第22話 思いがけない出来事
ノエルとセグナが幼馴染だということは聞いていた。
命を預けあう間柄でもあり、信頼も厚い。
だけど―――、
『男と女だ!!』
命の危険を感じるような危機的状況を潜り抜けた男女は、よく恋愛に落ちるなんて、どこかで聞いたことがある。
その時感じた緊張感と安堵感を、脳が恋だと勘違いするとか、しないとか!?しらんけど―――。
(ふたりは、どうなんだろう?そんな感情を抱いたことはないのかな?)
「ねぇ、セグナ」
私は、思いっ切ってノエルのことをどう思っているのか、聞くことにした!
「ん?」
「無粋な事を聞くけど、セグナってノエルのこと好き?」
「何だ、急に?」
「ん~、少し気になって」
ナタリーとアイラも素知らぬ顔をしているけど、しっかり聞き耳を立てている。
「そうだなぁ~。……好きだよ!」
「!!」
セグナは少し間をあけ、足を組み替えると、手を頭の後ろにまわしチラリとこちらを見てから話し始めた。
「フッ、とは言ってもシャロンの言ってる『好き』とはちょっと違うけどな。前にも言ったが、私は、アイツを男として見れないんだ。どちらかと言えばそうだな……親兄弟に近いかな。それに、―――」
「それに?」
「ん~、まぁ、お前たちなら聞かれてもいいか」
「?」
あれ?セグナの顔が少し赤くなった?
「つまり……。その~なんだ、私には好きな人がいるから……」
「?!!『ちょっと!ナタリーさん、アイラさん、耳がダンボになってますよ!私もだけど!』っといけない吐露っちまった!」
私が、心の窓全開で本音を吐露したせいで、素知らぬ顔をして聞いていたナタリーとアイラは目を泳がせ、車内に何とも言えない甘酸っぱい空気感が漂った。
「えっ?!好きな人いるの?」
「あぁ……」
鼻の頭をポリポリかきながら、あの凛々しいセグナが少女のように顔を赤らめる。
「『えっ、年上なの? どんな人? 相手も魔族なの!?』」
私は、つい知りたくなってまたもや、ヘボ加護を暴発!しかも連射モードになってしまった。
三人の視線がセグナに集まる。
「あぁ、……って!私の好きな人のことは、もういいから!!今はノエルに対する私の気持ちだろう?!」
「ふふ、そうでした。ごめんなさい」
「そういうことだから、お前が気にする必要は無いってこと。安心しろ」
「うん、わかった。ごめんね変なこと聞いちゃって」
(セグナの想い人はかなり気になるけど、これ以上、前に踏み込むと相手は騎士様。バッサリ斬られてしまいそうだ……やめておこう)
「おっ、そろそろ到着だ」
そう言ったセグナの目線の先に見えてきたのは、どこかのテーマパークを思い起こさせるほどの大きさで、この世界で見てきた邸宅とは比べ物にならないほどに、壮観な眺めだった。
宮殿自体も凄いが、点在している建物も素晴らしい。それに圧巻の整えられた庭園。
私は思わず、「『凄い……』」本音が出たが、そんな言葉しか出てこなかった。
「そうだろ?!ここは陛下が皇太子時代にお使いだった宮殿だ。各施設もとても使いやすく、洗練されているぞ」
「そうなんだ……凄すぎて他に言葉が見つからない」
「ちなみに、だが。ここ、ブルング宮殿は諸外国の要人たちも見学に来るほど有名な所なんだ」
「こんな立派な所を私が使っていいのかしら?」
「おそらく陛下が用意してくださったのだろう。存分に使うがいいさ!誰が見ても『素敵なレディ』だと思ってもらいたいんだろ?」
「えっ?もう!セグナったら。プレッシャーかけないでよ」
「プレッシャーじゃないよ。『覚悟を決めなっ!』ってこと。一国の王子の求婚を受けたんだ。そのくらいでビビるんじゃね~よ」
私の心を見透かしたように、ニヤニヤ笑うセグナ。
ちょっと言い返してやりたかったが、自信がないうえに図星だったから、それは出来そうにもない。
「わ、わかってるわよ」
これが、精一杯だった……。(はぁ~情けない)
馬車はスピードを落とし、宮殿の門をくぐって奥へと進んでいった。
何やら、慌ただしく行き来する人達が目につく。
何だろう?
そう思っている間に馬車は正面玄関へと着車した。
馬車の周りで何やらゴソゴソと音がしているが、たぶん御者が降りる為の踏み台を用意してくれているのだろう。
さて、降りるとしますか……と思った直後、セグナが私の前に入り、馬車のドアを開けながらこう言った。
「うふっ、サプラ〜イズ!!」
「……!!?」
(え~っ?ちょっと!何も聞いてないんですが!!)
