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第21話  無自覚な嫉妬




ガタゴトと、不規則に続く馬車の振動。


私は今、ノエルが用意してくれた王族専用の馬車で魔王宮の近くにある離宮『ブルング宮殿』へと向かっている。


私は、てっきり魔王が住む所の『魔王宮殿』に移り住むと思っていたのだけど、セグナの話によると、どうやらブルング宮殿が私の住む場所なんだそうだ。


今朝、早い時間に向こう(アルカイド邸)を出発してから、既に随分な時間が経過していた。


「日が落ちるまでには着きます」と言っていた御者の言葉通り、窓の外には夕刻の淡い光が満ち始めていた。


そこで始まる生活の詳しい説明はどうやら、着いてから教育の責任者から受ける予定だという。夜の到着になるため、ノエルや魔王との謁見は早くても明日以降になるそうだ。


私としては、出来れば今日中にノエルに会って本当のことを話して、相談したかったんだけど……仕方ない。わがままが言える立場じゃないもんね。


「ふぁ~っ」

アイラが眠気に耐えきれず、大きなあくびを漏らした。


「アイラ! 」

アイラの緊張感の無さに、少し呆れた様子のナタリーは、少しきつめの口調で言った。


「すみません……」


無理もない。慣れない長旅で、みんな疲れが限界に来ているのだ。


「いいわよ、あくびくらい。私もお尻が痛くって、今、靴を脱いでナタリーに膝枕でもしてもらおうかと思っていたところだったわ」


私は、そう言って少しだけナタリーに寄り掛かった。


「もう、お嬢様は、すぐそうやってアイラを甘やかすのですから……」


「ふふ、この4人なら気兼ねする必要なんてないってことよ。ねっ、セグナ」


「ん? あぁ、私は構わん。気にもしない」


セグナは窓の外を監視する鋭い眼光を緩めることなく、短く答えた。


「ほら」

ナタリーは、やれやれという感じで私を見た。


「――にしても、セグナは全然平気みたいだけど……」

「ん? ただ座っているだけだからな。こんなの日々の鍛錬に比べたら、苦にもならん」


うん! さすがは騎士様!


「どれどれ……」


私はそう言いながら隣に座ると、セグナの裾を躊躇(ためら)いもなく、めくり上げて、お腹周りをチェックした。


「――『Oh~! six pack!! 』」

凄い! 彼女のお腹は、見惚れるくらい鍛え上げられていた。


「おい、コラ! もう! ! めくるんじゃない! ! 」


バシッ! !


「痛~っ! 」

そうやって、じゃれた私に、セグナのチョップが脳天に落ちた。


「鍛えているって言ってたから、つい気になって……『てへ♡』」

「何が、ついだ! もうっ! 」


少し恥ずかしげに顔を赤らめ服を整えるセグナ。


「でも、凄いね。この体をキープするのに毎日鍛えているんだ」

「そうだな、『要人の命を守る』のが、私の役目だからな中途半端は絶対に許されないさ」


私は、彼女のストイックさに興味を覚え感心した。――多分ヒースもそうなんだろう。


「ふ~ん。でも、大変じゃないの? 」

「そりゃ大変さ。けど、幼少の頃から王族に仕えてきた私だからこそ、これは私にしか出来ない事だし、期待もされている。何より私自身、この役目に誇りを持っているからな」


そう、力強く自信に満ちたセグナの言葉は、私の心を突いた。


(今までの自分はどうだっただろ? )と、比べてしまったからだ。


もちろん、生まれた世界も環境も違うから比べるのはおかしいけど、その事を考えずにはいられなかった。


この世界は、私のいた世界とは比べ物にならないくらい厳しく、過酷だ。


もし、元の世界に帰れなかったら、私はここで生きていくしかないのに、その覚悟ができているのか?


自信が無い …… 。 彼女のように、自分を誇れる生き方ができるのか?


