第17話 家族会議【心の声ダダ漏れ中!お静かに】
【ローランツ屋敷の応接室】
「ゆ、許さぁぁああああんっ!!」
廊下まで突き抜けるような絶叫が響き渡った。
「――僕は、絶対に許さんからな!そんな、どこの馬の骨とも知れないような男に娘はやれん!」
「いえ、馬の骨ではなく、カルヴィナ王国、第二王子、ノエル殿下にございます」
ローランツの言葉をセグナがバッサリと切り落とした。
(さすがは騎士様!)
ローランツは、まるで駄々っ子のように顔を真っ赤にして、かなり興奮した様子。
「ぬぐぐっ…… と、とにかくだ!ダメなものはダメだ!!ダメだ、ダメだ!ダメだああああっ!!」
まるで訪問販売員を追い払うかのような勢いで、ローランツは立ち上がり更に声を荒げる。
「え~っと、お父様はどうしたの?」
「男親特有の病気みたいなもんよ。気にしないでいいわ」
ハイメは、私の質問に肩をすくめながら答えた。
「シャ、シャロン!」
「ハイ、何でしょう?お父様」
「まだ結婚を急ぐほどの歳でもないだろう?!考え直すんだ!」
ん~、このままだと、話の埒が明かない。…… どうしよう?
セグナやヒースも立たせたままだし、落ち着いて話ができるように一度、場を整える必要がありそうね。
「えぇ~と、一旦、私たちだけで話した方がよさそうね。セグナ、ヒース悪いけど一度、家族会議をしてみるわ。ふたりはその間、別の部屋で待ってもらってもいいかしら?」
私は、セグナの近くに行き、扉まで同行した。
「わかりました。行くぞ、ヒース!」
ヒースは、何も言わずコクリと頷く。
「ごめんね、終わったら声かけるわ」
私は少し声のトーンを落として、セグナにそう言った。
「フッ、あぁ、かまわないよ。気にしないでくれ」
同情されてしまったのか、セグナはウィンクしながら苦笑いでそう答えた。
私は、扉近くにいたナタリーに声をかけ、二人を案内させることにした。
「ナタリー、ふたりをお願い。使う部屋は、お父様に聞いてもらえるかしら」
「畏まりました、お嬢様。旦那様へお伺いを立ててまいります」
(さて、ここからが本番だ)
まだ恋にすら発展していない彼との、あの「事故」のような馴れ初めを、私は少しの気恥ずかしさを抱えながら両親に詳しく話し始めた。
「――、というわけなの…… まぁ~、成り行きとは言え、けっして曖昧な気持ちでの決断では無いからそこは、わかって欲しいかな」
「えっ?じゃぁ、あなたが異世界人だと言う事は伝えなかったの?」
「えぇ、殿下はそれ以上、踏み込まないでいてくれたから。彼はまだ知らないわ」
「ん~、だとしたら…… もしも、あなたが異世界人だと打ち明けた時、あなたが元の世界に帰れないように帰還方法を隠蔽することだって考えられるわよ。…… ううん、きっと教えてもらえないわよ!」
「うん!『…… 鋭いわね。商社のシビアな交渉の場でも、そこまで即座に最悪のシナリオを読める人は少ないわ。さすが私のお母様!頼りになる!』それは、わかってる」
「わかってるって…… 」
自嘲気味な笑みを浮かべた私を、ハイメは、「顔を赤らめて」から心配そうに見つめた。
「私は殿下に真実を知ってほしいの。『たとえ、嫌われることになったとしても、偽りの仮面を被ったままの私を好きになって欲しくは、ないから…… 』すべてを打ち明け、それでも(こんな私を好きになってもらえますか?愛してくれますか?)って、彼に問うわ」
ハイメが私の横で顔を曇らせる。その心配が痛いほど伝わってきた。
「――ありがとう、お母様。心配してくれて…… でもね、私、決めたの。たとえ帰る方法があったとしても、どのみち私が転生させられた本当の理由を知るまでは、帰るつもりはないわ」
