第24話 再会の花
バルカンとの会話は弾み、彼も上機嫌で差し出されたお酒をガバガバ飲んでいる。
(警護中だと聞いていたけど、大丈夫なのかな?)
「―――そう、そう!それで半べそで戻って来てな」
「へー、小さい頃、そんな事があったんですね。フフフ」
私は、彼の面白おかしく語る「ノエルの子供の頃の話」を聞いて、時折声を上げ笑った。
「あぁ、誰かの手を借りればもっと上手くできたはずなのに。……若は、昔から誰かに頼るのが下手でな。まぁ、だからこう言っては何なんだが、―――」
「?」
「若が、何か無理をしていると感じたなら、どうか肩を貸してやってくれないかな?」
「えぇ、もちろん。私みたいなので良ければいくらでも!―――と、まぁ、言いたいところですが、実際、私なんかで力になれるのかは疑問ですよ」
(どうしたのかな?急に)
「いや、側にいてくれる存在は何よりも大きいんだ。最近の若は色々無理をしているように感じてしまってな。どうか寄りかかってきたなら少しでいい支えてあげて欲しい」
「心得ました。そこまでおっしゃるのなら、その時は微力ながらお力添えいたします」
(その意図はわからないけど、気持ちは伝わったかな)
「すまんな……。いや〜今宵は良い話しが出来た。シャロンちゃん!また、われと話しをして下され!」
「『ちゃんって』、ふふ、はい、それはもちろん!私も楽しかったです」
「いったい何の話をするのだ?」
突然バルカンの背後から氷のような声が響いた。
「そりゃ〜、山ほどある若の恥ずかしい昔話を……。あっ!こ、これは若!!」
「ほぅ……。それは、実に興味深い」
振り向くバルカンの巨漢で私からはよく見ていないけど、バルカンの背後から確かにノエルの声がした。
「『その声は』、殿下?!」
「バルカン!正門の警護はどうした?!」
「そりぁ、今もやっていさ。あくびが出るくらい暇だがな。それじゃシャロンちゃん!怖いお人がきたからわれは退散するとする!」
バルカンは、慌てた様子で立ち上がる。
「あっ!コラッ待て!まだ話が終って―――、」
と、ノエルがそう言いかけるより早く、突然バルカンの姿が、かき消えるように消滅した。
「『消えた?』バルカンさん!?」
私は、立ち上がり辺りを見渡したが、ここにあの巨漢の姿はもう無かった。
「全く、あいつは、……」
ノエルは、バルカンが消えた事に全く気にした様子もなく、こちらへ歩み寄ってくる。
「すまなかったな。長く一人にしてしまって」
「いいえ、それは……。それよりバルカンさんは大丈夫なんでしょうか?突然姿が消えてしまいましたが」
「あぁ、大丈夫だ問題ない。あれはあいつの特殊スキルで一度に二体までなら自分の分身体を魔素で作り出すことができるんだ」
「ぶ、分身体?!」
「ある程度の距離なら遠隔も可能だ。多分ここにいたのはその分身体の一体。今頃、元の体に戻って正門の警護をしてるはずだ」
「そうだったのですね。よかった……」
私は椅子に座り直し、ようやく胸を撫で下ろした。
(それにしても、分身体で会話したり飲み食いできるなんて魔法って凄い!分身体だなんて、私が、いた元の世界で何度も欲しくなった術のひとつだわ!)
「やぁ、シャロン!楽しんでる?」
セグナが、ゆっくり歩きながらこちらに向かって来ていた。
「うん、楽しませてもらってるわ!」
「あ〜ぁ、シャロン、私もお腹がすいたから、横でご馳走になってもいいかな?」
「えぇ、もちろん!私達じゃ食べ切れないくらい沢山あるからどうぞ」
「おい、セグナ!それはシャロンに用意した物だぞ!」
「堅いこと言うなよ!シャロンだって、あぁ言ってるし、残したってもったいないじゃない!」
私は、ノエルに目配せをし、小さくうなずいた。
「まぁ、シャロンが良いのなら、それで良いが。―――ぁあ!どうして、こうも私の周りは勝手、気ままな奴ばかりなんだ!全く!!」
「ふふ、殿下もお嫌でなければ、ご一緒にどうですか?」
イライラして、こめかみに手をやるノエルだったが、
「フッ、そうだな。無事、こうして『再会』できたことだし、私も相伴に預かるとしよう」
ノエルはやれやれと肩をすくめて席に着いた。私たちは同じテーブルを囲み、穏やかなひとときを過ごした―――。
けれど、五人でも食べ切れないほどの料理がテーブルの上にまだ並んでいるし、サイドテーブルにもまだまだ、沢山の飲み物や食べ物が残ったままだった。
私は、それがどうしても気になり、どうせ食べ切れないことだし、料理は、調理してから時間が経つと美味しさが半減するものも少なくない。
出過ぎた真似とは思いつつも、私は、ノエルに、今、私の為に働いてくれている従者を含め、ここにいる全員にこの料理を振る舞えないか相談してみた。
するとノエルは、迷うことなく快諾してくれた。
後から知ったのだけれど、そもそもノエル達が使用人達と食事を一緒に取る行為はあまり好ましいものでは、なかったみたい。
けれど、ノエルは、私にそれを感じさせることなく、私のわがままを受け入れてくれていたのだった。