(ううん、ダメね。また弱い自分が出てきている。何があっても頑張るって決めたのに)


「はぁ~」

思わずため息が出てしまった。


「どうした? 浮かない顔して」

「ううん、別に『不安がいっぱいで、どうしようもないだけなんだけど』大丈夫……あっ……」


途中で加護の暴走に気づいた。が、もう遅い。


「ぷっ……心の声が洩れてるぞ」

セグナは、クスクス笑い出した。


「もぅ! 恥ずかしいな! ! どうやったらこのヘボ加護を制御できるのかしら? 」

隠したい心の内を皆に聞かれ、赤くなった私。


「制御なんて出来ないだろう。加護を受けた時点でお前と加護は一心同体なのだから」

「そりゃそうだけど……でも、知られたくないことくらい誰にだってあるじゃない! 」


「そうだな、あるな」

セグナ! そう言いながらも、まだ少し肩が震えているじゃない!


「も~う! 人ごとだと思って! ! 」

私は、頬を膨らまし、怒っているアピールをして見せた。


「いや、すまん、すまん。だが、そんなに不安ならノエルにぶつけてやれ」

「殿下に? ! 」


「あぁ、世間やアイツをよく知らないやつの間では『腹黒』だの『黒王子』だの『逆らえば消される』『慈悲など持ち合わせていない』というやつもいるが、私から言わせてもらえば、あいつは真面目で誠実な男だ。言葉が足らずで誤解を生みやすいが、必ず向き合ってくれる」

「そ、そう、なの? 」


「うん」

セグナは小さくだが、自信に満ちた頷きをした。


「でも、この加護は、ほんと憂鬱……も、もしよ ! もし、これから私が、殿下のことを本気で好きになってしまって、殿下に『お前は私の事が好きか? 』なんて聞かれたら『うん、大好きです! ! 』って、言ちゃうんでしょ? ! そんな事になったら私、恥ずかしくて死んでしまいたくなるわ」


そうよ! この加護がある限り、私は絶対に『ツンデレキャラ』にはなれない! 別になりたいわけではないけど、『デレデレキャラ』なんてただの、【おバカ能天気女】じゃない? !


「ぷっ、そうなったら傑作だな」

「もう、笑わないでよ! あぁ~あ、私は、このまま死ぬまで男の人をキュンとさせたり、萌えを感じさせたり、しないんだろうな~」


口を尖らせた私にセグナは、肩に手を掛けてきた。


「そんな事ないさ、君は十分魅力的だよ。それに、ノエルならそんな言い方はしないだろうな。おそらく……」


するとセグナは、突然、目の前に座っているアイラにひざまずき、目を見つめ頬に手を当てた。


「――『どうやら、私は、君を好きになってしまったようだ。君は、どうかな? 』こんな感じかな」


なされるがままのアイラの頭からは湯気がボムと出て、その様子を見ていたナタリーは、少しムッとした。


「本当? 」

「あぁ、言葉に出すなら、こんな感じだろうな。けど、ただ見つめてしまいそうな気もするが、……まぁ、小さい頃からずっと一緒に過ごして、アイツを見てきたから、そう思うだけなのかもしれない。けれどアイツは、君の『真心』の事をよく理解している。だから、その弱みに付け込み、君が困ってしまうような質問は絶対にしない。そういうやつだよアイツは」


セグナの言葉には、ノエルへの揺るぎない信頼が溢れていた。きっと逆もそうなのだろう。


二人の間にある、私には到底及ばない長い月日の重み。彼の話をする時の顔を見ればわかる。


「――そう心配するな。この前は時間がなくって、ろくな話もお互いできなかっただろうが、これからは一緒に過ごす時間は充分にある。だから不安を感じたら真っ先にあいつに相談しろ……何とかしてくれるさ」

「う、うん……」


「それに、憶えているか? ベルンツで会った時に幾つかの約束をしていただろう。あいつは約束を絶対に破らない。今までそうやって周りからの信頼を得てきたんだ。だから大丈夫だ! 私が保証する」


ノエルのことをよく知らない私は、頷くしかなかった。


「うん、わかった……」

少しは気が晴れたが、――でも、なんだろう?……少し(もや)っともした。

多分、ノエルとセグナの関係性にだ。


これは何?『 嫉妬? !』……。なのかな?


けど、このままじゃ何かがつっかえたままだから、私は思い切って聞いてみることにした。


ノエルに対する、彼女の『本当の気持ち』を――、


それを確かめず、この感情に『名前』をつけないままでは、この馬車から外へは、一歩も降りられない気がしたから。








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