、いつもの口喧嘩が始まった。
「ふたりとも!喧嘩じゃなく、息の合った連携攻撃をもっとしないと。たとえ格上相手でも、連携の取れた攻撃は、それだけで相手を翻弄させ、隙を生み出すチャンスになるんだぞ」
「ふん!弱いくせに、セグナが生意気なこと言うから!」
「はぁ?!私は―――、私は、強くなった実感が欲しいだけ!!」
ホークは、汗を拭いつつ、ふたりにも布を渡した。
「いや、そんなことはないぞ。今でも十分強くなっている!毎日の鍛錬を怠らなければ、きっとお前達なら、あと数年で立派な魔剣士になれるさ」
「本当?!兄上!!」
ノエルは、目を輝かせて聞き返した。
「あぁ、本当だ」
ホークは、ノエルの頭を撫でた。
「そんなの遅いよ!!それじゃ、ダメなの!」
セグナが、言い放つ。
「ん?」
「―――それじゃ、遅いの!!」
強く握ったセグナの拳は、悔しさがにじみ出ていた。
「私は、早くあなたを守れるくらい強くならなくちゃいけないのに、それが条件なのに……」
「そうか、セグナは、あの時の約束をちゃんと憶えてくれているんだ」
優しく微笑むホークだったが、セグナには届いていない様子だった。
「もちろんよ!それが、私をここにいさせてもらう条件なのだから……」
「気持ちは嬉しいが、セグナ、焦らなくてもいい。オレは条件は付けたが期日は言ってないぞ」
「そうだけど……」
セグナは、納得のいかない表情で、またうつむいてしまった。
「何?条件って?」
「うっさいわね!あんたには、関係ないでしょ!!」
「何だと!!!」
「フンッ!!!」
「こらこら、ふたりとも!そんなんじゃ、いい連携なんてとれやしないぞ!」
ホークが仲裁したが、ノエルは腕組みをしてプイっとし、セグナは肩を落としシュンとなった。
「セグナ。お前は剣の筋もいいし、魔法の才能もある。剣術と魔術、日々の鍛錬。その努力が、お前をきっと強くする!だから焦らなくてもいい。私を信じ、自分も信じてやれ」
そう言ってホークはセグナの頭を撫でた。
セグナは、黙ったまま頷いた。
「!!、ん?そう言えば、お前のこの『第三の目』は、いったい、いつ開くんだ?」
そう言ったホークはセグナの前髪をクシャリとかき上げ、顔を近づけると閉じたままの第三の目を親指でそっと撫で上げた。
「はぁ?し、知らないわよ!そんなの!!」
セグナは、ビックリして立ち上がり、顔をあかくして、おでこを両手で隠した。
「あん?案外兄上が、おでこにキスでもしてやれば、ビックリして開くんじゃね?」
ノエルは、ニタリと意地悪く笑う。
「はぁぁぁぁぁぁぁっ?!」
「あぁ、なるほど、そうかもしれない!セグナ、一度試してみるか?」
「は、はぁ?な、な、な、な、何を?バ、バ、バ、バカじゃないの?!!!!」
セグナは、耳まで真っ赤になって後ずさりをし始めた。
「ノエルよ。セグナを捕縛せよ!!」
「ラジャー!!」
ノエルがすっくと立ち上がり、獲物を狙うようにセグナへ向かっていく。
「ちょっ……来ないでよ! ああっ、もう~っ、バカーーーーーッ!!」
セグナは涙目で庭園を激走し、ノエルがそれを追う。
「フフッ!ほら、セグナ、真剣に逃げないと摑まるぞ〜っ!!」
ホークのクスクス笑う声が、夕暮れの風に乗ってどこまでも響いていた。




