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第28話   『真心』でも、まだ言えない事




ノエルと私がこの部屋に入ってから、もうかなりの時間が経ったけど、まだ話は続いていた。


私の中にあった最大の不安―――『拒絶』という恐怖は、ノエルの全肯定によって消え去った。


けれど、すべてが晴れたわけじゃない。ノエルに打ち明けるべきことはほぼ言い尽くしたと思う。


ただ一つを除いては……。


それはこの世界のこと!そして、聞いたことの無い言葉、龍人(リュウト)


この世界には、私の理解を超えたルールが多すぎる。


そこから導き出せる答えは、私が意図せずに創り出した世界では無いということ。


だとしたら、いったい誰の?


私のいた世界とあまりにも酷似したこの世界が、自然に出来た世界とは考えられない。


この世界は、本当に異世界なのか?


私がいた世界のある一点を境に分岐したパラレルワールドの方がまだ現実味があるが、そうじゃない。


もしかしたら『作られた世界』……。


例えば本や小説の中の物語に描かれた世界に、私は迷い込んだのかもしれない。


―――そんなことを考えている。設定され、構築された世界。


誰かが書き記した台本のページを、私は、異世界という舞台で、なぞらされているだけなのではないか?


そう考えれば、あらゆる「都合の良さ」に説明がつく。


けど、そうでない可能性だって十分ある。


確信を持つにはもっと色々知らなくてはならないのかも……。


考えても分からない事を考えても仕方ないけど、考えずにはいられない。


私の頭は、さっきからそんな堂々巡りを延々(えんえん)と繰り返していた。


ノエルに相談したいけれど、あまりにも漠然としていて何の根拠も確証もない。


私は加護のお陰で私が確信を持って言える事には、どんな人でも信じてもらえるけど、根拠のない『かもしれない』は、私の加護を通せば単なる妄想に聞こえてしまうだろう。


確信を持って言えることしか、この加護は『真実』として届けてくれない。


ん~、こればかりは、今後もノエルに相談できそうにないかな。


もし、相談できるとしたらそれは―――、


私をここに放り出した張本人、『女神アルテナ』だけだ。


「!。どうした?不安なのか?」


浮かない顔をした私を見て、ノエルは気遣ってくれている。


「あっ、『……、はい』って……」


うぅ、加護のせいで嘘がつけない。


「申し訳ありません。こんな顔していてはいけませんね。しっかりしないと!」


私は、ぺちぺちと、軽く両頬を叩いて気合いを入れなおした。


「ありがとうございます。殿下!私に何が出来るのかまだわかりませんが、精一杯やってみます」


多分、強がっていることは見透かされていると思うけれど、彼は優しい目をして言葉無く頷いた。


「シャロン。これからの事を話す前に、ひとつ確認したいことがある」

「はい、何でしょうか?」


「君を異世界人だと知る者は君の両親であるローランツとその妻ハイメだけなのか?」

「えぇ、私が知る限りではそうですね」


「では、君と共に来たあの侍女達は知らないのか?」

「おそらくは、……確認を取ったわけではありませんから、知っている可能性はあります」


「そうか、……」

そう言ったきり、ノエルはしばらくの間、口を閉ざし二人の間に重い沈黙が流れた。


「シャロン」

「はい」


「色々考えたが、いくつか提案がある」

「提案ですか?」


「あぁ、君の意見を聞かせて欲しい」

「わかりました。それで、提案とは?」


「まずは、君を異世界人だと知る者を限定し、私たちの管理下におく。こちら側としては国王陛下、それから君の宮殿外の直接的な護衛を任せようと考えているセグナとヒース。後、転生について調べる上で、魔法魔術に精通していて昔より王家の師範を務めている者がいるのだが、私の魔法の師で魔法魔術の知識には長けているから相談する相手としては、この者くらいだろうか。そちら側は両親に加え他に打ち明ける者はいるかな?」


「ん~、そうですね。できればナタリーとアイラには、本当の事を知っていてもらいたいです。彼女たちとは話す機会が多いというのが理由ですが、本音を言うと私が、彼女たちには知って欲しいという感情的な面の方が伝えたい理由です」


「ナタリーとアイラといえば確か侍女のふたりだったな。秘密を守るには人数が少ない方がよいのだが……」

「打算ではなく、心から彼女たちを信じたい。私がこうして口にできるその想いもまた、私の『真心』の一部なんです」


私の言葉に、ノエルは片方の口角を少し上げた。


「ふっ、自分の言葉を逆手に取られるとはな……」

「だめでしょうか?」


「いや、君は嘘がつけないからな、何かの拍子に疑問に思われ、質問されてしまえばすぐにバレてしまうだろう。先に知らせておいて口止めをし、逆に補佐や協力をしてもらう方がリスクは少ないか……」


ノエルは顎に手を当て考えている様子だった。


「わかった!ふたりには打ち明けよう。では、当面の間は君と私を含めた10人ということにする」

「はい」


「では、早速だが明日から数日、ここでの君の予定は全てキャンセルして、もう少し後にと考えていたが君には国王陛下に謁見してもらう。その準備を整えよう」

「国王陛下?!」


「あぁ、近いうちにとは考えてはいたが、明後日には、カルヴィナ王国の国王で魔王である我が父、オリオン国王陛下に謁見してもらう」

「明後日?!そんなに早くですか?」


「そうだな。事の重大性と君にはまだ知らせていない、こちら側の懸念材料があってな。すまないが急がせてもらう」

「わかりました。ですが、その懸念材料とは一体?」


「それは、……」

そう、言いかけたノエルだったけど、今は話せないと口を閉じてしまった。


懸念材料というくらいだからあまり良い話ではないのだろうけど……。


(何だか引っかかるかも)


「お互いスケジュールの調整は必要だが、明後日には、この事を知る者に王宮に集まってもらい国王陛下に謁見してもらうことにする」

「承知いたしました。では、私は明日ふたりに話をします」


「うむ、陛下それにセグナとヒースにもこの後、私から打ち明けるが、かまわないか?」

「はい、私はそれでかまいません」


ノエルは小さく頷き、私も頷いた。


「では、侍女のふたりには明日の午後からこの部屋に来てもらって私と一緒に話をしよう」

「わかりました」


「最後にもうひとつあって拒否もできる。だが、できれば受け入れてもらいたい提案がある」

「……?あっ、はい。私にできることであるならかまいませんが……」


「私と君との間で『刻印』を結びたい」

「コクイン?ですか?」


ノエルの真剣な眼差しと、また、聞きなれない言葉に戸惑いを覚えたが、受け入れようと彼の提案を承知した。


後に、この『刻印の儀』は、私とノエルにとってかけがえのない絆となって、ふたりを結びつけるものとなる。


当然ながら、この時の私は、そのことを知る由もなかった……。








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