私の目線の先には、馬車から正面玄関まで一直線に伸びた赤い絨毯。その両サイドに執事やメイド達が並んで立っている。
たぶん、私が馬車から降りるのを待ってくれているのだろうけど、―――これは?!
「ほら、何を呆けてる。主役が降りてこないと始まらないぞ」
なかなか降りようしない私に、しびれを切らしたセグナが手を差し出してそう言った。
馬車を降りた瞬間だった。
「『「ようこそ!シャロン様!!」』」
出迎えてくれた皆が声をそろえて歓迎の声をくれた。
私に対し、手前の執事やメイド達が順番に一礼をしていくので、波のようにに玄関の奥へと吸い込まれていく。その光景の主役が自分であることに、足がすくんだ。
「こ、こ、これ……どうしたらいいのよっ!?私、こういうの苦手なのに……」
「ふふ、だと思ったから黙ってた」
(く~っ、してやられた!)
「あまりキョロキョロせずに、前を向き、目線をやや下に向けながら通り抜ければいい」
「あ、ありがとう……うん!わかった。」
一気に緊張が高まった私は、セグナに言われるがまま従い、靴を履いていても毛足の長さが伝わってくるくらいの赤い絨毯の上を歩き始めた。
どうやら、みんな私が通過するまでお辞儀したままなので、何だか気持ち早足になってしまう。本当はゆっくり優雅に歩かないといけないのだろうけど……。
(トホホ、これだから凡人はダメね)
あれ?!一番奥の人だけ普通に立ってる―――、ん〜っ!!?
「えっ!??ノエル殿下?!」
私は、思わず歩みを止めてしまった。
「どうして―――?確か今日は来ないって……」
訳が分からず、あたふたしている私にセグナが後ろから小声で言ってきた。
「だから言ったじゃん!サプライズ(予期せぬ出来事)だって」
「!?」
セグナは、素知らぬふりでニヤニヤしている。
(あぁ、完全にセグナに、はめられちゃった!もうっ!)
「殿下……」
プチパニック状態ではあったが、私は、ノエルに対し、お辞儀はちゃんと出来た。けれども『心』の準備が出来ていない。
「やぁ、シャロン。待ってたよ」
優しく微笑み、ノエルは手にしていた大きな花束を私に差し出し、サッと庭園の方へと自然にエスコートし始める。正に、完璧王子だ!
「『う~っ。これじゃ余計に私のアタフタっぷりが目立つじゃない!これだから非の打ちどころのないイケメンは困る!』……ってまただ!申し訳ございません!殿下」
「ふふ、ん?何のことだ?」
(嘘おっしゃい!)
しっかり聞こえていたはずなのに、はぐらかされた。
「隣町といえど、長い時間、馬車での移動で疲れただろう?」
「『はい、それはもう、大変疲れました。お尻が痛い!』」
……数秒の沈黙。
「あっ!……って、ここは慎ましく(そうでもありませんわ!ふふふ)と言うべきでしょうが!も~ぅ、やだ!この加護」
またもや、例の『ヘボ加護』のせいで私は、ひとりでノリツッコミするはめに……。
「ハハッ、たぶん移動で疲れてるかもしれないと思って、あまり作法を気にしないで済む屋外での歓迎式にしてみたんだが」
綺麗に整った庭園に沿いテーブルが配置され、食べ物や飲み物が置かれ飾り付けもされている。
「―――どうかな?」
「えっ?これ、私の為に……ここまで?」
「あぁ、だがすまない、到着はもう少し後だと聞いていたから、まだ一部用意できていない物もあるのだが、ゆっくりとくつろいで欲しい」
「は、はい!お心遣い感謝いたします」
「あぁ、皆、君の到着を楽しみにしていたから、遠慮せず楽しんでくれ」
ノエルは、にこりと笑顔で頷いた。イケメンなのに飾り気のないその笑顔に、私の鼓動のBPM値は医者が心配するくらいに高くなってしまっている。
中央の席に私が、両隣にナタリーとアイラが案内された。ナタリーとアイラも今日は、ゲストとして扱ってくれ、私達三人が席に着くと音楽が静かに流れ出し、歓迎の宴が始まった。
暫くしてセグナは報告があるからと、ノエルと一緒にどこかへ行ってしまった。
(ふたりとも早く帰ってきてね。てっ……これじゃ、まるで狩りに行った母猫を待つ子猫じゃないの!ここにいる皆、私達の為に一生懸命準備してくれたんだから、こんな借りてきた猫みたいになってちゃダメよね。こういうことには、まだ慣れていないけど楽しまないと申し訳ない!)と、そう思った。
「ナタリー、アイラ!みんなの折角の厚意です。移動の疲れを癒されちゃいましょう!」
ナタリーは小さく頷き、アイラは大きく何度も頷いた。
こうして、私の離宮生活は、予想外の温かさに包まれて始まった。