「皆、聞いてくれ!」
ノエルは立ち上がり、みんなの注目を待った。
「シャロンが、ここにいる全員に残ったものを全てを分けていいと言った。今から酒以外の物なら、この場で食べても持ち帰っても良いとする」
皆、意外な言葉に少し戸惑っている。
「―――私が許可する。折角だ手の空いた者から、今宵、『この良き日』を楽しんでくれ!」
ノエルのその言葉を皮切りにテンポの良い音楽が流れ始め、歓声と拍手が巻き起こった。
普段は口にできない豪華な宮廷料理を頬張る彼らの笑顔を見て、私の胸にも温かな灯がともった。
(周りから「黒王子」だなんて言われるくらい規律に厳しいノエルが、私のわがままを許可してくれた。私は、それがとても嬉しく思い、『ありがとう』と言う言葉が口からこぼれた)
「―――ふぅ〜、お腹も満たされたし、どうだ?ノエル!私らもシャロンの歓迎会に『あれ』で花を添えてやるか?」
セグナが突然立ち上がり、空を指さした。
「ん、あれ?あぁ〜!!あれか、わかった!」
そう言ってふたりは席を立ち、会場の中央に歩き出した。
「確か、ヒースもいたよな?」
セグナは額当てを少し上げて見渡している。
「おっ!いた、いた!おい、ヒース!お前もこっちに来い!!」
「!」
食べ物に夢中になっていたヒースだが、セグナの声にすぐ反応した。ヒースは手に取れる食べ物を幾つか取り、口に入れながら、こちらへやって来た。
「な~、ヒース。確かお前も指示魔法は使えたよな?」
「あぁ、使える・・」
「同時にふたつはどうだ?」
「問題無い・・」
「OK!じゃあ、私が『突撃』と『右翼攻撃』、お前は『後退』と『左翼攻撃』を頼む!」
セグナは、ヒースの肩をポンと叩き互いに左右にわかれ距離をとった。
「では、私は特大の『勝利』を―――」
ノエルはそう言ってふたりの間に立った。
言う間もなくして三人の手のひらから光の玉のようなものがクルクルと回りだした。
「シャロン!よく見ておけよ。ふたりともいいか?」
セグナの掛け声にふたりも頷き、私も固唾を呑んで頷き返した。
「「「せーの」」」
三人は声を合わせ一斉に空に向けて光の玉を解き放った。
光の玉は天高く立ち昇り段々と小さくなって夜空の星と見分けがつかなくなって見えなくなった。
―――と、思った瞬間だった!!
四つの鮮やかな、色の違う光が同心円状にグングン広がり中心からゆっくりと消えてゆく刹那。
そして、ほんの少しだけ後からドンッ!という鈍い音の後にパラパラと少し乾いた音が続いた。
この胸の内側を響かせる音と夜空に咲いた光の花には憶えがある。
そう。―――『花火』だ!!
消えた4つの花を感じて間もなく、さっきの数倍の大きさと明るさで、またひとつ咲いた!
今度は、その大きさと真下で見ていたこともあって、まるで星そのものが自分へと降り注いでくるような不思議な錯覚を抱かせた。
「凄い!綺麗……。『こんなの見たことない!』」
スローモーションのようにゆっくりと落ちながら消えてゆく、幻想的な光を見ながら私は『例の加護』のせいで、そう言っていた。
「シャロン、どうだろう?気に入ってもらえたかな?」
ノエルは上着を脱ぎつつ、私の所まできた。
「はい、それはもちろんです!これほどの手厚い歓迎を受けるとは思っていませんでしたから。殿下、本当にありがとうございます」
「それならよかった」
ノエルは脱いだ上着を私にそっと掛け、手を取った。
「少し冷えてきた。歓迎式はこのくらいにして部屋に案内しよう」
「はい」
私は、エスコートされるまま、私は出口へと向かった。
「殿下、少しだけすみません―――」
「?」
けれど、どうしても一言伝えたくて、私は扉の前で足を止めた。
ノエルは不思議そうな顔で私を見ている。
「皆さん、人族である私をこんなにも暖かく迎えてくれて、ありがとうございます!今日からお世話になります」
私は、ぺこりと頭を下げた。作業をしていた者たちは、私の思いがけない行動に少し戸惑った様子で見ている。
「バカ、使用人達に頭を下げるやつがあるか!みんな、どうしていいかわかんなくて困惑しているだろう」
私の横を通ったセグナが頭を軽くポンと叩いていった。
「えっ?ダメなの?!」
その言葉にセグナは少し笑いながら答えた。
「ぷっ、ダメではないが……。まぁ、シャロンらしいけどな」
「えっ?何よ!わかんないんだから教えてよ!『セグナの意地悪!!』」
「あぁ~、わかった、わかった!」
そんな私とセグナのやり取りをノエルは微笑ましく見つめていた。
こうして、ブルング宮殿の初日は、驚きの連続ではじまり、明日からここでの生活が始まるんだ。
◇
【魔王宮殿】
「無事に着いたか……」
魔王オリオンは独り、執務室の窓からブルング宮殿の空に消えゆく指示魔法の残光を見つめていた。
「ガブドルの影に、アルテナの使徒。……これは偶然なのだろうか?それとも―――」
オリオンの不安な呟きは、暗雲立ち込める未来を予見するように言霊となり、夜の闇へと溶けていった。