「シャロン…… 」
「『そう!今の私はシャロンなの!この世界に必要とされ転生させられた異世界人だけど、この名前と体を受け継いだわ。どうしてかは、まだわかんないけど…… 』強がりかもしれない…… けれど、それを知り成し遂げるまでは、この名前を汚すような真似は絶対にしたくはないの。『彼女が遺した(この体)と(この名前)を、ただの空箱にはしたくない。私がここで生きる証として、彼女の意志と共に気高く守り抜きたいの』」
「あなたって子は…… 」
私の言葉を聞いたハイメはさっきまでの表情とは打って変わりパッと明るさを取り戻した。
「――そうね、私もあの子が、あなたに託した思いを知りたい。その為ならローランツとふたりで、できる限りのことはするわ…… って、もう!ローランツ!!いつまでもそんなところにいないで、あなたもこっちに来てこの子の話を聞いて!!」
ハイメが部屋の隅でいじけているローランツに詰め寄り、何やら小言を言いだした。――やれやれ、これは長くなりそうだ。
普段からのおこないのせいか、ローランツはハイメにずいぶん油を絞られたようだが、私たちの話はちゃんと聞いてくれていたよで、婚約には渋々だけれど、最後は父親らしい顔で婚約を認めてくれた。
ごめんね。パパさん!
…… 本当に、人に恵まれているわ。この二人に出会えただけで、転生した価値があったかもしれない。
ふと、胸の奥から熱いものが込み上げてきた。出会って数日。本当の血縁ではないけれど、二人から注がれる愛は、間違いなく本物だ。
「『ふたりともありがとう!大好きよ!!』」
嘘、偽りのない、私の本当の気持ちだった。
突然の言葉に面食らった様子のふたり。
「…… もう!何よ、急に」
「あぁ…… うん、僕にはもっと、言ってくれていいんだよ!」
と、ふたりとも、私の言葉に少し照れた笑顔でそう、言ってくれた。
人脈は少ないが信用のおける人たちばかりだ。これも元のシャロンが、この歳まで築き上げた本当に大切な変えることのできない彼女の財産なのだろう。
(…… でも、どうして彼女は、こんな居心地のいいところから『茨の道』を選んだの?)
私はそれが知りたい。多分、それが私が呼び出された理由に繋がるに違いないから。
私は決めた!!
これまでみたいに、人の顔色で選ぶ人生なんてもう嫌!間違ったっていい。自分で選び決める事こそが大事なんだ。
もう、誰かのせいや何かのせいになんてしない!!そう強く思った。まだまだ、不安でいっぱいだけど、何だか心は少し軽くなった気がする。
先ずは、私が呼び出された理由を知り、何をするべきか…… そこから始めよう。
その為なら、たとえ、王子様だろうと魔王様だろうと利用してやるわ!頼れるものは頼って、私は前に進む!
私の決意は固まった。
ノエルにも全て打ち明ける決心がついた。彼に嘘はつきたくないし、本当の私を知って欲しい。
もしかしたら、その結果、全てが無駄になるかもしれないけど…… でも、そうなったのならまたその時、考えればいい。
楽観的過ぎるかとも思ったが、そう考えれば今、不安で立ち止まりそうな自分の背中を押せそうな気がしたから。
ローランツに対するハイメの小言はまだ続いていて、もう少しかかりそうだったから、私は部屋の外で待たせているアイラにセグナとヒースを呼んでくるように言った。
こうして、私たちの家族会議は終了した。
…… が、ハイメの「さっきから気になってたんだけど、あなた心の声が結構な頻度で、聞いているこっちが恥ずかしくなるくらい漏れてるわよ。気がついてないでしょう?」
その言葉に、私の頭から湯気が勢い良く立ち上がっていくのを生まれて初めて実感した。




